7 改心
(私は、改心したんだ!)
ぐっと拳を握って、レジナルドはそう思った。
思い出しているのはローズマリーのことだった。
ほんの数ヶ月前までは彼女に対する、怒りや憎悪でどうにかなりそうだった時期もあった。ローズマリーと会ってすぐも彼女に都合のいい言葉を並べて、自分の管理下に戻そうと躍起になっていた。
しかしその後、彼女の本当の心を知ってレジナルドは心を改めた。
たしかにレジナルドは、ローズマリーを思うように動かそうとしていたし、実際に、魔法学園卒業後に事務官の試験を受けさせてやる気なんてなかった。
結婚式の話を持ち出して、仕事を任せて考える間を与えなければやり過ごせると思っていたし、その後子供を産ませれば静かになるだろうと踏んでいた。
しかし、女というものは執念深く、性格が悪い。
普通ならもう許して、諦めて静かになるところをローズマリーはレジナルドを捨ててまで自分の道を選んだ。
それは屈辱的なことであり、メイスフィールド侯爵がケンドール伯爵家を訴えたために、ローズマリーに送った手紙が露出し、学園にもいられなくなった。
跡取りの地位を失い、実家は賠償金の支払いで厳しい。
こうなったのはなぜなのか?
答えは単純、レジナルドがローズマリーの性格の悪さを見誤っていたからだ。
主導権を握る立場としてレジナルドが未熟だったからである。
だからあんな奴に一杯食わされて、惨めな思いをした、けれど今は違う。
レジナルドは拳をほどいて、くっと顔を上げる。
そこは後継者教育を始めた妹ベアトリスの部屋だった。
彼女と家庭教師を見張れる位置に置かれた椅子にふんぞり返って座り、妹がうつらうつらとしているのに気がつき、レジナルドは即座に立ち上がった。
ベアトリスの机の端に置いてある鞭を手に取ると、無意識に胸が高鳴り、使命感に鞭を握る手に強い力が入る。
「ベアトリスッ!!」
「っ!!」
名前を呼びながらベアトリスの腕に鞭をたたきつけると、妹は飛び上がって驚いて、たたかれた腕を押さえて肩をすくめる。
「ごめんなさいっ、ごめんなさい……」
そばについて教えていた家庭教師は、そっと目をそらして、静かに説教が終わるのを待っていた。
「何を気を抜いているんだ? これはお前のための教育なんだ。私だって寝る間も惜しんで君の見張りをしていると言うのに、当の本人がやる気を出さなくてどうするっ!」
「……やる気はっ、あるわ」
「なら、なぜ居眠りなどしようとしたんだ! 言って見ろっ!」
「つ、疲れて、しまって」
「疲れなんか、教師も、私も、感じている普通のことだ。君は今まで、女だからと甘やかされていたが、今は皆がお前に期待してるんだっ!!」
「……はい」
「父上も母上も、今の厳しいケンドールの希望として君が活躍するのを望んでる!」
「はい」
「期待に応えたいだろう? 君のために私はここまでしてるんだ!」
厳しく、しつけると妹はおとなしく頷いて、うつむく。
その様子にレジナルドは、えもいわれぬ快感を覚えて、全能感に体がしびれた。
これだ、これこそが自分にとって正解だ。正しい教育を施してやって、認めてやって、さらにベアトリスが力を伸ばせるように手を尽くしてやっている。
ローズマリー相手のように油断したりしなければ、全部うまくいく。
本来ローズマリーだって、あの手紙がなければレジナルドの手によって導き出された最適解のレールの上を走っていたはずだ。
そして感謝したはずだ、周りはレジナルドが正しい人間で、ローズマリーの手綱を握ってしかるべき男であると認識したはずだ。
それに失敗したのは、気の緩みがあったから。
(俺は改心した。もう少しも油断しない)
レジナルド自身の名声は地に落ちた。回復のしようもない。
しかし、レジナルドが教育し管理した妹が成果を上げて評価を受けていけば、一時の失態など取り戻すことができるだろう。
レジナルドの正しさが証明されれば、自分が執念深く頑固だったことをローズマリーも恥じるだろう。
このベアトリスを完璧にすれば、ローズマリーはレジナルドの隣に戻りたいと望むだろう。
今までだってレジナルドはローズマリーのことを何度も導いてきた。
彼女のドレスの色も、デートの行き先も、友人もレジナルドが指示して、リードしてやっていたんだ。
そのレジナルドの行動は正解ばかりだった。
それを再度証明すればいいだけだ。
(そうして戻ってきたら、もう二度と逆らわないと誓わせよう。一度の屈辱ぐらい許してやる。私は、器の大きな男だからな)




