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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「漂」の章

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9/9

監視カメラ

***監視カメラ***


 ネットゲームを通じて知り合った友人と、メッセンジャーアプリでやり取りしていたときのことだ。

 わたしたちは暇を持て余していた。ゲームはマンネリ化し、面白いアップデートもない。

 そんなとき、友人――「シャブ太郎」とでもしておこうか――シャブ太郎が「あるサイト」を勧めてきた。


 見知らぬ海外ドメインのURLだ。

 わたしは少し警戒したものの、リンクをクリックしてサイトを開いた。

 画面いっぱいにいくつもの動画サムネイルのようなものが並んで現れた。

 わたしはサムネイルの内容を見て、すぐに気が付いた。


「これって、監視カメラ?」

「せやで。監視カメラの映像が見れるサイトや」


 シャブ太郎はこともなげに言う。なんらかの罪に問われそうだが……。


 監視カメラの普及率が上がっていたこの時期、C国製品が広く流通していた。

 しかも、パスワードを出荷状態(全機同じ番号)のまま変更しなかった利用者が多数いたため、映像をハッキングされて誰でも閲覧できる状態にされるという事件が多発していた。


「色んなとこのん見れておもろいで」


 カメラ映像のサムネイルの上には、カメラのID番号が打たれている。

 メニューにあるタブを操作すれば、日本以外の映像まで見られるようだ。

 多くは防犯用で使用されているらしく、店舗や駐車場、玄関先の映像が多数を占めていた。時刻は深夜だったため、映像は暗く、ひとけもない。

 ページ数は四桁にも及んでいる。どれだけの数が流出しているのだろうか。


「何番やったかな。7ページ目、開いてみ」


 シャブ太郎の言う通りにページのナンバーをクリックする。

 別のサムネ群が現れ「いちばん左下や」と、いざなわれてカメラ映像を開く。


 すると、ウシを斜め上から俯瞰したカメラ映像が現れた。


「牛舎か」

「せやで。暇なとき、ずっとこれ見てんねん」


 どんな暇人だ。


「夜中なのに起きてるな」

「ウシは一日にトータルで二、三時間しか寝んらしい。マジ寝の寝転んでるタイミングはレアやで」

「へえ。っていうか、そのためにこんなサイトを使ってるのか」

「メインはそれやけど、ごくまれにおもろいのもあるなあ」

「なんだ? 幽霊とかポルターガイストとかか?」

「あー、そんなんは期待せんといて。まあ、見てみ」


 シャブ太郎が見た「おもろいの」が紹介される。


「27ページ目の誰か寝とるベッド映ってるやつあるやん? これ、介護施設のカメラやねんけど、夜七時すぎくらいに介護員がメシ片づけに来て、毎回じいさんのことしばいとるねん」


「おい、虐待じゃねーか」


「じいさん食うの遅いんやな。俺も小学校のころ遅くて、教師に給食頭に掛けられたわ」


 突っこみが追い付かない。


「虐待いうたら、301ページにあるやつや。電車のおもちゃ出しっぱなしになっとるやつ。託児所だか施設だかしらんけど……」


 シャブ太郎は解説を続けたが、ここでは割愛する。


「えぐいのだけやのうて、エロいのもあるで。728ページ見てみ」


 ページに飛ぶとすぐに目に付いた。大きめのベッドを映したカメラ。


「ラブホの隠しカメラか」


「隠しカメラっていうか、カメラを隠して撮ってるだけやな。この型番のカメラはそこそこ大きいねん。天井からぶら下がっとる監視カメラみたいなやつや」


「鏡がマジックミラーになっていて、その裏側に仕込んであるってやつだろ? 都市伝説かと思ってた」


「マジもんの鏡は硝子板に銀を塗っとるけど、マジックミラーはフィルムや。マジもんは、指をつけるとガラスのぶん浮くから見分けられるってハナシやな」


「いつもこんなもん見てるのか?」


「アホ、そんなまどろっこしいもん要らんわ。スキップもできひんのに。俺はインタビューは飛ばす派や」


「聞いてねえ。でも、見たのは見たんだな?」


「まあな」


 ベッドルームは残念ながら無人だ。


 いやいや、残念とかではなく、盗撮がおこなわれている事実に戦慄する。


 この手のサイトもどこかにはあるだろうとは頭で分かっていても、存在を突きつけられると、自分の生活にも隠し撮りがあるのではないかと疑念が浮かんでくる。


「ビビッとんのか? タイピング止まっとるで」


 図星を突かれた。


「聞いた話でビビッてたらしゃあないで。現場を目撃したらこんなもんやない」

「それはそうだが」

「もっとも、遭遇するのは難しい。犯行は一瞬や。レアもレア」

「そうなると、さっきのラブホはヒット率は高そうだが」

「まあな。せやけど、いちばんおもろいのは、これや」


 シャブ太郎は、あるページのあるナンバーのカメラを指定してきた。


 これ以上、踏みこむのは危険だとは頭では分かっていたが、おそらくは世界中の人間が見ているであろう海外サイトだ、足がつかないのも分かっている。

 警察もサイバー犯罪に本腰を入れていないような時代だった。


 指定のカメラは、明らかな隠し撮りに思えた。

 ヘッドセットをつけた若い女性のバストアップが現れた。

 彼女はこちらに向かって何か話している。

 音声は無いため、何を話しているかは分からない。

 パジャマ姿だし、部屋の雰囲気も自室らしさがある。


「隠しカメラにするにはデカい、だったよな?」

「せやねん。この子、普通にこのカメラをウェブカメとして使ってるねん」

「で、何が面白いんだ。本格的に犯罪嗜好すぎないか?」


「俺はこいつに興味ない。この子、知り合いの知り合いやねん。たまに話すF原って憶えとる?」


 シャブ太郎がメッセンジャーアプリやネットゲーム内での雑談で、よく知り合いのヘンなやつとしてエピソードを語られる男性だ。

 F原はこだわりが強く、たまに抜けたところのある人物だが、シャブ太郎の語り口によって、仲間内では「おもしれーヤツ」扱いになっている。


「F原の彼女とか家族とかか?」

「ブッブー! 惜しいな。F原が彼女にしたい女や」


 自分の想いびとが隠し撮りをされていたら、さぞ不愉快だろうな。

 そう、思った矢先だ。


「クイズや。優しいシャブ太郎君は、お友達のためにどうしたでしょーか?」

「まさか、おまえ」

「まさかまさか?」

「教えたのか?」


 シャブ太郎が「ピンポーン!」と返事をする。


「酷いやつだな……」

「そうかあ? 今、この子が通話しとる相手、たぶんF原やぞ?」

「マジか」


 シャブ太郎が言うには、私生活を覗いて得た情報を利用して意気投合したそうだ。


 かつて、インターネットの沖合に浮かんでいた違法サイト。

 深海に当たるディープウェブに同じようなものがたゆたっていることだろう。

 みなさんもパスワードの設定や、機器の信用度には気をつけたほうがいい。


 なお、最近になってシャブ太郎から「F原の子や」と言って、小さな女の子の写真が回されてきている。


***

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