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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「村」の章

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リンク集

***リンク集***


 個人サイトにつきもののコンテンツに、「リンク集」というものがある。

 管理人のおすすめサイトや同じ趣味の仲間の紹介、あるいは、有名サイトとの相互リンクをステータスとして誇示するページだ。

 どういうわけか日本では、国際規格が広まる前に、横二〇〇×縦四〇ピクセルのバナーが流行しており、それがずらっと並んだ絵面は今でも脳裏に焼き付いている。

 バナーとは看板のようなものであり、その小さな画像にサイトの概要を詰めこんだものだ。今でいうなら、動画のサムネイルが近いだろう。

 面倒くさがり以外にとっては、バナーを用意することもサイト運営における楽しみのひとつだった。


 リンク集は当然、多くのサイトへとつながっている。

 小さな個人サイトであっても、リンクを乗り継いでいくと、いつしか知らない世界に足を踏み入れていることも珍しくない。


 リンクとはある意味、異界へとつながる扉や門のようなものなのだ。


 しかし、リンク先のサイトが更新されなくなったり、閉鎖されたりなどして、消滅してしまい、「リンク切れ」になってしまうことも珍しくない。

 バナー画像をリンク先から参照していた場合は、読みこみ不良のアイコンに置き換わってしまう。

 当時のポピュラーなブラウザでは、白い紙に赤い×印のアイコンが表示されていたが、バナーたちの整列を崩して存在する赤×の異物感には、不気味さすら感じた。

 管理者が触れなくともページ内容が変化するという点も、拒絶感を強める要因だっただろう。


 わたしが活動していたコミュニティは、大きな変化の渦にあった。

 メンバーの入れ替わりもそうだが、たむろ先のサイトの管理人があまりタッチしなくなり、彼も大学受験を期に引退を宣言、トラブルも多いためチャットも外すのでよそでやってくれと、叩きだされたのだ。

 まあ、管理者抜きで勝手にうごめくコミュニティなど、ある意味では寄生虫のようなものだから仕方がない。

 寂しさもあったが、わたしたちのほうも会話のやりとりはメッセンジャーアプリを使うことが増えており、何かを期にコミュニティを抜ける「卒業」ブームのようなもののまっただなかでもあったため、すんなりと受け入れる者が多かった。


 付き合いが長くなると親密になり、気の合う仲間や活動に熱心な仲間以外は自然と淘汰されていく。

 もちろん、熱心な活動者はなんらか生産的な行動をしており、特にわたしたちのコミュニティではイラストや漫画に力を入れる者が多かった。


 しかし、わたしは思ったほどに上達できず、自分が何を表現したいのか、どうしてペンを手にしたのかすら分からなくなっていた。

 また、実生活においてもある変化の前後であり、こころを乱していた。

 この時代ではまだ、インターネットを私生活から切り離すことは可能だった。

 わたしもまた「卒業」を考えていたのだった。


 曖昧な状態でも「ガワ」だけは繕いたいものだ。

 わたしは激しく変化する環境と内面に抗いながら、コンテンツを納めるためのサイトを作っては消し、作っては消しを繰り返していた。


 そんな中、コミュニティの仲間の「ポマト」氏がある宣言をした。


「最近、サイトのリンク切れも多いし、リンクの整理をしようと思う。それにあたって、更新の無いサイトやコンテンツの弱いサイトも外そうと思う。ごめん」


 事後報告でもいいだろうに、律儀な人だ。

 彼は熱心に漫画を描いており、ウェブ漫画の登録サイトでランキングを意識するくらいには実力もある。

 上を見ている彼からすればしかたのないことだろう、わたしを含めたほぼ全員の仲間がリンク集から姿を消すことが決まった。


 ポマト氏はわたしたちとのチャットと並行して、リンクの整理作業を進めた。


「あれ? 知らないサイトが混じってる」


 そんなはずはないだろう。

 みんながそう言うも、ポマト氏は全然知らない人のサイトだと言い張る。

 わたしたちも改修前のポマト氏のサイトのリンク集に飛び、彼が知らないというサイトを見てみた。


「平成あばれはっちゃく漫釣記」


 バナーにはそう記されているが、ポマト氏の解説では「マンガ挑戦道~起~」とあり、ポマト氏のリアル友人が漫画に挑戦して公開していくサイトとなっているはずだった。


 ジャンプしてみると、黒い背景にレインボーに光り輝く「平成あばれはっちゃく漫釣記」の文字がでかでかと現れた。

 タイトルの下で、「ようこそいらっしゃいました♪」の文字が左右に動き回る。

 釣り餌に見立てたか、マウスポインターを魚が追いかけるギミック付きだ。


 凝ってはいるが、動作が重い!


 昭和五十年代生まれの男性「釣太郎」の管理する趣味のページらしい。

 釣りの仕掛けの説明や、釣果の写真の展示のおこなわれているサイトだ。

 サイトの開設は一九九九年。

 釣太郎氏本人が笑顔で大きな魚を掲げている写真もあったが、ポマト氏の友人とはやはり別人だという。


 趣味が悪いとか立派なサイトだとか、おのおのの感想を述べるも、ポマト氏は不気味がっている。


 種を明かせば簡単だ。


 もともとリンクされていたサイトがレンタルサービスから削除され、釣太郎氏が借りて偶然に同じアドレスを取得することになった、というところだろう。

 その証拠として、アドレスの一部に「漫画挑戦」の略と「漫釣記」に共通する「manchou」が使われていること、そしてサイトの更新履歴にも数か月前に移転したことが記されていた。


「そういえば、彼とずっと連絡取ってないな。サイトも一年以上見てなかったし」


 ポマト氏が連絡を取ると、知人は健在だった。勇んでホームページを作ったものの、漫画制作は思うように進まず筆を折ってしまったらしい。


 人騒がせなと憤慨するポマト氏。

 どうやら釣太郎も怒りの対象らしく、偶然とはいえちょっと気の毒だった。


「リンクを見たのひさびさだったから、バナーも変わりまくってるな」


 余談だが、バナー画像には「直リンク禁止、持ち帰り推奨」と「直リンク推奨」のふたパターンの方針があった。


 前者は、バナー画像が参照されるたびにトラフィックが発生し、サーバーに負担が掛かるのを気にしてのことだ。

 当時のスペックのサーバーマシンで、人気サイトなどでそれがおこなわれると、負荷もけっこうなものになったらしい。

 また、リンク集にしたさいに読み込み速度の差でレイアウトが崩れるのを気にしてなどがある。


 後者のパターンでは、バナー画像の更新が自動でできて、リンク切れをもってサイトの閉鎖を知らせられる利点がある。


「なんか、似たデザインのバナーがちらほらあるね」


 メンバーの一人が言った。数十個並ぶバナーの中に三つ、似ているというかほぼ同じデザインのバナーがあった。

 白地にモノクロで描かれた横向きの棺桶の図があり、棺桶にはサイト名が書いてある。サイト名はそれぞれのサイト名だが、基本デザインが全く同じだ。


「流行とか同盟か? 俺の知り合いのサイトもある。こいつも更新してないな」


 ポマト氏のリンクにはリアル知人のイラスト・漫画系のサイトが多い。

 脱落する者も多かったが、出版社に持ち込みをして編集に見てもらえるところまでいった作品をスキャンしてアップしているような手練れもいた。


「連絡つかなかった」


 リアルでもリンク切れということらしい。


 しばらく作業を片手間にチャットをしていると、ポマト氏から質問を受けた。


「リンクの逆探知みたいなのってできる? どんな人が読んでくれてるのか知りたいんだけど。腕のある人とは相互になりたいし」


 当時はアクセス元を辿るツールなどはあまり一般的ではなかった。

 参照元を辿るのが流行ったのはブログ全盛期で、この話よりもほんの少し後の時代だ。

 なお、この頃には最初に流行った国産SNSが登場している。

 サーバーのレンタルサービスによってはアクセス情報を分析する機能がついているものもあり、ポマト氏のサービスにもついていた。


 いくつものサイトを作っては消してきたわたしだ、そのサービスも利用済み。

 すぐにその機能に思い至り、彼に管理画面から確認する方法を教えた。

 彼は礼を言い、分析に入ったらしくメッセージアプリのステータスが「取り込み中」に変わった。


「面白そう。でも、私の借りてるサーバーにはそういうのついてないな」


 メンバーの一人が言う。余談だがアッキー☆である。


「簡単な方法としては、自分のサイトのURLで検索するとかかな」


 教えると彼女はすぐに試したようで、「知ってるサイトしか出ない」と言った。


 日記しか置いてない女子高生の弱小個人サイトが知らない人からリンクされていたら、それはホラーだろう。



「音信不通になってた知り合い、死んでた」



 ふいにポマト氏が発言した。

 わたしは何か返答しようと試みるも、キーボードの上で指を泳がせた。


「仲のいい共通の知り合いがそいつと大学が同じで、聞いたら死んだって。交通事故だったらしい」


 わたしたちは彼にお悔やみのメッセージを送る。


「まー、死んだもんはしょうがない。友達の友達くらいの関係だったし。こいつもリンク外すか」


 感覚は人それぞれだろうが、サイトを残したまま亡くなったその知人のリンクを外すという行為は、冷たい気がした。

 まあ、関係値次第では、残しておくほうが気持ち悪いのかもしれない。

 ともかく、サイトの放置で彼の作品が消えたとき、彼は完全な死を迎えるのだろうと考えた。


 わたしはポマト氏の知り合いがどんな人物だったのだろうかと、先ほどの棺桶バナーのサイトを開いた……が、間違ったらしく、別のサイトを開いてしまった。ほぼ同じバナーが三つもあるのでややこしい。


「ねえねえ、違反してるサイト見つけた」


 アッキー☆が言った。


 ポマト氏のリンク相手のページをURLで検索していたら、サイドバーの子ページに他人のサイトを取りこんでいるサイトを発見したらしい。

 当時に流行したサイトデザインのひとつに、HTMLのフレームタグを使って画面を分割して表示するものがあった。

 親ページにメニューを表示し、子ページにメニューから選択した内容を収めるといったふうにだ。


「違反じゃなくて、ミスじゃない?」


 HTMLの記述を間違い、リンク集などで他人のサイトを子ページ側に表示してしまうケースが散見されていた。

 彼女の貼ったURLもその手のものだろう。確認のためページに飛んでみる。


 問題のサイトはサイドバー側がリンク集になっていて、そちらで項目をクリックすると、子ページ用のスペースにリンク先のサイトが表示されるようだ。

 リンク集はバナーを使わず、サイト名だけの羅列で見づらい。

 しかも、サイドバーのサイズが小さいせいで、サイト名が自動で改行されてしまっている。


 リンク集を置いているのはどんなサイトのなのか見てみようと、Endキーでスクロールして「戻る」項目を探し出し、クリックする。


 表示されたのは白地に黒文字というシンプルなデザインのサイト。


 タイトルは……見当たらない。ウインドウのタイトルバーも空白。


 申し訳程度に白黒の棺桶の画像がひとつあり、少し下に、「納棺済み」と「納棺予定」の二つの項目があった。


 墓地か何かをテーマにしたサイトらしい。

 サイト容量を極限まで削ったようなデザインは、わたしごのみだ。

 HTMLの記述はしくじっていたようだが、参考になるかもしれない。


 そう思って項目をクリックしたものの、どちらもただのリンク集のようだった。


 適当にリンクをクリックしていくと、他人のサイトが子ページに表示される。


「マサシの日常。」

「takahashi's room」

「プリーツスカートの秘密基地」


 さまざまなサイトが並んでいる。プログラマーが自作パソコンについて綴っているサイト、内容のないとりあえず作っただけのサイト、どこかの学校制服の写真を並べている危ないにおいのするサイト……。


 それにしても、見にくいサイドバーだ。

 ジャンルもばらばら、五十音順でもない。

 サイト名の改行も相まって、狭いスペースに無理矢理に押し込められているようで、最悪のページデザインだ。


「〇〇〇〇の闘病日記」


 配慮として、実名らしい〇〇〇〇は伏せさせていただく。

 がん闘病の記録をつづったサイトのようだ。

 日記サービスなどを使わず、直接HTMLを使って更新していたらしい。


 ……いちばん上の項目が最新で、タイトルは「ご報告」だ。

 記述者は管理人ではなく、その配偶者となっていた。


 立て続けに不幸に触れると気が滅入る。

 さすがに日記まで読むのは気が引けた。

 ざっとスクロールをすると、日付だけの項目が流れていく。

 サイト主は三年のあいだ戦ったらしい。


 故人のサイトの末尾に、奇妙なものを見つけた。


 サイトバナーである。


 記憶に新しいデザイン。


 白黒の棺桶。棺桶には横書きで「〇〇〇〇の闘病日記」。


 このサイトのバナーデザインには、まったくふさわしくない。

 なんの悪い冗談か。サイト主は確かに鬼籍に入ってはいるが……。


 気色の悪い予感がした。

 リンク集はながながと続いている。

 しばらくスクロールをすると、リンクのない文章が現れた。



「以上、〇〇名は病死」



 その先にもリンク集は続く。

 スクロールすると、「以上、〇〇名は事故死」の文字。


 サイトの行列は続いている。

 それから、「以上、〇〇名は自殺」の文字。


 もう一行、「今シーズンの他殺はありませんでした」。


 リスト末尾のサイトをクリックする。


「えりのひとりごと」


 日記サービスが表示され、最新の記事には援助交際の相手に切られたことを嘆く文章と、リストカットの写真が残されていた。

 最後の更新から三ヶ月の放置。その以前は毎日のように更新されていた。

 最後の記事のコメント欄には、多くの心配の声が寄せられている。


 ひょっとしてこれは、管理者の亡くなったページのリンク集なのだろうか?


 いくつかチェックしてみるも、どれも更新停止をしているばかりで、明確に死を告げているものは見当たらない。くだんの闘病日記くらいのものだ。

 まさか、このリストすべての生死を確認しているわけでもないだろう。

 本物を混ぜてそれらしくしているだけという、非常に悪質なリンク集だ。

 子ページに納める(・・・)ようにしているのも、わざとに違いない。


 リストを逆に流していくと、見覚えのあるサイト名が目に留まった。


 ……先ほど訃報のあった、ポマト氏の知り合いのサイトだ。


 このリンク集のことを、共有すべきだろうか?


 アッキー☆はリンク集の性質に気づくまえに飽きたらしく、ポマト氏に大学生活について質問をしている。

 わたしの気も知らずに、ふたりはチャットだと面倒だから通話にしないかと盛り上がっている。


 水を差すのも悪いか。サイトは見なかったことにしよう。

 そう思った矢先だ。

 わたしはあることに気づき、サイトのトップページへと戻った。


「納棺予定」


 先ほど見ていたページは「納棺済み」だ。


 これが何を意味するかは察しがつく。悪質の極みだ。

 義憤を弄びつつ、項目をクリックする。

 先ほどと同じような構成のリンク集が現れる。


 納棺済みページと違うのは、リストアップされたサイトと、死因の部分が「病死予定」などに置き換わっている点だ。

 ……そういえば、バナーが棺桶に置き換わっているサイトがあった。

 それも、アドレスの取得等でここの管理者が仕込んだことなのだろうか。


 悪意もそこまで来れば、もはや畏敬の念を感じざるを得ない。


 納棺予定者とやらをざっと眺めると、見知ったサイトがまた現れた。

 それは、ポマト氏のサイトだった。



 わたしはこのリンク集をいたずらとして片づけたが、この一ヶ月後、ポマト氏はサイトの更新を停止し連絡を絶ってしまった。



***

※明日以降は1部づつ更新していきます。

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