合作RPG2
わたしは複雑な感情を胸に渦巻かせ、早めにチャットで待機した。
素知らぬ顔をして軽い感想を交えた雑談をし、制作者四名が集まったところで別口で借りておいた専用のチャットに誘導する。
この際、念のために全員に個別チャットで誘導先のURLを送り、そのあと間違ったふうを装って、公開チャットでわざと一文字削ったURLを貼り付けておいた。
専用チャットに移り、まずは暴露メッセージのことは伏せておき、ゲーム内容そのものの感想を丁寧に述べていく。
やはり、わたしのにらんだ通り、オープニングイベントと最初の町は犬虎が作ったという。ただし、町のサブイベントに関しては後からも追加されており、犬虎の了承のもとゼノスとsouluも関わっていた。
なお、タイトルが「アレックスの旅」になっていたのはタイトル画像の差し替えミスだ。最初に四人で大筋を相談して決めたさいに出た没案だそうだ。
続いて、四神の洞窟パートを担当したsoulu。彼はゲーム制作は不慣れで、ファルコンのおじ三人が協力を打診するモノクロシーンに入魂していた。
ハズレの洞窟はやはりコピー&ペーストで、本当ならおっさんたちは白虎、青龍、玄武に変身して襲ってくる予定だったらしいが、ソフト同梱の素材にふさわしいものがなかったために断念したという。
三番目はゼノス。彼は「ファントムミラージュ」のシーンや岩の迷路などを作った。それ以外には、最初の町のイベントの追加と、訊きこみの推理部分に当たるメッセージを犬虎が間違っていたのを修正したという。
「ということはアッキー☆がラストを作ったのか。めっちゃ出来がよかったよ」
わたしが褒めると、意外な返答があった。
「え、俺は作ってないよ。俺も試験だったし。だから、ストーリーの相談までしかやってないが」
ほかのメンバーにとっても寝耳に水だったらしく、「え?」や「は?」とログが流れる。
「アッキー☆は、試験があっても余裕って言ってなかった?」
「言ってないが」
「でも、俺はアッキー☆にデータを送ったぞ」
「どこで?」
「いつものチャットで。souluはどうなんだ?」
「俺は時間が合わないからって、アッキー☆から完成したのを貰ったけど」
「いやいや、昨日まで期末試験だったって」
ゼノスはアッキー☆にプロジェクトデータを引き継いでおり、仮完成品はsouluがアッキー☆から受け取ってわたしに渡している。
「じゃあ、誰が終盤パート作ったんだ?」
妙な流れになってきた。
わたしはアッキー☆に疑いの目を向けつつ、仮完成品に暴露メッセージが仕込まれていたことを話した。
全員に仮完成品をプレイしてもらい、それぞれの暴露シーンに近いセーブデータとクリアデータを送り、チャットの個別メッセージで発見方法を伝える。
なお、わたしに渡されたのはパッケージ化された状態のゲームで、プロジェクトを開いて内容を編集することはできなかったことを断っておく。
「俺じゃないですよ……」
犬虎が弁解する。彼は町の途中までしか作っていないのだ。
基本的には除外されるだろう。
「俺も違います」
souluもそう言うが、わたしはこっそりゼノスにメッセージを送って裏を取った。
パッケージ状態のゲームをアッキー☆から受け取り、わたしに寄こしたのは彼だからだ。
だが、ゼノスは自分の作ったパートは確かに自分のものだと言ったため、すり替えは不可だったと判明する。
「俺はそもそも参加してないから。っていうか、ここではもう“私”にしちゃうね。ばらされちゃったし」
アッキー☆が言う。
彼女が女性だということは、みんなうすうす気づいていたようで、裏で犬虎が「まじか……」とメッセージを送ってきた程度の反応だった。
「証明する方法がないんだが、俺が持ってるデータには暴露メッセージはない……と思う。自分とアッキー☆さんの以外はまだ見てないんだが、ほかのみんなは何を書かれていたんだ?」
ゼノスが問うと、犬虎とsouluは黙りこんでしまった。
わたしは犬虎に了解を取り、ジェイジェイへのいたずらについて話した。
なお、souluの暴露に関してはダメージが大きいと判断して、詮索しないようにみんなに頼んだ。
「アッキー☆さんがやったとは思えないから、誰かが彼女になりすましてやったのか? まさか、ジェイジェイが?」
ゼノスが疑問に対して、犬虎とsouluから「やりかねない」と即返答があった。
わたしも、そうだったらいいなとは思う。
ジェイジェイが相手なら糾弾しやすいからだ。
わたしと犬虎の悪事が白状しやすかったのも、ジェイジェイの周囲からの評価の低さが影響していた。
ジェイジェイはチャットですぐに自分主導の話題にしたがるし、無理矢理にでも自分の好きなネタを会話にねじこんできて煙たがれられていた。
最近はHIPHOPに目覚めたらしく、下手なラップのようなものまで披露してくる。
この時期、ある少年漫画雑誌の巻末で連載されていたギャグマンガに、HIPHOPを好む三枚目忍者キャラクターが登場していたこともあり、そいつに重ねられて手痛い扱いがおこなわれることもざらだった。
冷静に見ればいじめなのだが、漫画とは違い、ジェイジェイのほうは喜んでそのキャラを演じ始めるため、関係の薄いメンバーすらも遠慮なくイジる始末だった。
「きさま! 見ているなッ!」
唐突にゼノスが言った。
ジェイジェイの物まねかと思ったが、チャットの参加メンバーをチェックすると「見ている人」の存在に気づく。
……これでジェイジェイの犯行、いや外部犯の線がかなり薄くなった。
四人を少し泳がせてみると、推定ジェイジェイへの挑発や非難が始まった。
チャットの入室自体にはパスワードは掛けていない。
おびき寄せようという腹だろうが、ROMはこの中の誰かが二窓して演出しているのだ。
このチャットに飛んでこれるのは、ここの五人のみなのだから。
「ゼノスさんとアッキー☆さんにも話したんすよね。ジェイジェイにあんな話しませんよ」
souluが個別メッセージを送ってきた。万引きの告白のことだ。
「仲間を疑うのはイヤなんすけど……」
わたしの中では、犯人はおおよそ固まっていた。
大がかりな仕掛けを使わない限り、「彼女」がいちばん怪しいといえた。
だが、この中でいちばんやりそうもない人物でもある。
しばらく黙っていると、ROMは居なくなり、チャットには「逃げるのか」、「負け犬」などの罵倒が流れた。
けっきょく、外部犯の犯行となり、これ以上は詰めることなく解散となった。
ただし、しばらくは「ジェイジェイの監視をしよう」という話だけは同意された。
なお、ゲームは完成時のプロジェクトがない以上は修正して公開もできないし、なかったことになった。
誰が犯人なのか?
単独犯である場合、犬虎には犯行が不可能だ。
souluも同様だし、しかも暴露内容のダメージが大きすぎる。
ゼノスかアッキー☆かということになるが、アッキー☆が本当に参加していなかったのなら、実行できるのはゼノスだろう。
なりすましはわたしたちのあいだで身近な行為だったが、データの引継ぎ場所がオープンなチャットだった以上、本物のアッキー☆が来るリスクがある。
だが、ゼノスはゼノスでsouluの無実証明……つまりは自分が不利になる発言をしている。
ここで先ほどの「誘導URL誤爆」の種明かしをして、反応を見てみたい気持ちもあったが、安心してボロを出すのを期待して、誤爆URLが間違っていたことは全員には明かさず、犬虎とsouluにだけ伝えることにした。
話を聞いたふたりももちろん、どちらかが犯人だろうということを口にした。
ただ、両者ともに「女の子がそういうことをするかな?」と言った。
彼らは男子学生である。そう、そしてわたしも。
数日のあいだジェイジェイは監視されたものの、尻尾を出すことはなかった。
当前だ。彼にはそもそも尻尾がないのだから。
わたしは同時に、ゼノスのサイトとアッキー☆のサイトを監視したが、こちらも久しく更新されておらず、動きのあったのはゼノスの絵板くらいのものだった。
偶然だろうが、ジェイジェイがゼノスの絵板に描きこみをおこなったため、普通の漫画のファンイラストだったにもかかわらず、ゼノスは「……」と意味深な返事をしていた。
このままうやむやになるかと思い始めたところ、事態は急展開を迎える。
ゼノスからメールが届いたのだ。
*
犯人、分かりました。
俺のリアル友人です。
俺の家に入り浸ってて、よく勝手にPCを触ってるんです。
それでゲームの企画のことを知って、いたずらを仕掛けたらしいです。
本当にすみませんでした。
メールは真相に気づいているであろう、あなたにだけ送ってます。
みんなにもこのことを伝えてください。
俺はもう、チャットにはいかないようにします。
どうしても絡みたければ、俺のサイトのほうに来てくれればいますが……。
*
メールアドレスは確かにゼノスのものであったが、彼の談が本当であれば、それこそ彼がメールを送ったのか疑わしいし、同時にそのリアル友人についても分からない点が多すぎた。
わたしは「その友人はほかの人も知ってる人?」と訊ねた。答えはノーだった。
その人物は、自宅ではインターネットが使えないのだという話だ。
そうなると、このメールの信憑性も落ちてしまう。
暴露内容を手に入れるためにはチャットで現場を見て覚えるか、ゼノスからわざわざ聞き出すしか方法がなくなるからだ。
無関係の人物がやるにしては、手が込みすぎている。
煙に巻かれたような気分になった。
だが、ゼノスかその友人の犯行ということでいいのだろう。
ところが、さらに一日置いて、別の見知らぬアドレスからもメールがあった。
*
ゼノスが俺が犯人だって言ったそうですが、自分ではないです。
でも、やったのは俺でもゼノスでもありません。
ゼノスはあなたに疑われてると感じて、俺に罪を着せたんです。
ゼノスは「女子を疑うのはあり得ないから俺しかない」と言っていました。
俺はその女子と関わったことがないので、なんとも言えませんが……。
俺を覚えていますか?
ニンジャという名前で、ゼファー(ゼノス)やスイフトとつるんでた者です。
軽い気持ちでチャット荒らしをしたのが始まりだったので、ずっと気に病んでました。
ネットも使えますが、今はあのサイトやチャットには近づいていません。
信じてください。
*
わたしは「信じるよ」と返信しておいた。
もはや、何が正しいのか分からなくなって、面倒くさくなっていたからだ。
*
正直なところ、ジェイジェイがハメられてたのは面白かったですけどね。
だって、あいつの貼った変な動画のせいでスイフトはおかしくなったんですし。
俺たちだって、やられかけたわけでしょう?
あいつが犯人ってことにしておけば、いちばん収まりがよくないですか?
*
余談ではあるが、スイフトは地方に療養に行ってから、中学卒業までついぞ姿を現さなかったという。
今年の夏に見かけた者がいたそうだが、すっかりやつれていて、話しかけても両親が隠すようにしてコンタクトができない状態だったという。
この件はもうこのままでいいだろう。自分としては大した被害もなかったし。
ジェイジェイにしてやられたのでないのなら、それでよかった。
ただ、souluは気の毒だった。
彼はこの件でコミュニティからフェードアウトした。
犬虎もまた、付き合う人数を減らした。
わたしは監視を終えるつもりで、その日の深夜にアッキー☆のサイトを見に行った。
「アー、面白かった。気づいた方にご褒美☆0721」
日記が更新されていた。
昨日までは放置状態で、試験に関する話すらも投稿されていなかった。
意味深な一文のあとに四桁の数字。
彼女らしからぬ卑猥な語呂合わせにも思えたが、それがわたしのおぼろげな記憶を刺激し、マウスを操作させた。
アッキー☆のサイトのメニューページの下部に、▼と▲を交互に組み合わせて作ったラインがある。
これはただのデザインではない。その▲のうちのひとつに、アンダーバーがあった。
クリックすると、暗証番号を入れるダイアログボックスのあるページに飛んだ。
コミュニティの仲間たちがまだサイトを熱心に更新していたころ、「隠しページ」を作る遊びが流行したことがあった。
だが、パスワードを掛けた隠しページや、背景色と文字色を同色にした隠し文字は、検索エンジンの検索結果と齟齬を生みやすいため、レンタルサーバーの規約で禁止されていることが多い。
だから、わたしたちは画像にリンクを仕込んだり、ページをたっぷりスクロールしたらリンクが現れる程度のことをし、飛んだ先のページには「よく見つけた!」とか「バカ」とか、たわいのないメッセージが出る程度のことしかしていなかった。
ところが、アッキー☆だけはサーバー規約違反のパスコードのシステムを利用してページを作っていたので、わたしの印象に残っていたのだった。
罠かもしれない。辿り着いた者のパソコンをウイルスに感染させる気かも。
しかし、わたしは好奇心を抑えきれず、日記にあったナンバーを入力した。
すると、一枚の写真が表示された。
ショートヘアで細身の少女が、全裸でこちらにカメラを向けている画像。
鏡を使った自撮り画像だが、見憶えるのある顔と部屋だった。
メッセンジャーアプリのアッキー☆との会話履歴を辿ると、着衣の彼女の写真が残っていた。
照らし合わせる。どう見ても彼女だ。
どちらも自室と思われる同じ部屋で、タンスとベッドを背景に真顔でケータイをかざしている。
裸体はどこも隠されることなく、頬が少し上気しているように見えた。
わたしは背筋が冷えた。
むろん、高校生だった当時だ、ウイルスやブラウザクラッシャーのリスクを覚悟でスケベな情報を探したことくらいある。
しかし、それらはすべてイラストか知らない他人の写真だ。
この画像は明らかな禁断の果実だった。
だが、興奮よりも何か重大な犯罪を犯したような気持ちが勝っていた。
なんで、こんなことを?
いったい誰が? いや、彼女自身だろう……。
今でこそ、AIや画像編集ソフトでそういったものを作れるが、当時はまだ難しく、画像も画素の小さい携帯写真のうえ、本人のサイトに隠されていたものだ。
わたしは理解の外にある行動に恐怖を覚え、画像を保存するとすぐにブラウザを閉じた。
翌日、目を覚まして彼女のページをチェックすると、日記にあの文章は無く、隠しページも入り口からして消えてしまっていた。
それからもアッキー☆は変わらず活動を続け、その後、高校卒業を期にコミュニティから消えていった。
わたしは本作で記すまで、この件について口外していない。
ほかのメンバーから画像の話を聞いたこともない。
わたしが見つけたことを彼女が知っていたかどうかも、不明のままだ。
なお、該当の画像はパソコンの買い替えと共に失われてしまっている。
***




