合作RPG1
※本日は3部分(2エピソード)更新しています。
***合作RPG***
あるとき、コミュニティの仲間内で、ロールプレイングゲーム(RPG)を作れるソフトを使って、ゲームを合作する企画が持ち上がった。
参加者は、「犬虎」と「ゼノス」と「あっきー☆」と「soulu」の四人だ。
わたしも参加したかったのだが、学校の行事や試験で多忙だったので、プレイ役だけを引き受けた。
作るのは本格的な長編RPGではなく、キャラクターを動かす寸劇のあいだにいくつかの探索や戦闘シーンの挟まる程度の短編で、おのおの一週間を期限にデータを受け渡して順番に内容を足していくリレー方式だ。
わたしには誰がどの部分を作ったのかは知らされず、完成後にプレイして感想を述べることになっていた。
試験が終わったのち、自前のサイトに置いた日記に帰還を知らせる記事を書き、コミュニティ内の知人のサイトを巡回して更新をチェックする。
わたしのいないあいだに、コミュニティの中心だったフリーゲーム制作者が新作の発表をしたようで、その話題で盛り上がっているようだった。
合作リレーはどうなっただろう。
二週間ほど経過しているので、順調にいっていれば進捗は半分といったところだろうか。
わたしの不在のあいだに絵板へ投稿されたイラストにコメントをし、ついでにわたしも美少女の顔面を描く。
二週間も我慢していたので、怪我をしてとぼとぼと歩く可哀想な犬のイラストも描いた。
自分の管理するお絵描き掲示板だ、せっかくだしもう一枚……と、思ったところだった。
「おかえり! 試験お疲れさまでした。時間が合えばチャットに来てください!」
「っていうか、なんでこんな哀しい絵を……」
すぐに招待付きのコメントがあった。コメントをくれたのは犬虎で、企画参加者の中でもわたしと特に仲のいい者だった。
チャットに入室すると、犬虎とsouluが先客としていた。
ふたりが言うには、ゲームはもう完成しているという。
一週間づつの期限はあくまでも期限で、気が済んだところでバトンタッチをすると、十日ほどで完成してしまったのだという。
わたしがプレイをして大きな問題が無ければ、ゼノスのホームページで公開するという。
わたしはゲームを受け取ると、明日の晩には感想を述べると請け負った。
ゲームのタイトルは「アレックスの旅」。なんの捻りもないタイトルだ。
スタートをすると、あらすじがモノローグで語られ始めた。
盗賊ファルコンがどんな願いでも一つだけ叶える秘宝のありかを示した地図を見つけた。
ファルコンが秘宝を求めて旅立つと、彼のあとをつける男の姿があった。
ファルコンの往年のライバル海賊ゴメスである。
プレイヤーはゴメスを操作してファルコンを追い、秘宝を横取りするのが目的だ。
オープニングはモノローグのほか、キャラクターの自動移動による寸劇など、けっこう手が込んでいた。
続いて探索パートに入り、ファルコンの足取りをつかむために町で訊きこみをおこなう。
町の規模は大きく、隠し宝箱や中身入りの樽やタンスなども設定されていて、かなり作りこまれていた。
わたしは、この手のゲームでは特徴的なオブジェクトはすべてチェックしなければ気が済まないたちだ。
サブイベントの戦闘や、ゲームオーバーになるトラップも仕掛けられていたが、デバッグ的な意味合いも込めてくまなく調べていく。
町のはずれには墓所があり、墓石が並んでいた。ゲームの世界においては、墓石は調べたり押したりするのが定石である。
わたしももちろん、罰当たりな行為に打って出る。
墓石のひとつにメッセージが隠されていた。
「犬虎のうんこ」
なるほど、おちゃめな隠しメッセージである。アイテム袋にゴミが追加された。
おそらく、オープニングとこの町を作ったのは犬虎だろう。彼はわたしがゲームを受け取るとき、「疲れた。広げすぎて力尽きた」と発言していた。
探索には一時間かかった。制作には数倍の時間が掛かっているはずだ。
町で得た情報をもとに、南方にある「朱雀の洞窟」に向かうことになった。
ワールドマップには、ほかに四つの洞窟も配置されていた。
町はファルコンの生まれ故郷で、住人がファルコンの行き先を教えてくれるのだが、それぞれが別の洞窟名を口にしていた。
住人や町のオブジェクトなどを調べていくと、情報源の住人たちとファルコンの関係性が分かり、誰が本当の行き先を言っているのかが推理できる仕組みになっていたのだ。
それでももちろん、朱雀の洞窟以外もチェックする。
洞窟は道中も長いうえにモンスターとのエンカウント戦もあり、思いのほか攻略に時間が掛かった。
その上、ハズレの洞窟は最後が行き止まりになっていて、来た道を戻らなければならないという、いじわる仕様だ。
ハズレの洞窟名はそれぞれ白虎、青龍、玄武の名を冠しており、行き止まりの直前にはさも正解の洞窟だといわんばかりに、ファルコン……のふりをしたおっさんが道を塞いで戦いを挑んでくる。
ふたつめのハズレに入った時点で、コピー&ペーストで作られたのだと察しがついたのだが、わたしは折れずに全洞窟の踏破を目指した。
すると、玄武の洞窟にて隠しメッセージを発見した。
「ゼノスの改名前はゼファーで、最初は荒らしだった」
事実だが、ずっと前の話だ。これを知らない仲間もいるし、荒らし行為を受けたサイトの管理人はもう許しているはずだ。
どろりとした悪意を感じる。
本命の朱雀の洞窟はハズレ洞窟と途中まで同じ構造で、最奥部には階段が設けられており、手前には本物のファルコンがいた。
ファルコンとは戦闘になるがゴメスは敗れてしまう。勝ちようがない強さだ。
いわゆる負けイベで、ゲームオーバーにはならず、ファルコンには逃げられてしまう。
後を追って階段に足を踏み入れると画面がモノクロに切り替わり、キャラクターチップによる寸劇が始まった。
ファルコンが秘宝の地図を手に入れたシーンの再現で、三人の親戚のおじさんが現れ、町人とともに手を貸してくれるという。グラフィック的にハズレ洞窟で倒したアレだろう。
何かの伏線らしかったが、偽ファルコンだったおじさんたちは倒されたさいに爆発のアニメーションと共に派手に爆死している。
本筋の展開も気になるが、わたしは次の探索パートを欲していた。
洞窟内を進んでいくと、再びファルコンとまみえる。
しかしファルコンは「秘技ファントムミラージュ」を使って、大量の分身にまぎれてしまう。
偽物に話しかけるとダメージを受けるので、やられる前に本物を発見しなくてはならないようだ。
狭いマップの中で、数十名の盗賊ファルコンがランダムに動き回っている。
なるほど、「仕込む」ならここだろう。
わたしは端から順に話しかけていく。だが、動き回るせいでシャッフルされてしまい、くまなくチェックするのは至難の業だと感じた。
しかし、一分も経たないうちに正解のファルコンを当ててしまい、偽物たちは消えファルコンは再び逃走してしまう。
いったんロードをしてやり直す。先ほど正解を見つけたあたりを注意すると、正解のファルコンはランダム移動の合間にプレイヤーへ接近する処理を挟んでいるらしいことが分かった。
同時に、その反対の挙動をするファルコンがいることにも気づいた。
「souluは中一のときに万引きした」
マップの端で詰まっていた偽ファルコンはそう言って攻撃を仕掛け、ゲームオーバーにされた。
去年、souluから告白されていたのだ。
出来心で某カードゲームのパックを窃盗したとのことだった。
その件については置いて、やはりこれは明らかな悪意だ。
いったい誰が仕組んだのか。
こうなってくると、町にあった「犬虎のうんこ」も悪意の一環かもしれない。
残りはアッキー☆だが、一人だけメッセージが無いと自白するようなものだ。
全員が仲のいい者同士での企画だったはずだ。なんて酷いことを。
だが、この頃のわたしは青く、友情の破壊の恐怖よりも犯人捜しの高揚感に支配されていた。
ゲームを進めていくと、岩を配置して作った迷路のシーンに出くわした。
……岩の数は、さっきの偽ファルコンの比ではない。
しかも、イベント発生のトリガーには「プレイヤーの向き」も条件指定できるため、可能な限り全方位から調べなければならない。
「アッキー☆は女」
彼女は一人称を「俺」としているが、中身は女子高生だ。
会話の流れでわたしを含めた数人にはバレてしまっているが、基本的には秘密となっている。
メッセンジャーアプリで通話したこともあり、髪を切った話題で携帯の自撮り写真を見せられたこともあるため、事実である。
さて、ゲーム本編は大詰めとなり、洞窟の最奥部に到着する。
マグマの海の上に切り立った陸地があり、そこの中央に宝箱と向かい合うファルコンの姿。
ファルコンに近づくと、彼が宝箱を開けるイベントが発生する。
怪物の声のサウンドが流れると、ファルコンが炎上して吹き飛ばされ、マグマの海に落ちてしまった。
続いて、火の鳥のグラフィックが表示され、朱雀との戦闘が開始される。
朱雀は不死鳥を模したのか、倒してもいちど復活し二度目のバトルが開始。
これまでと比べてけっこうな強敵だったが、ハズレ洞窟でレベルが上がっていたせいか、無理なく勝利することができた。
ボスを倒し、満を持して宝箱を開ける。
中からは光り輝く宝玉、願いを叶えるという伝説の秘宝が見つかった。
歓喜する海賊ゴメス。
これで、彼の悲願である「船酔いしやすい体質」を治すことができる。
ところが、マグマの海から何者かが飛び出してくる。まっくろな人影だ。
「その玉は俺の物だ! その玉を俺に寄こせ!」
「ファルコンめ、生きてやがったか! これは俺のもんだ!」
「俺は妹の病を治すんだ! ゴメス、その玉をよこせえぇーーっ!」
すると画面が光り、風を切るようなサウンドが流れた。
同時に、何か光る物体がゴメスからファルコンへ渡った。
「ははっ、やったぞ! 玉は俺の物だ! ……なんだ? 玉が光を失ったぞ?」
BGMが途絶え、数秒の沈黙が起こる。
「俺は投げてねえ。玉が願いを叶えちまったんだ。玉をよこせって願いを」
ゴメスがそう言う。
「そ、ん、な……」
黒こげのファルコンが後ずさりを始める。背後にはマグマの海だ。
ゴメスが慌ててファルコンを引き戻すも、彼はすでに力を使い果たしており、無念を口にしてこの世を去ってしまった。
悲壮な雰囲気のBGMと共に画面がブラックアウトし、エンドロールが始まった。
ギャグなのか悲劇なのかよく分からない内容だが、もともとがギャグゲームのファンのコミュニティだし、こんなものだろう。
スタッフロールは、製作者四名とテストプレイヤーのわたしの名前だけという寂しいもので、あっというまに「END」の表記がなされた。
これもお約束だろう。しばらく待ってから、ボタンを押してみる。
すると、洞窟最奥部のマグマのシーンへと画面が戻った。
再びゴメスを操作できるようだ。
からっぽの宝箱と立ち尽くす黒焦げファルコンは、調べても何も起こらない。
来た道を戻ってみると、一足飛びに最初の町へと戻された。
エンディング後の追加要素があるようだ。
町を調べなおすのは後回しにし、ファルコンの生家にまっすぐに向かった。
スタート時にはファルコンの生家は鍵が掛かって入れなかったのだ。
案の定、鍵は開いており、中に入るといくらかの家具とベッドがふたつ。
ベッドの片方には少女が横たわっている。
「ごほっ、ごほっ、お兄ちゃんはどこ?」
ファルコンの妹だろう。残念ながら兄は戻らない。
ゴメスが何も言えずに立ち去ろうとすると、彼の足元に何かが落ちる。
「これは朱雀の羽だ!」
アイテム袋に不死鳥の羽が追加される。
もう一度、少女に話しかけると画面が光り、少女はベットから飛び出してその場でぴょんぴょん飛び始めた。
「わ~い! 治った! おじさんありがとう!」
ゴメスは喜ぶ少女へ言う。
「その羽は、おまえのお兄ちゃんから渡してくれって頼まれたものなんだ」
画面が再びフェードアウトし、「TRUE・END」の表記が現れる。
……なるほど、けっこういい出来じゃないか。
なればこそ、「バグ取り」は確実におこなわなくてはならない。
わたしは使命感に燃え、クリア後の町のチェックに入る。
今度は最初とは逆順でチェックをしよう。
まずは墓所。すると、さっそくメッセージに変化があった。
「ジェイジェイのサイトのカウンターを回しまくったやつがいる」
……どきりとした。わたしの頬が熱くなる。
「それは犬虎と……」
わたしだ。わたしのハンドルネームが書かれていた。
わたしとジェイジェイはお互いをよく思っておらず、いつしか互いを遠回しに攻撃しあう仲になっていた。
酷いところでは、ジェイジェイはわたしに「ウイルスへのアドレス付きの呪いのメール(フリーメールなので広告付き)」を送りつけたし、わたしはプロクシを通した状態(ほかのサーバーを経由してIPアドレスをごまかす行為)で、いやがらせメールをやりかえし、追撃で彼の悪行(漫画のトレスを自作と言い張る)を別の掲示板で暴露していた。
ほかにも小さないたずらとして、彼のサイトのカウンターの設置されたページでF5キーで更新を連打し、犬虎と共謀して一日で一万ヒットさせたのだ。
当時のカウンターには、多重カウント防止機能がないものも多かった。それを発見したのが犬虎で、わたしは嬉々として悪事に誘ったのだ。
そうして、急にアクセス数が伸びたと思ったジェイジェイは舞い上がり、サイトの大更新をおこなったのである。
わたしはこの件を誰にも漏らしてはいなかった。
となると、犬虎が?
だが、わたしの推測では犬虎はゲームリレーの走順のトップだ。
自分の担当以降のイベントをいじることはできない。
なんにせよ、このまま放っておくわけにはいかない。
わたしは顔面をまっかにしながら調査に乗り出した。
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※本日は3部分(2エピソード)更新しています。




