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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「村」の章

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4/8

ストリーミング

***ストリーミング***


「やれやれ、また面白いサイトを見つけちまったぜ」


 チャットに入室した「ジェイジェイ」が言った。

 ジェイジェイは、わたしや管理人とも同い年の高校生の利用者で、コミュニティの中核をなす人物の一人だ。

 面白いサイトやフラッシュ(動画や簡単なゲーム)を見つけては紹介し、何かにつけては好きな少年漫画のセリフを言いたがるやつだった。


 普段なら、誰かがすぐに感想を言うのだが、今日はチャットがそこで止まってしまった。

 最初の話で語った「ゆうくん問題」のまっただなかで、その会議の最中だったからだ。

 それに、ジェイジェイには直近にカートゥーン風のハッピーなフレンズのグロアニメを紹介した前科があった。


 わたしはというと、彼自身のことはあまり好きではなかったものの、紹介物に関しては面白いと感じていたため、チャット会議の裏で彼の貼ったサイトを開くことにした。


 ところが、わたしはすぐにブラウザバックすることになった。

 

 ストリーミング形式の動画ページだったからだ。

 当時の我が家の回線はADSL接続で、基本速度が今とは桁違いに低く、重ねてゴールデンタイムの回線混雑のため、ストリーミング形式の動画を見るのは難しかった。下手をすると、チャットからはじき出されてしまう。

 しばらくすると、ほかのチャット参加者からも「重い」とコメントがあり、続いて「ログ見た?」と空気を読まなかった彼に対する非難めいた発言が続いた。


 ジェイジェイもようやく会議中だったことに気づき、「ゆうくんをオラオラする会議ですかーッ!?」と発言した。


 会議といっても小学生の学級会に毛の生えたようなもので、半分はゆうくんの悪口大会になることが多い。

 ただ、今回は小中学生は入室しておらず、年長者である女子大生の「うたたねこ」さんや、比較的に仲の良かった穏健派のわたしが会話を主導していたので、どうやって伝えたら分かってもらえるか話し合う流れだった。


「グロいの見せて〆るのはどうでしょう?」


 ジェイジェイが言った。彼はいつもこうだ。


「そういうのはよくないよ。チャットや掲示板を荒らすことと結びつかないし」


 うたたねこさんが窘めると、「そうですね」とジェイジェイは素直に応じた。

 彼女はコミュニティの寮母的な立ち位置だった。


 数人で頭をひねるも、ゆうくんを改心させるいい方法は浮かばなかった。

 ゆうくんの抱える問題が分からなければダメだと、うたたねこさんは言う。


 お開きかというところで、ほぼ同タイミングに三人の入室者があった。

 来たのは「スイフト」、「ゼファー」、「ニンジャ」の男子中学生三人組だ。

 彼らは同級生で、最初は掲示板を荒らして遊んでいた。


 わたしもハンドルネームを使われてなりすましの荒らし投稿の被害を受けたのだが、管理人がIPを見抜いて注意をし、わたしも懐の広いところを見せたくてなりすましを許したところ、全員まとめて改心してサイトに居ついたのだった。


 改心したとはいえ男子中学生らしい感性の持ち主たちだ、こういったまじめなシーンではあまり歓迎されないアクションをすることが多かった。


「ジェイジェイさん、グロいのってどんなんすか?」


 ニンジャが話を引き戻した。

 すぐにジェイジェイが応じて、先日にひんしゅくを買ったはずのグロアニメの解説を始める。ネット越しでも彼の嬉々とした表情が見えるようだった。


 ここで、わたしに個別のメッセージが飛んできた。


「ROMってた人、ニンジャさんだったんだね」


 うたたねこさんだ。わたしたちは会議をしている最中、チャットの参加人数をこまめにチェックしていた。

 ずっと「見ている人が1人います」となっていたので、ゆうくん当人が監視しているのではないかと裏で話していたのだ。

 それはそれでみんなが彼のことを考えていることが伝わるからと、監視者を知らぬふりで話していたのだが、当てが外れた。

 なお、ROMはReadOnlyMemberの略である。


 ジェイジェイの「グロを見せて〆る」のログはとっくに流れてしまっている。

 それを拾えたということは、ニンジャは入室せずに会話を見ていたということだ。

 おおかた、ほかの二人が到着するのを待っていたのだろう。

 時計を見ると夜の十一時だ。

 ネット契約の都合で、この時間から参戦する人もちらほらいた。


 チャットの会話はすっかりジェイジェイの紹介コーナーになった。


 わたしとうたたねこさんが個別の会話を始めて黙ったのもあり、ほかの参加者もジェイジェイの話に乗っかり始めた。

 こちらの存在を忘れ去ったのか、ジェイジェイや男子中学生たちから「ゆうくんを〆る」発言が飛び出し始める。

 うたたねこさんが「ヘンなサイトを見せるなら、せめて安全性を確認して」というも、誰も返事をしないままログが流れる。

 温厚な彼女もとうとう、「この子たちダメだ」と、わたしに愚痴ってきた。


「あいつはグロじゃ生ぬるい。ウイルスで破壊しよう」


 エスカレートしていた。わがままな小学生相手に過剰だ。



「最低」



 この一文を残し、うたたねこさんが退室する。

 さすがに効いたのか、ジェイジェイと三バカは直ちに謝罪文を打った。

 だが、「見ている人は0人」だ。


 チャットは重苦しい空気につつまれた。


「やれやれだ……ヘヴィすぎるぜ」


 ジェイジェイが言った。


「とりあえず安全性の確認だな」


 続けて彼は入室時に貼ったURLを再掲した。


 ゴールデンタイムも過ぎたことだし、回線も多少はマシになっただろう。

 わたしももう一度、ジェイジェイの貼ったURLを開くことにした。


 URLは動画への直リンクで、ウインドウいっぱいに黒が広がり、中央にロード中を示す回転、下部にシークバーが現れた。

 しばらくすると、白黒の車載カメラのような映像が表示された。

 解像度も悪くブロックノイズだらけだが、高速道路を走っているのが分かる。


「これは知り合いのハッカーが見つけた呪いの動画で、最後まで見ると何かがやってくるらしい」


 わたしはお約束すぎる話に失笑した。

 ジェイジェイのことだ、どうせ動画の最後に大音量の悲鳴と共に怖い顔が表示されるとか、そういう感じの内容だろう。

 興味を失いかけていたが、いちおうは最後まで付き合ってやろう。


「長いっすね」


 スイフトが言う。

 シークバーを見るが、動いている気配はない。

 再生時間も表示されていなかった。


 つまりこれは、リアルタイムのライブ動画か?


 ジェイジェイにこの動画を最後まで見たのかと問うと、「ノー」と返される。


 十数分が経過しても終わらない。やはりライブか。

 三バカたちは車種が当てれないかなどと、車トークに花を咲かせている。


 わたしもじっと画面を見つめていたが、根負けしてしまった。

 これはじつはループ動画で、どこかに「つなぎ目」があるのではないかと思ったのだが見つからなかった。

 たまに対向車や追い抜きでほかの車の姿も確認できたし、跨道橋や読めないものの案内標識も流れていて景色の変化を感じられる。


 この映像は、確かにどこかを走っているようだが……。


「やばい、ショックだ……」


 ジェイジェイが個別メッセージを飛ばしてきた。

 面倒だと思いつつも「どうしたの?」と応じる。


「うたたねこさんのサイトから温泉ラブが消えてる」


 温泉ラブ。

 当時、「主張バナー」というものが個人サイトで流行っていた。

 ある趣味にハマっていることや、主義主張に賛同していることを示すもので、主張や同盟名を書いたバナーを掲載するという自己顕示や仲間探しの遊びだ。

 ジェイジェイとうたたねこさんは、ぐうぜん同じ「温泉ラブ同盟」のバナーを掲載していて、ジェイジェイはその共通項をとても喜んでいた。


 ご愁傷様だ。

 ジェイジェイから、「どうやったらうたたねこさんからの評価を挽回できるか」と相談される。

 わたしはまじめに過激なサイト紹介をやめることや、ゆうくん問題を攻撃的に解決するのはやめようと提案した。


「いや、俺はサイトで〆ることに捧げる」


 もう好きにしてくれ。

 そうこうしているうちに、時刻は深夜一時に迫っていた。

 週のまんなかの平日だ。わたしもそろそろ寝支度に入ろうと考えた。


「ここ知ってる場所かも」


 ゼファーが言った。

 彼が具体的な場所を説明すると、スイフトも「マジだ」と応じる。

 某県某所のインターチェンジ近くらしい。


「おい、下りるぞ」


 ニンジャが言った。下りる?


「近所じゃん、これ」


 わたしも映像を確認してみるが、相変わらず高速道路を走っている。


「こっちはずっと高速だけど」

「マジっすか。嘘じゃないっすよ」

「あ、右に曲がった」

「曲がってないぞ」


 どうやら、それぞれ見えている映像が違うらしい。


「二中のとこ通り過ぎた」

「先週行ったカラオケ屋だ」

「キモすぎる。俺はギブ。絶対これ、うちに来るヤバいやつだよ」


 ニンジャが脱落した。

 車はどうやらおのおのの家に向かっているらしい。

 わたしと彼らとで住んでいる場所が離れているから、映像が違うのか。

 だとしても、どうやってこんな映像を実現しているのだろうか?


「おい、神田は逃げんなよ」

「本名言うな。金山も逃げんなよ」


 話からして、もう数分もあれば「来る」のだろう。

 わたしも映像をときおり確認しつつ、固唾を飲んでチャットを見守った。



「マジかよ、ピンポン来た」



 スイフトの家に何かが来た?

 半信半疑ながら、続きの発言を待つ。


「ゼファーが退室しました」


 チキンレースをしていた片割れは逃げたのか、退室してしまった。

 先に降りたはずのニンジャの罵倒を眺めつつ、スイフトの反応を待つ。


 十分、二十分……。返事はない。


 こちらの映像はまだまだ高速道路だが、サイドに山が見えており、移動していることだけは分かった。


「俺、明日あるんで寝ます」

「分かった。あとでどうなったか教えて」

「了解っす」


 ニンジャも離脱し、わたしも残りのメンツに挨拶をして退室する。

(ちなみにジェイジェイは、うたたねこショックで消沈してすでにいない)


 わたしは満足感と共にベッドに入った。

 今日のチャットもなかなか楽しめた。

 まあ、どうせ三バカがわたしを釣ろうと口裏を合わせているのだろう。

 だが、もし本当だったら面白い。


 ものは試しだ。

 わたしはベッドから這い出し、パソコンをつけたまま寝てみることにした。

 スタートがどこかは知らないが、一晩放置すればここに来るのではないか?


 しかし、わたしはインターホンに起こされることなく朝を迎えた。


 パソコン画面を見てみると、ブルースクリーンになっていた。

 あのライブ映像の影響かどうかは分からない、というかたぶん違った。


 なぜなら、わたしのパソコンのOSはウインドウズMeで、ブルースクリーンは日常茶飯事だったからだ。

 登校前にチャットを確かめてみると、スイフトを始めとした数名が入室したままになっていた。寝落ちだろうか?


 さてその晩、いつもより早い時間にゼファーがやってきた。


「スイフトが学校休んでる。あれ、マジでヤバいやつかも」


 手の込んだことだ。ゼファーはというと、車が自宅マンションの前で停車し、「主観が車を下りた」時点でパソコンを終了させたらしい。

 スイフトのようにインターホンは鳴らず、今朝の登校時には不審車両などはなかったという。

 遅くになってから現れたニンジャも、スイフトと連絡がつかないと話した。


 それから一週間ほど経ったのち、スイフトが引っ越してしまったと語られた。

 彼の家族ごとではなく、彼だけが「療養」という形で、中国地方の某所の施設で暮らすことになったそうだ。


 もちろん、パソコン越しの伝聞だし、彼らがグルになればいくらでもでっち上げられる話だ。

 嘘かまことか、だがスイフトが現れることはもうなかった。

 この件がきっかけになったのか、ニンジャもフェードアウトし、ゼファーも改名してヤンキーノリから絵板で美少女を描きまくるオタク少年へと変貌していった。

 チャットの顔ぶれも変わり、他にも見かけなくなったメンバーもいた。

 それぞれに都合があるだろう。何事もうつろうものだ。

 そういえば、あの辺りで管理人がサイトのヒット数が落ちたと嘆いていた。


 URLを貼り付けた張本人のジェイジェイもしばらく姿を見せず、サイトの日記の更新も止まっていた。

 ただし、それはうたたねこさんの件で凹んでいただけで、しばらくしてから元気を取り戻して復活をしていた。

 彼にことの顛末を語ると、「本物じゃねーかッ! だがそこにシビれる憧れるゥ!」などと言い、ゆうくんに例の映像を送りつけようとしたのだった。


 ところが、お勧めをまとめたメモ帳から、そのURLは消滅していたという。


***

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