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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「都」の章

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何してるの?

***何してるの?***


 妙な遊びにハマっていた時期がある。

 画面の向こうのプレイヤーたちの行動を当てる遊びだ。


 今、鼻を掻いたでしょ。

 コーヒーカップ流しに置きに行ったね。

 これはお子さんが癇癪おこしたね。


 といったようなことを、かれらの性格や私生活の情報、チャットやゲームキャラクターの機微などを総合して予測する。


 どうしてこのような悪趣味な遊びをしていたのか。

 この頃のわたしはフリーター数年目で、たっぷりと病んでおり、現実世界の人間づき合いが極端に減ってしまっていた。

 いよいよ危ないぞということで、自己啓発本やら心理学の本やらを読み漁り、その延長線で始めたことだった。

 相手のしぐさで心理を読み解く……という、やや胡散臭い本にもよく見られるアレのネットゲーム版というわけだ。

 長くゲームに入り浸る連中とは私生活の話も共有していたし、癖や「間」もよく分かっていたのでちょうどよかった。


 なお、現在は啓発や心理学は素人が他者へ向けるべきものではないと認識している。


 当たっていたかはともかく、仲のいい連中はそれなりに付き合ってくれた。

 男性陣はあまり的中してないのか、あるいは当てられるのが悔しいのか、「微妙に間違っている」という回答が多かった。

 女性陣からは「どうして分かったの?」というリアクションが多く、逆に「何をしてるでしょうか?」と出題し返してくれることもあった。

 占い的な雰囲気もあったため、女性陣にはウケていたのかもしれない。あるいは、ある種の共感的な要素があったからかもしれない。


 まあ、付き合ってくれていただけで、不気味に思われてもいそうだが。

 

 わたしはいくつかのグループやコミュニティを掛け持ちで参加しており、ほうぼうで勘や推理を試していた。

 その相手の中でもひとり、的中率も高く、遊びにもよく付き合ってくれた子がいた。


 彼女は「ミントちゃん」という愛称で親しまれていた。


 ミントちゃんは女性プレイヤーには珍しく、対人戦をメインに遊ぶプレイヤーで、生活リズムの崩れた大学生らしく、深夜や午前中にもログインしていた。


 彼女は反応の緩急が激しく、ゲームやチャットに打ちこんでいるときとそうでないときでチャットの返答速度が極端に違う。

 間と反応速度から何をしているのかのイメージが付きやすかった。


「コーヒーを淹れてくるね」


 と言って離席したのち帰還、しばらく会話やゲームが続き、その後に二十秒程度の間が空けば、「コーヒーカップを流しに置きに行った」と言えば当たる。

 また、何を見るわけでもなくテレビを点けっぱなしにする癖があり、「リモコンがない」と来たら、「さっきコーヒー淹れながらチャンネル変えて、そのままキッチンに置いてきたのでは」と言えば見事その通り、というわけだ。

 あとは、狩りなどの最中や準備中に無言でキャラクターを座らせて動かなくなったら、「宅配便が来た」などもよく当てた。


 当てだしてからは、「監視カメラを仕掛けてるの?」と言われたが、無論そういうことはない。ないぞ。冗談で「●REC」などと返したが。

 次第にミントちゃんから「リモコン探して」とか「課題のレジュメをどこに置いたっけ?」などと言われ、わたしはダウジングマシーンにされた。

 もちろん、そんなに都合よく当てられるわけもなく、「もっとよく探して!」などとお叱りを受けることもあった。


 ミントちゃんに限った話ではないが、このゲームでは知り合いとすれ違ったさい、挨拶コマンドを使って挨拶をする文化がある。

 多くは返事をきちんと返し、挨拶コマンドがすぐに出せない場合はキャラをジャンプさせて返事代わりにすることもある。

 挨拶を返せないと気持ち悪い、負けた気になるプレイヤーも多く、返せないまま挨拶の聞こえる範囲から外れてしまった場合、必死に追いかけてまで挨拶を返すなんてことも珍しくない。

 これを逆手にとって、気づかれないようにこっそり挨拶をして相手のログに残し、返される前に逃げる遊びをする者もあった。


 ミントちゃんもまた、挨拶は意地でも返したいタイプで、仮にその場で返せなかった場合でも、のちほどこっそり挨拶をして逃げるのをやり返す子だった。


 そういう性格で、それなりに仲もいい。

 しかしそれでも、まったく返事を返してくれないことがあり、ある時期からそれが頻発するようになっていた。

 離席しているとか、手が離せないということではない。

 町ですれ違ったときに挨拶をしても返事がないのだ。

 自動前進機能を使った移動というわけでもなく、角ではきちんと曲がり、お店や銀行の利用もしている。

 強制的に入室となる所属グループ用チャットにもいるが、こちらも無言。

 普段ならグループチャットでは、遅れてでも挨拶をしたがるのだが、このモードに入っているときはいっさい返事をしない。


 わたしに限らず、ほかのメンバーにも同対応だ。

 ゲームなんて自由に遊べばいいし、虫の居所の悪いときもあるだろう。

 ただ、わたしの推理の興味の対象にはなった。


 難しい推理じゃない。

 すぐに思い当たったのは「中身が別人」という説だ。

 そしてこれは、そのうちに当人から弁明がなされた。


 あるとき、別のメンバーがそれとなく「挨拶してくれなかった」と言った。

 彼はわたしとミントちゃんとで、よく深夜までおしゃべりをする仲で、この追及にも特に棘はない。

 ミントちゃんは「気づかなかった……」と悔しがったが、わたしは好機とみて「違う人がプレイしてたとか?」と追及に便乗してみた。


 ミントちゃんは「ばれたか」と言い、ルームシェアしている女友達に遊ばせていると白状した。

 自分の知り合いらしき人に声を掛けられても、ややこしいので無視するようにと言い含めていたらしい。


 アカウントの共有は規約違反だ。ミントちゃんは「ないしょにしてて」と言う。


 運営に会話のログは取られているが、問題が発生しなければ基本的にチェックは入らない。われわれに大きな害があるわけでもなく、同居人も課金をすることがあるそうだから、まあ、黙っていれば問題ないだろう。


 わたしたちは「ないしょね」と返しあった。


 もう一人の仲間のほうは「同居人はホントに女の子? 彼氏じゃなくて?」と探っていたが、ミントちゃんは「彼氏なんていたことない……」と、あしらっていた。

 これもまたリップサービス的なものではなく、おそらくは本当に女性同士のルームシェアだろうと、わたしはあたりをつけていた。

 ミントちゃんとの会話の中で「今日、お友達と〇〇に行ってきた」、「××をしてきた」という報告は多く、同居人はその子だろうとピンと来ていたからだ。

 じつはミントちゃんとわたしは同県住まいで、彼女たちの出かける場所にも土地勘が多少あり、イメージが付きやすかったというのも補強材料だった。


「先月くらいから一緒に住んでるの?」

「すごい、なんで分かったの?」


 なんでも何もない。様子のおかしい日が出てきたのがその辺りだ。

 それに友人関係の話題に、ここ二、三ヶ月は不穏なものも混じっていた。


「友達にものを壊された」

「友達が大学に来ないから呼びに行った」

「友達を病院に連れて行った。しんぱい」


 そして、その友人とのルームシェアだ。

 わたしの中で「あるストーリー」が出来上がっていたが、さすがに下世話なため、ことばにはしなかった。


 同居の報告があってからしばらくのち、ミントちゃんの姿が見えなくなった。

 だいたい、年末年始の時期だったと思う。


 ミントちゃんはほかのサーバーで遊ぶことも多い。そうでなくとも、対人戦のためにキャラクターのスキル構成の変更や、新キャラ育成で姿を消すこともある。

 もともと、一ヶ月くらい見ないことも珍しくなく、グループのメンバーも「あまり見ないね」で済ませていた。



 それから一年から二年程度が経過したころのことだ。



 あれは深夜だったか午前中だったか。

 とにかく、わたし以外にグループの参加者がいないタイミングだった。


 暇を持て余し、誰か来ないものかと検索機能を叩いてみると、チャットにミントちゃんが入室していることに気づいた。


「ミントちゃん、おひさしぶり」

「へへへ、ばれた」

「一年ぶりくらい?」

「かも。ちょっと実家に帰ってた」

「そっか。おかえり」


 仕舞っておいたストーリーが引き出しから、ちらりと顔を出す。

 だが、わたしはそれを押しとどめ。無難に「元気だった?」と訊く。


「げんきじゃなかった」

「そっか。だいじょうぶ?」

「うん。もうへいき」


 わたしたちのあいだに沈黙が流れる。


「何があったのか、当てないの?」


 わたしは「分からないよ」と答えた。


「うそつき」


 返す言葉がない。再び沈黙を貫く。


「はやくあてて。監視カメラつけてるんでしょ」


 わたしは度胸が無く、当てる代わりに質問をした。


「お友達は元気にしている?」



 ……。



 ミントちゃんは年末年始、実家に帰省していた。

 同居人の子は帰らずに部屋に残った。

 帰省から戻ると、部屋には鍵が掛かっていた。

 大家さんに頼んで開けてもらうと、変わり果てた友人が、ぶら下がっていた。


 ミントちゃんの好んだこたつ。

 つけっぱなしのテレビ。

 リモコンを置き忘れたキッチンのテーブル。

 よく一緒に遊んだ友人。


 会ったこともない、見たこともないはずのそれが、

 その現場が、

 わたしの脳裏にありありと浮かんだ。



 わたしは、ここまでいくつもの話を執筆し、あまたの古い記憶を辿ってきた。

 ひとつ引っ張りだせば、些細なことや、当時の感情、思い出したくない恥までも連れ立って蘇った。


 だがどうしても、ミントちゃんの告白ののち、何を話したのか、どう対応したのかはまったく思い出せないままだ。

 あれ以降、彼女をゲーム内で見かけた記憶もない。


 その件がきっかけだったのかも定かではないが、わたしは人の行動を当てるという下世話な遊びはしなくなった。


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