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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「都」の章

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結婚しようよ2

※本エピソードは前後編の後編です。

 あるぱか はどうやら本気で悩んでいるらしかった。

 ラルヴァと まとい の仮想結婚のやり取りを見ていて、もやもやしたそうだ。


「ぼくって、普通っていうのが分からないから」


 いわく、小学校の途中でドロップアウトして以降、成人近くになるまで、ろくに人とコミュニケーションをとったことがなかったという。

 あの二人のやりとりが本気なのか、自分が感じているのが恋情なのかが分からないと打ち明けられた。

 

 わたしは自分の理解できている範囲で まとい の行動の理由を説明し、ラルヴァは まとい に対して遊び仲間以上の感情はないようだと教えた。


 丁寧に応対したのがよかったのか、あるぱか からはゲーム外でも相談を受けたり、ボイスチャット等のやりとりを要求されるようになった。

 まあ、わたしも男だし(誰も認めないが。肉声を聞いたはずの あるぱか さえ)、頼られるのは悪い気はしない。

 下心はんぶんで彼女からの相談や自分語り、それからことあるごとのラルヴァへの気持ちの吐露に付き合った。


 別のゲームにも付き合ったり、夜通し話を聞いたりしつつ、ゲーム内のいくつかのコミュニティにも顔を出してと、かなりのリソースを割いていた。


 ひとえに下心のなせる技……というわけではなく、わたし自身も学業を頓挫させてからはフリーターで、職場と自宅の往復の生活だったし、見え隠れする彼女の特殊な家庭環境なども、個人的な体験とダブることもあり、加減を失っていった。


 さて、またもやや斜め方向から事件が起こる。


 ある日、平日におこなわれるメンテナンスの直後、ゲームにログインするとわたしは違和感に気づいた。


 キャラクターの上に表示される名前のそばに付く、グループ参加を示す表示が消えているのだ。

 間違ってグループから抜ける処理をしたか? いや、覚えがない。

 リーダーにはメンバーを追放する権限がある。

 なんらかの理由で除名されたのだろうか?


 心当たりはなかった。

 リーダーのヒカリとの関係は、特に問題がなかったはずだ。

 お決まりの話にもそこそこ付き合っていたし、ゲーム的な付き合いもあった。

 ほかのメンバーとも関係は良好だ。


 しばらくすると、ラルヴァや まとい もログインして、つぎつぎと個別チャットを送ってきた。


「グループから追い出されてるんだけど……」


 どうやら、わたしだけではないらしい。

 検索機能を使うと、ヒカリのキャラクターがヒットする。

 平日の昼下がりだ。丸の内OLのいる時間帯ではない。何かあったようだ。


「とうとう遠距離の彼氏と別れてヤケになったか」などと、仲間たちと勘繰っていると、遠くからサブリーダーが駆けてきた。

 彼女はあまり戦闘が好きではなく、生産活動に勤しむプレイヤーだ。認識としてはクセの少ない普通の人というイメージだ。生産活動以外ではたいてい、ヒカリの家に入り浸っている。

 そんな彼女の頭の上からも、グループ名が消滅していた。


「ええと、ヒカリさんから伝言です……」 


 ヒカリは疎外感を感じていたという。

 グループ内で仲のいい者同士で固まり、頻繁に遊んでいることが気に障る。

 そういう気配があるときはグループ用チャットが静かになるので分かる。


「私抜きで楽しめるなら私抜きでやってください、とのことです」


 とかいいつつ、ヒカリは自分の家に集まる者だけのチャットルームを作成し、そちらで活発にプレイしている連中をくさしていたのだとか。

 ヒカリは自分の周囲にいる者を除いて全員を除名したらしい。

 サブリーダーは残された側だったのだが、みずから抜けてきたらしい。

 それならばとメッセンジャー役を押し付けられたという。


「特に、結婚とか言ってたあれが気に入らなかったみたいよ」


 ラルヴァが「いちばん煽ってたくせに」と唸る。


「それと、ゲーム外でも仲良くしてるようね、ですって」

「それの何が悪いんだ」

「私に言われても。あるぱかさんはログインしてない?」


 検索するとログインはしているようだった。

 声を掛けると、急な除名にどうしたらいいか分からなくなっていた。


「私は詳細は知らないけど、ヒカリさんが誰にでも相談をするのはやめたほうがいいって、あるぱかさんに伝えてくれって」


 どういうことだ。

 ラルヴァはよく分かっていないようだったが、わたしは迂闊なことを言えない。


「あと、あなたにも個別に伝言です」


 元サブリーダーがこちらを見た。


 ヒカリは、わたしのことが「ゲームが上手いので気に入らない」のだそうだ。

 わたしはこのMMOに住み着いて何年にもなる。対してヒカリは数ヶ月。

 こればっかりは仕方がない。


 ゲームが上手いという発言は、ヒカリの口から聞いたことがあり、「女性で上手いのは珍しい」などと言われて、性別の誤解を解こうとしたのを憶えていた。

 比率では確かに男性のほうが上手い傾向があるが、このゲームに限らず女性にもトップを走るプレイヤーはいなくはない。


 ただ、個人的には忖度の遺志があり、ヒカリのメインキャラがヒーラー寄りだったため、わたしは彼女と被る役割を持てるキャラクターを見せないでいた。

 腕前とスキル構成次第では、一人で多くをこなせるゲームだからだ。

 だが、なんどか別のメンバーに救援を求められて、こっそり、時には別人のていで助けに行ったことがあった。

 それがどこからか漏れたらしく、わたしが まとい を観察しに入って来たことも含めて気づかれてしまっていた。


 顔を立てるつもりがプライドを傷つけてしまったのだろう。

 わたしは「それは悪いことをした」と元サブリーダーに言った。


「いや、別にあいつに悪く思う必要ないでしょwww」


 唐突に草を生やす元サブ。


「いくつかゲームやってきたけど、あいつがいちばん最悪だよw

 ずっと職場の話と彼氏の話ばっか聞かされるし、

 その場にいない子の悪口すぐ言うし。私も言われてたし。

 大体さ、あいつ誘っても来ないんだもん。

 ログインしててもいつも座ってるだけじゃんか。

 それなのに、ほかの子が仲がいいが気に食わない? バカじゃないの?

 っていうか、なんで私にこんな汚れ役押し付けるわけ?

 ま、あいつの評価が下がるだろうと思ったから受けたんだけどねwww」


 元サブの愚痴と暴露が止まらない。


 彼女は「ってか、彼氏も絶対いないでしょwww いても浮気されてるw」と、これまで個別チャットで送ってきていたのに、オープンチャットで発言した。


 通行人が驚いたか動きを止め、そばに集まっていたラルヴァと まとい が察したか「ですよねwww」と相槌を打った。


「仕事も嘘臭い。丸の内OL? いま平日の昼間だっつーのwww 私はもうめんどくなったから、このゲームを引退しますw あんなのと同じ空気吸えないw」


 わたしたちは「それは残念だ」と伝える。


「本当に残念なのは、ヒカリに囲われてる子たち。

 初心者の子ばっかりなのに。

 このゲーム、けっこういいゲームなのにさ。

 この前なんて、初心者の子が狩りに出かけようとしたら、

 自分の話聞かすためにおカネ押し付けて、

 これで狩りに行かなくていいでしょ? って得意げだったし」


 かくして、ヒカリのグループは空中分解、爆発炎上で幕を閉じた。

 余談だが、黒殺は対人に没頭しすぎて、除名に気づくのに数日かかった。


 これを境に、晒し板でヒカリのメインキャラの名前が投稿されるようになった。

 詳しい罪状などは書かれず、ただ彼女の名前だけが定期的に投稿される。

 居場所を失った まとい も活動の範囲が広がり、晒される頻度が上がった。


 ふと、疑問が沸く。わたしのことを漏らしたのは誰だろうか。

 じつを言うと、この時点ではもう まとい には正体を明かしていた。

 メインとサブ、両方のキャラで関係が良好なのに、観察も何もない。

 軽く詰められたが、「それでも友達でいてくれてるしいいよ」と赦された。


 ゆえに、たいした話でもなかったのだが、なんとなく後味が悪かった。


 先ほどにも悪口の話がでていたが、まとい は以前から自分への陰口のあることを聞かされていたらしく、すでにヒカリと関係が悪化していたらしい。

 それに加えて今回の件で、かなり腹を立てたようだった。

 あるぱか も「やっぱり人間って分からない」と、ショックを受けていた。 


 後日、バレていないであろうキャラを使って、それとなくヒカリの家を観察したが、数日程度でヒカリ本人以外の姿は見えなくなっていた。


 グループの解散を期に、わたしたちはしばらく別のゲームを遊んでいた。

 まとい はそれには参加せず、ラルヴァと黒殺と あるぱか との四名で遊んだ。


 そうしているうちに、あるぱか から「ラルヴァくんは友達、これは恋じゃない」と結論を聞かされた。

 ならばと、わたしの下心がむくりと首をもたげたが、それはまた別の話だ。


 わたしたちが不在のあいだに まとい は自分でグループを作ろうと発起したらしく、まずは先に「友達集め」に奔走した。


「リーダーになるんだし、活躍を見せなきゃ」


 そういうわけで、彼女はあちらこちらに出没し、ボスやダンジョンの攻略ツアーに参加して空振りをして回っていたようだ。


 そして多くのプレイヤーからひんしゅくを買い、とうとう「あなた晒されているよ」と掲示板を見せられてしまった。

 どうやら、これまでの「見ていない」は、とぼけていたわけではなかったようだ。彼女は烈火のごとくに怒り、誰が晒したのかと犯人探しを始めた。


 まとい を特に怒らせた投稿があり、それは「戦力は充分なのに高額なアイテムを湯水のように使ってアピってウザい」というものだ。

 もはや言いがかりの域なのだが、これまでにヘイトを買いすぎているため、些細な言動でも晒しの対象となりえた。


「あんたがやったでしょ!」


 わたしのところにも来た。想定内だった。

 親しい者や、現場にいた者でしか知りえない情報を含んだ投稿もあった。


 ボス討伐ツア-の参加者リストや、迷惑行動の瞬間を押さえたスクリーンショットなども投稿されており、投稿者側の悪意を強く感じるものだった。


 だが、舞台となったボス討伐ツアーにはわたしは参加していないどころか、職場で働いていたタイミングだ。


 証明する手立てはなかったが、わたしは弁解した。

 彼女は信じず、一方的に決めつけた。


 わたしとしても、正体を隠して接触するという遊びをやった前科がある以上、強く抗弁はできなかった。


 そして何より、ツアー参加者のリストと同一ID(掲示板の)による「親しい者しか知りえない情報」のリークから、犯人が誰なのか推理ができてしまっていたのだ。


 ……その情報は、わたしとラルヴァと まとい の三人での会話が元だった。


 ラルヴァだろう。彼は以前、「潰すか」という発言もしていた。

 実行するとは思っていなかったが、彼がやった可能性がいちばん高い。

 だが、まとい はラルヴァを疑ったり、問い詰めたりする行動を見せていなかった。

 本当は気づいているのかもしれない。認められないだけなのだ。

 だれかれ構わず疑念をぶちまける行為は、もともと煙たがられていた彼女をさらに孤立させていた。

 性格上、わたしは寛容だったが、ラルヴァは断罪的だ。下手に問い詰めると嫌われてしまうかもしれない。そういう不安があったのだろう。


 そして、ここから先は、わたしが観測していない範囲で話が展開した。


 ラルヴァがすべてを明かし、まとい に「引導を渡した」という。

 そこまでする必要があるのか、引導とは具体的になんなのか。


 まとい は「引導」のあとも、知人たちが寝静まったたまり場におり、ぴょんぴょんと退屈そうにキャラクターを飛び跳ねさせていた。


 これ以降、わたしはラルヴァと疎遠となり、必然的に黒殺ともゲーム内で挨拶も交わさない仲へとなった。

 あるぱか とは相変わらずだったが、晒しの件を聞いても「ラルヴァくん、悪いなあ」だけで流していた。彼女はもうだいぶん疲れていた。


 さらにもう一人、別れを告げたものがあった。


「私、引退しますので。ゲームばかりしているあなたたちとは違うので」


 別に聞いていない。好きにしてください。


「あ、それから遠距離の彼氏とは結婚したんで」


 わたしは「おめでとう!」と言っておいた。

 彼女は律儀にも「ありがとう」と返した。


 わたしはしばらく あるぱか と絡み、仲を深めて実際に会ったりもした。

 保護欲と下心をないまぜにするべきではない。

 それから、傷心してまたゲームに戻ると、まとい がぴょんぴょん跳ねながらこちらにやってきた。


「久しぶり、最近いなかったね」


 まとい も「引導」や晒しの件で傷心しているかと思ったが元気そうだ。

 わたしは「ほかのゲームしてた」と適当に答える。

 彼女はわたしに対しても何事もなかったかのように、キャラクターの装備の色を染めて欲しいと頼んできた。

 わたしは応じ、生産活動を楽しむためのキャラクターでログインしなおした。


「ラルヴァくんもいなくなっちゃったし、ヒカリちゃんもやめちゃった。寂しいな」


 かたきと言ってもいい相手だろうに、やはり まとい は根はいい子なのだ。


 そう思った矢先だった。



「ハニーはやめちゃダメだからね?」



 ……ハニー?

 夜中の静かな街角には、わたしと彼女の二人しかいなかった。



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