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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「都」の章

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結婚しようよ1

※本エピソードは前後編です。

***結婚しようよ***


 あまた盛衰を繰り返し、生まれては消えてきたMMORPG。

 ゲームによっては世界を構築するシステムに「結婚システム」が搭載されているものがあった。


 特定のプレイヤー、キャラクター同士で婚姻を結び、それによりゲームに有利な特典を得たり、ロールプレイに精を出したり、あるいはじっさいに相方と仲を深めたりするシステムだ。


 ゲームによっては特典が強力なため、愛無き結婚や、自分の操作するキャラクター同士での結婚がおこなわれていた。

 悲しいかな、契りを結んだものの関係が破綻して、現実世界よろしく離婚に至ったケースもある。

 ときには、ゲーム上のパートナーだったはずが結婚システムをきっかけに現実世界でも契りを結んだというハッピーな例もあったとか。


 そんな悲喜こもごもな結婚システムだが、わたしの遊んでいたMMOには実装されていなかった。

 実装されていなかったゆえに起きた? いや、関係ないか? まあいいや。とにかく、結婚にまつわる面白い騒動……コワイ話を語っていこう。



 当時のわたしは複数のグループに参加しており、それぞれ別のキャラクターを

所属させて、一部の親しいプレイヤー以外にはそれらが同一人物だということを明かしていなかった。

 それは新鮮さを求めてのことであったが、知人と出くわした場合に、他人として接するとどう違うのかというのを知りたいという、悪趣味な好奇心もあってのことだった。


 別人に変身したわたしが参加したグループ。

 そこにいた連中が、これまた個性的だった。


 グループの開設者にしてリーダーである、Hikari。通称「ヒカリ」。

 彼女は丸の内OLであることを公言しており、絶賛遠距離恋愛中で常にチャットでため息をついている。ゲームが上手いことを自称し、「女性でゲームが上手いと、周囲と上手くやっていけない」が持論だ。


 続いて、「ラルヴァ」。押し入れが自室だと語る男子大学生だ。

 厨二的なデザインが好きで、キャラを黒い衣装で固めるこだわりがある。

 だるそうな男子学生らしい態度だが、ノリはいい。


 それから、BlackKiller氏。通称「黒殺」。

 ラルヴァの学友で、誘われてグループに入っただけであまり絡みがない。

 たいていは対人用のエリアでほかのプレイヤーと殺し合っている。


 次に「あるぱか」。引きこもりの経験歴の長い女性だ。

 現在は無職で、四六時中ゲームにログインしている。

 グループ用のチャットにはほとんど参加しないが、キャラクター同士の対面だと割となんでも話してくれる。


 そして最後に、もりのまとい。通称「まとい」。こちらも半引きこもりの女性だが、外出できないのは重大な病を患っているせいで、海外の血が流れるクォーターだ。

 あちらこちらのグループをトラブルを起こしつつ流れ、人通りの多いところでオープンチャットを使って雑談をしていることも多いため、悪い意味での有名人でもある。


 わたしはメインのキャラを操作中に街角で まとい と知り合い、付きまとわれるようになっており、彼女を観察するためにグループに参加した。

 グループは新規に立ち上げされたもので、ヒカリの友人だという まとい が賑やかに宣伝してまわっていたため、やすやすと潜入することができたのだった。


 グループにはほかにも数名参加しており、総勢十名程度だったが割愛する。


 ゴールデンタイムになると、リーダーであるヒカリのため息の頻度が上がる。

 誰かが「どうしたの?」と訊ねれば、恋愛話か丸の内OLのお局さんや取引先のおじさんに関する愚痴が披露される。

 このグループの風物詩だ。

 グループとして大々的に狩りをしたり、ボスに挑むのは土日が多く、平日のヒカリはチャットとゲーム内ショッピングを中心に楽しんでいる。


「ヒカリちゃん、恋のお悩み?」


 訊ねたのは まとい だ。設立当初はさまざまなメンバーが訊ねてやっていたが、最近はもっぱら彼女が「どうしたの?」役である。


 今日のため息はレモン風味。ヒカリの遠距離恋愛のお相手である男性に、結婚の意思があるかどうか分からないという。

 ラルヴァがわたしに「浮気してるかキープに違いない」と個別チャットを送ってきた。ヒカリはグループに女性プレイヤーを多く加入させていたため、チャット内容に偏りが生じて、男性陣の発言の機会が減っていた。


 結局のところ、お相手の男性に訊く以外に確かめようがない。

 会話が堂々巡りとなったところで、まといが「私もお嫁さんになりたいな」と言った。

 今度は まとい が語る番だ。彼女は難病である上に家族の癖が強く、結婚は夢のまた夢だという。


「このゲームには結婚システムはないからなー」

「なくても、恋愛したり式を挙げたりはできるんじゃない?」

「そっかー」


 ヒカリのナイスな提案だ。

 顔も知らない まとい が「ど、れ、に、し、よ、う、か、な」とやるビジョンが浮かぶ。


「ラルヴァくん、結婚しよっか」

「なんで俺!?」


 ご愁傷様だ。そもそもこのタイミングでログインしていたメンバーは、ラルヴァと黒殺以外は女性だ。

 わたしは物腰と一人称のせいでよく女性に間違われる。

 訂正したのだが、なぜかヒカリや まとい に女性枠として扱われていた。


「勘弁してくれ、なんでよりによってこいつなんかと……」

「酷い! 傷ついた!」

「リーダーとして命じます。責任を取って結婚しなさい!」


 楽しそうで結構である。ちなみにラルヴァは、わたしに愚痴るつもりがグループチャットに誤爆していたそうだ。


「新婚旅行はオーク狩りよ~!」


「豚か。ちょうど欲しいアイテムがあるんだった」

 ラルヴァが言った。


「婚約成立! 私がテレポートで送ってあげます」


 慌ただしく狩りに出かけていく まとい たち。

 わたしは「おめでとう」と言っておいた。


 雑談と冗談の延長だと思われていた結婚話だが、これ以降、まといはラルヴァを旦那扱いし、わたしはラルヴァから毎日個別チャットで愚痴を聞かせられる羽目となった。

 ラルヴァはほかの女性プレイヤー、あるいは女性キャラクターと関わると浮気扱いされ、罰として敵キャラを誘導して狩りを妨害されたり、離席しているあいだにキャラクターを池に落とされて溺死させられたりした。


 とはいえ、まとい も本気ではない。彼女の性格上、適当にあしらっていればそのうちに飽きるか、ほかの興味に逸れるはずだ。


 はずだったのだが……。


「家、買うかあ」

 ラルヴァが言った。


 このゲームにはハウジング機能があり、土地を取得して家を持つことができる。家具を配置したり、アイテムを販売したりする機能も利用可能だ。

 彼は課金のガチャで入手したアイテムを売りさばくため、オートでアイテムを販売できる家を欲していた。


「私たちの愛の巣?」

「まあ、そんなところだ。だが高い……」

「半分出そうか? 私のアイテムも売ってもらおうかな」

「いや、それは……」


 ラルヴァは冗談の匙加減があまり上手ではなかった。

 程よく付き合ってしまうために長引く。

 家を買う発言も軽はずみなものだった。


「これ、売ってもらおうかなー」


 まとい がアイテムの情報をチャットに貼り付けていく。

 彼女は現実のおカネが自由にならないため、ゲーム内で手に入れたアイテムが中心だった。


「ちょっと待て、その仮面を持ってるのか?」


 ラルヴァが反応を示す。その「仮面」はゲーム内のコンテンツでのみ入手できるレア品で、メンバーを募ってダンジョンに挑まなければならない。

 ラルヴァは野良パーティーへの参加が苦手だった。

 その上、仮面はレアであるもののステータス的には弱く、記念品として倉庫行きになりがちで、滅多に市場に出回らないのだ。


「いるの? 売ってあげようか?」

「いるいるいるいるいる」


 商談が成立した。しばらくして、「これで俺の理想のキャラができた」とご満悦のセリフがチャットに流れた。


 理想のキャラがどんなものかと見物に行くと、黒髪に白い仮面、黒いコートに悪魔の翼、そして巨大な剣といういかにも彼が好みそうないでたちになっていた。


「完璧だ……」


 ラルヴァは何度もつぶやいた。

 たぶん、カメラを操作して自キャラを舐めまわしているのだろう。

 この手のゲームのお約束だ。


「でもなんか、メタナ〇トみたいだね」


 まとい が何か言った。

 置き換えられる言葉がなかったため、伏字にさせていただいた。


「俺はそんなに丸くない」

「いいじゃん、カッコいいじゃんメタナ〇ト」

「カッコいいのは否定しないが……」


 まとい は某天堂のゲームキャラクター、なにがしの〇ービィが好きだった。

 彼女は境遇からか会話の引き出しが少なく、自分の知っているアニメやゲーム作品を繰り返し話題に挙げることが多い。

 わたしが別のキャラで森の素材を集めていたところ、「森林破壊はたのしいゾイ」といいながらトレント(木の魔物)を攻撃していた現場を目撃している。彼女は独り言が得意らしい。


 意中の相手(?)に満足してもらえたのが嬉しかったのか、まとい はふだんよりも早い時間に寝ると言ってログアウトしていった。

 普段なら絡む相手を求めて深夜まで町をうろついて一人寂しく去るのだが、今日の彼女はいい夢が見られそうだった。

 寂しがりやゆえにコミュニケートに問題があるだけで、彼女は根はいい子だというのがわたしの評価だ。こちらのグループで慣れたこともあり、メインのキャラクターでもそこそこ構うようになっていた。


「結婚した甲斐があったね」


 わたしはラルヴァを茶化してやった。


「その設定、いつまで続くんだろうか……」


「あんまり乗らないほうがいいとは思うけどね。彼女が前にいたところでは、男のほうが本気にして手を出そうとして揉めたって話だし。じっさい、その男は女子高生のプレイヤーにも手を出したとか言われてる」


「晒し板に書いてあったな……」


 某大型掲示板にある、このゲームの「プレイヤー晒し」専門のスレッドだ。

 通常のスレッドとは住みわけがされており、通常のほうはゲームに関する質問や話題が中心で、個人キャラクター名を出すのは禁止されている。

 晒しのほうでは悪事の密告や、個人名を出した愚痴、人間関係の下世話な話が展開されており、なかなか地獄の様相を呈していた。


 まとい も最近、頻繁に晒されていた。


 彼女はグループ外にも知り合いが多く、一般で募集されている大型ボス戦やダンジョンの攻略ツアーにもよく参加しているのだが、キャラクターのスキル構成が極端な火力振りで死にやすいのと、身勝手な行動が多いことから、トラブルの火種を常にくすぶらせていた。

 当人は、晒し関係の話題が出ると「見てない」と言って話を切っていた。


「いや、俺はあんなのに手を出さんぞ」

「オープンにそういう絡みをしてると、他人から同類として扱われるよって話」


 合点がいったのか、ラルヴァは「ああ……」と画面の向こうでため息をついたようだった。


「そうなる前に潰すしかないようだな。欲しい物も手に入れたことだし」


 不穏である。冗談かどうか測りかねているうちに、ラルヴァは「寝る」と言ってログアウトしていった。


 それから数日後のことだ。

 ラルヴァの まとい への態度が一変した。


「俺のそばから離れるなよ」

「愛してるぜ。チュッ」

「なあ、俺の可愛いピンクボールはどこへ行った?」


 ラルヴァのほうから強烈なアプローチ、いや、ロールプレイ攻撃が始まったのだ。

 なるほど、そういう手もあるかとわたしは感心した。

 振り切れてしまえば、他人から見て本気だとは思われないだろう。


 ちなみに「ピンクボール」とは、まとい からメタナ〇ト呼ばわりをされるため、彼女を〇ービィに例えてのことらしい。メタナ〇トと〇ービィがそんな関係だったかはさておき、はたから見て笑いを堪えるのが大変だった。


 ラルヴァの目論見は当たり、まとい は「怖い」だの「キモい」だのと言って逃げるようになった。晒し板のほうにも、ラルヴァについては書かれていない。たんに付きまとい行為に反撃しているようにしか映らないのだろう。


 こうしてラルヴァは、まとい から離婚を突き付けられた。


 平和な日常が戻ると思われた矢先のことだ。

 わたしはログインしてすぐに呼び出しを受けた。

 指定された場所は墓地で、比較的に閑散としたエリアだ。


 そこへ行くと、呼び主の あるぱか と黒殺がいた。

 珍しい組み合わせだ。ラルヴァと あるぱか はそこそこ仲がいい、黒殺は現実世界でラルヴァと学友だが、ラルヴァを挟まずに あるぱか とはあまり絡まない。


「助かった。来るのを待ってたんだ」


 黒殺が言った。

 この近隣にいる敵は初心者向けだ。ゲーム上の話ではないらしい。


「あとは任せたのでよろしくお願いします」


 黒殺はそう言うと、ザコの盗賊にナイフで切り付けられながら退散した。

 それからなぜか、「全員爆死しやがれ」とわたしに個別チャットをよこした。


 わたしと あるぱか は、町の隅っこで座っておしゃべりをする仲だ。

 彼女は個別チャットは苦手だと言っていたが、改まってなんだろうか?


「あのね、ぼく、ラルヴァくんのことが好きかもしれない……」


******

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