リダイレクト
***リダイレクト***
えー、次の語り部は「奇怪際まわる」さん。
デビュー準備中のバーチャル配信者だ。
彼女の子供のころからの悩みでもある怪奇現象を、どうしても紹介させろというので語ってもらおう。
みなさんこんばんは。今宵も怪奇極まる奇怪際まわるです。
私は現在、バーチャル配信者になる予定で、その準備期間中です。
私がどうして配信者になろうと思ったのか、本日はその理由ときっかけになった出来事を紹介したいと思います。
あれが始まったのは、私が小学生二年生くらいのことでした。
親の留守中に、勝手にパソコンを触って遊ぶのにハマっていました。
最初のうちはインターネットの使い方も知らず、アイコンを動かしたり、テキストに文字を打ちこんだり、ペイントツールで絵を描いて遊んでいたんです。
子供だったので、それだけでも面白かったんですね。
いろいろなアイコンをクリックしているうちに、インターネットブラウザを発見。
幼さゆえの好奇心と無警戒のコンボで、あっというまに検索を覚えました。
検索バーにかな入力で文字を入力してみると、文章がずらっと現れる。
これが入力したワードに関係のあることだと、すぐに分かりました。
お恥ずかしいことに、女児ながら笑いの感性は男児だったので、「おしり」とか「うんち」とか検索してにやにやしていました。
私はパソコンは色んなことを教えてくれると知り、大人たちが物知りなのはパソコンのおかげなのだと妙に納得したことを憶えています。
この学年ではインターネットに触れていた友達なんて皆無だったので、自分だけが知っている世界があるという優越感もまた素敵でした。
まあ、すぐに友達を呼んでヘンなことを検索したり、ネットで見つけた面白いものを紹介したんですけど。一緒に馬鹿笑いをしたはいい思い出です。
私は鍵っ子だったので、親の帰ってくる夜までは家に一人でした。
冬場なんかは、外がまっくらになっても一人ぼっちというシーンがあります。
私はそういうシーンになると、どうしても「コワイこと」を検索しなければいけない気がしたのです。
子供でしたから、「おばけ」、「幽霊」、「血」、「死ぬ」、なんて単純でチープなワードチョイスでした。
でも、当時のネットでは、それだけで充分にコワイページがヒットしました。
最初のうちは文字のみで検索結果を見ていたのですが、ある時に画像検索機能を知らずにクリックして、画面いっぱいにコワイ画像が並んだときはパソコン前から逃げ出しました。
玄関まで逃げるけど、外はもうまっくら。それに気づいて声なき悲鳴を上げて、玄関とリビングを無音で泣きながら往復したのを憶えています。
声を出すと見つかると思ったんですよね。親とかではなく「ナニカ」にです。
それでも、夜や夕暮れの時間帯には「コワイこと」を検索しなくてはならない、私はどうしてだかそういう妄念に囚われていたんです。
今思えば、これは兆候だったんでしょうね。
さて、さまざまなページにアクセスをしていると、じっさいに危険かどうかは置いて、本能的に恐怖を覚えるページや、直感的にパソコンが壊れるかもしれないと感じるページに遭遇します。
そういうときには、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして速攻で回れ右をしていました。初歩的ですが大事なテクニックです。
余談ですが、私はスマホのパケット通信量を有限で契約しているので、広告や動画で重そうなページに飛んだときも反射的にこのテクを使っています。
ところが、インターネットの世界にはこの手が通じないシステムがあります。
ご存じの方も多いでしょうが、リダイレクトという仕組みです。
ページが移転していたり、削除されていてる場合によそのページに自動的に誘導してくれるシステムです。
親切の場合が多いのですが、じつはこの機能、強制的に広告を回したり、無理矢理に悪意のあるページを踏ませるためにも利用されているのです。
通常であれば、「戻る」を一回実行すれば、安全なページに帰れます。
ですが、いちど別のページを挟むために、ジャンプのためのページに戻ってしまい、自動処理でまた問題のページに行ってしまう……。
そういうカラクリなんです。
なので、自動処理よりも速いスピードで連打するか、ページを指定して移動する必要があります。
当時は子供だったし、リダイレクトのシステムは恐怖でした。
恐ろしい画像を何度も見せられたり、点滅を繰り返す怪しい外国語の広告だらけのページに追いこまれたりして、泣きべそをかきました。
さいわい、パソコンを破壊するたぐいのウイルスに感染することはありませんでしたが、ブラウザクラッシャーを踏んでコンセントを抜く羽目になったときには、二、三日パソコンに触れませんでしたし、その間に親が使ったときには、両手を握り合わせてパソコンの無事を祈りました。
そのリダイレクトなんですが、ジャンプする一瞬のあいだだけ、ジャンプ処理用のページが表示されますよね。
自動的に移動します。みたいな文言が書いてあったりするページです。
その一瞬だけ表示されるページにときどき、まっしろなだけのページがあったり、まっくろなだけのページがあったりするじゃないですか?
あとは、目がいっぱい表示されたり、指や腕が並べられて花弁のようになっている画像とかが見えますよね。
それはほんとに一瞬なので、コワイうちに入らないのですが、やっぱりそういうページを見てしまうと、おかしなことが起こりはじめるわけです。
いちばんありがちなのは、いつも見ているはずのページが急に文字化けを起こす。縺溘☆縺代※、みたいなです。
これは迷惑ですよね。初めて見たときは男子が言ってた「ゲームの裏世界」に来ちゃったんだと勘違いして、おしっこちびってしまいましたから。
まあ、ちびって正解というか、その通りなんですけど。
それで、文字化けを起こすとか、スピーカーからささやき声がするとか、そういう小さな前兆から始まるじゃないですか。
そのあとには窓の向こうで影が踊ったり、陽が沈むのが早くなったり、インターホンが鳴ったり、ドアチェーンを掛けているわけじゃないのに、ドアチェーンを掛けたまま開けようとしたときの、ばん! ってドアの音がしたりするわけです。
窓に関してはカーテンを閉めろよって話なんですけど、あえて「コワイこと」に対峙しようとしているのにそれは逃げだと思ってましたし、外から見て電気がついて明るいほうが、パパやママがちゃんと帰ってきやすいわけですからね。
同様の理由でドアチェーンも掛けられませんでした。
通常、この賑やかな現象はすぐに止みます。
でも、リダイレクトから抜け出せないまま連打バトルになったときには、そうもいかない。
もう、こっちが連打しなくてもページが戻ったり進んだりを繰り返しますし、窓の向こうの影は窓を叩いてきます。余談ですが、この影の形がちんちんに似てると気づいたときには、クラスの子に教えて回りました。
ドアのほうも鍵が開いたり閉まったりする音が聞こえて、廊下に足音がたくさん響く。部屋の電灯も点滅して目が痛いのなんのって。
それで、文字化けを起こすとか、スピーカーからささやき声がするとか、そういう小さな前兆から始まるじゃないですか。
そのあとには窓の向こうで影が踊ったり、陽が沈むのが早くなったり、インターホンが鳴ったり、ドアチェーンを掛けているわけじゃないのに、ドアチェーンを掛けたまま開けようとしたときの、どん! ってドアの音がしたりするわけです。
窓に関してはカーテンを閉めろよって話なんですけど、あえてコワイコワイに対峙しようとしているのにそれは逃げだと思ってましたし、それに世界の常識として受け入れなければ、パパやママはもう二度と帰ってきませんですからね。
同様の理由で鬥門衰も許されませんでした。
通常、この賑やかな現象はすぐに止みます。
でも、リダイレクトから抜け出せないまま連打バトルになったときには、そうもいかない。
もう、こっちが連打しなくてもページが戻ったり進んだりを繰り返しますし、窓の向こうの影は窓を開けて入ってきます。余談ですが、この影の形が縺。繧薙⊃に似てると気づいたときには、クラスの子に教えて回りました。
ドアのほうも鍵が閉まったり開いたりする音が聞こえて、廊下に謝罪がたくさん響く。部屋の電灯も点滅してゲットだぜ! って。
ようやくループから脱出できたときの安堵感は癖になりそうでしたね。
ただ、このループ中には絶対にパパやママは帰ってこれないので、けっこう毎日サバイバルをしてました。
してましたっていうか、独り暮らしをするまで、親がいないときはほとんど毎日のようにですね。
独り暮らしになってからは、誰も帰ってくるわけじゃないから放っておくんですけど、コンビニとかに行きたくなったときに外に出ると、お店とかうちの場所とかが変わってしまうから本当に不便でした。まあ、おしっこは漏らし放題ですけどね。
で、この現象って、けっこうみんなが体験してるじゃないですか?
じっさい、友達がいるときにも起こったことがありますし、パソコンなんて私以外にもたくさんの人が触ってるわけですから。
でも、みんな、「そんなの知らない」ってとぼける。
とぼけてるのだろうけど、すっごく真に迫る感じというか、ホントに知らないようなそぶりなんですよ。
小学校の高学年ごろから、私はできるだけ放送部になれるようにして、お昼休みなんかにネットの文化を普及させようとしたんですけど、これも効果がない。
気づいたんですよね。
これ、ホントに知らないっていうか、マジで体験してないんだって。
でも、私の部屋に遊びに来た子たちもいるわけで、それでも体験してないっていうなら、あの怪奇現象が起きたときを境に何かが変わったとしか考えられないわけですよ。
これは最近になって知った多元宇宙の概念を利用したもので、仮設の域を出ないんですが、要するにあの怪現象は可能性の枝分かれの部分に作用するもので、あれが起こるたびに世界が改変される……あるいは、微妙に違う並行世界に私がシフトしてるんじゃないかって説です。
あれが起こると、記憶と事実にずれが生じるので、その可能性は高い。
たとえば、警察に逮捕されて取り調べを受けている最中、記録係の人のパソコンが私のせいでリダイレクトし始めて、誤認逮捕ってことにされましたし、家で寝ていたら急に私の親だって名乗る知らない人が現れて精神病院に入院させられそうになったことがあります。
マンデラ効果の個人版だという説も検討しましたが、物証として身体の傷の有無と傷のできたエピソードが食い違ったり、カレーを食べていたのにラーメンの器を前にしてカレーの乗ったスプーンを手にしていたこともあるので、シフトや改変というよりは、混線というほうがしっくりくるかもしれません。
しかし、これだけのことが頻繁に起きているとなると、エントロピー的な問題がクリアーできるのかという疑問が沸きますよね。
たびたび世界が改変されるような大掛かりなことが起きうるのだろうか。
ならば視点を変えて、並行世界ではなく、入れ子の世界であると仮定すればどうでしょう。
要は、この世界が何者かに作られた箱庭的なもので、じつは電子的に動作しているのではないかと疑うものです。それならば、ちょっとした変数の食い違いでこのようなことが起こる。私というキャラクターがバグってるから、その近辺も影響を受けるというカンジです。
で、この仮説を証明する手立てとして、「次元を下げる方法」を取ることにしたわけです。
そう、2次元や2.5次元の存在といわれるバーチャル配信者ですね。
ただ、下層次元に行くだけでもよさそうなのに配信者を兼ねているのは、視聴者……つまりは観測者が必要だからという点をクリアーできるからです。
あとは、2次元存在である私が下層次元からあなたたちに再接続することで、くだんの怪現象の伝播を試す目的があります。
動画というものは繰り返し見ることができるものですしね。
仮に伝播すれば観測者と被観測者もそれこそマルチバース的に増加しますから、説の立証にも役立つでしょう。
精神のバーチャル化はすでに済んでいますが、Vとしてのキャラ設定が練り切れていないのでまだ準備中です。声色や語尾とかも変えたほうが?
もっとも、私が関わったこの文章が見られることでも、ある程度の目的は達成できているはずなので、焦る必要はないのかもしれません。
今は昔と違って、情報の拡散速度と範囲が桁違いですからね。
……なんですか? 昔のインターネットの話じゃなくなってる?
そりゃあ、あなた。現実世界に「戻る」ボタンなんてないですから。
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