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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「怪」の章

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七人部屋

 さて、執着心を取り扱った「飢」の章、いかがだっただろうか?


 電子世界をキーとした話であるゆえ、どうしてもヒトコワ寄りになりがちだ。

 しかし、デジタルの世界にも怪異はある。

 バグや勘違いを越えた確かなる異変。

 怪談の醍醐味はいくつもあるが、「境界」を踏み越える瞬間もそのひとつといってもいいだろう。

 にわかには信じがたい怪奇現象。

 境界線の向こうだけをかいつまんで聞けば、荒唐無稽も甚だしい。

 しかし、かれらは確かに起こったのだという。

 ここから先は、わたしのネットの友人たちによる怪談語り、「怪」の章だ。



***七人部屋***


 これは、「ジュンサン」さんが語ってくれた話だ。


 もうずいぶんと昔の話ですが、当時の俺は工業高校の電子系コースに所属していました。

 夏の話ですね。通常の座学に加えて、週に六時間ほど実習の授業のあるコースで、夏休みでも実習期間があって登校しなきゃいけなかったんです。

 といっても、けっこうラフで、実習内容をある程度こなしたら、あとは自由時間みたいな、先生側のノルマって感じの内容でした。


 で、空き時間にパソコンとか使って遊んでたんですよ。

 俺は仲のいい連中と、大きなチャットサイトに行って遊んでました。


 目的は女です。


 うちの高校は工業系ということもあり、当時は女子がすごく少なかったんです。いちおうは共学だったんですけど、うちのクラスはなんとゼロ名。今ならコンピューター関連に女子はけっこういると思うんですけどね。


 盛りのついた男子高校生にはつらい環境です。


 でも、工業系に集まる男子ってのは、オタクか普通科じゃ厳しい勉強下手、あとは親に手に職つけろといわれた不良手前みたいなやつばっかで、女の子を引っ張ってきて遊ぶなんて、とてもじゃないけど無理でした。


 それで、チャットに潜りこんで女の子漁りってわけです。


 目的は女、なんてイキった書き方しましたけど、チャットは文字だけですし、仮に仲良くなってもどこに住んでるかも分からない。ホント、ちょっとやりとりを楽しもう程度のことです。

 マジで会いたかったら出会い系とかなんでしょうけど、当時の出会い系は基本的にアングラで、今みたいに結婚のためのツールじゃなくって、援助交際やヤリ捨ての温床になってて、定期的に揉めた女の子が行方不明になったり殺されたりするニュースを見かけてましたね。


 もちろん、俺たちが選んだチャットサイトはごく普通のサイトでした。


 無数にあるチャットルームはそれぞれカテゴリー分けされていて、年齢、地域、趣味、あとは相談なんかの用途別がありましたね。

 明確にカテゴリーが記されているにもかかわらず、その通りに運用されているとは限らず、常連が占拠していたり、小学生ばかりで話にならないようなチャットもありました。どこ中? 何年? ポ〇モン知ってる? なんてね。


 ストレートに女性であるかどうか訊くとなると、ちょっと卑しいかなって。じゃあ、どうやって女性を見つけるかというと、俺のハンドルネームが便利でした。

 この「ジュンサン」は、ある韓国ドラマの男性主役の名前です。当時は韓流ドラマブームが始まったばかりで、おもに主婦層を中心に人気がありました。

 かといって、別に俺は主婦狙いや熟女趣味ってわけじゃなく、この名前で入室するだけですぐに相手の性別が分かったのと、「お母さんが見てる」っていう子はだいたい女子中~高校生なんで、判別に使えて都合がよかったんですね。

 じっさい、俺の親もハマってましたから、俺も内容がちょっと分かったんで、会話の種としても便利でした。


 相手が女の子だと分かればそれで充分で、別に質問攻めにしたり、セクハラまがいのことを言ったりしたり、なんてのは……まあ、仲間の一部を除いてなかったです。

 俺は、いまどきの女子がどんななのか知れるだけで面白かったですしね。

 まあ、心中では普通の高校の連中に嫉妬しまくりでしたけど(笑)。


 俺たちのサルっぷりは分かってもらえたと思うんで、本題に入ります。

 女子とのコミュニケーション以外で目的にしてたものがありましてね。

 ずばり、「エロい、またはエロそうな会話探し」です。


 設定ができたんでしょうね。カテゴリーによっては入室しなくても会話を見るだけってのができて、会話に参加しなくても内容を楽しむことができたんです。

 中にはいやらしい話や、プライベートな話をしてるやつもいて、でも入室すると流れを切ってしまうんで、外からこっそり覗くわけですよ。

 エロや出会い目的の利用は規約違反でもありましたしね。

 パソコン室でチャットしてる連中と手分けして、よさそうなのを見つけたら声を掛けて、そのパソコン前に集まるんです。

 チェックすれば見学者も何人いるか分かっちゃうんで、一人だけ見学で入ってもらって、そいつのパソコンモニターを全員で覗きこむ。

 んで、エロい展開とかになったら、おーって盛り上がるってわけです。

 規約違反でシモ談義してるのを始め、小学生男子っぽいのが下着の色聞いて回ってるのとか、なまなましい恋愛相談してるのとか、そんなんです。


 仲間の一人がネットゲームに通じてて、そっちの世界じゃ「チャチャットエッチ」なるものがあるなんていうんで、なおさら躍起になってね。


 まあ、そこまでの当たりはなかったんすけどね。

 でも、最初にそこそこエロいの見つけちゃったから、入り浸るようになって。


 そーいうのを探してると、メッセージが外野から見えないうえに、いつも人数制限で埋まってるチャットってのが見つかるんすよ。


 サーバー的に重いからか、一対一の個室みたいなのは用意されてないんですけど、だいたいは十人か二十人で上限が設定されてて、盛り上がってるチャットほど人数が多い。


 粘って人が抜けた瞬間を狙って入ると、「そこは〇〇さんの席!」つって、ただ単にマナー皆無の常連どもが占拠してるだけで、内容はクソつまんねーってのが大抵なんすけど……。


 仲間の一人が、変な部屋を見つけたんですよね。

 カテゴリーはなんだったかな。とにかく、人数制限が七人だった。


 いろんなハンドルネームのやつが七人入っていて、それで上限。

 そのカテゴリーではROMの利用者にも会話が見えるはずなのに、ログがまっしろ。

 ちょっと異質だったんです。

 最初は管理人用の部屋じゃないかって言い合ってたんですけど、仲間の一人が「いや、絶対に隠れてエロいことしてる!」つって、聞かなくて。


 もうバカなんですけど、ログインできるまで粘る、つって、ずっと待ってるんですよ。

 けっきょく、パソコン室閉めるぞーって時間までカラ振ってて、みんなでそいつを笑いました。


 でもね、妙なことが起こったんですよ。


 その翌日だったかな。チャットサービスのメンテナンス時間と被っちゃって、チャットができなかったんですよ。

 逆に、全員部屋からはじき出されるから例の部屋にも入れるだろってことで、メンテが終わるのを待ったんです。


 ところが、メンテ明け直後だってのに、その部屋は埋まっていた。

 それこそ管理人用の……って話にはならない。

 なぜなら、管理人用の部屋はカテゴリーの外に設置されてて、管理人には特殊な名前がついていて分かるから。前日に調べてて知りました。


 でも、くだんの部屋に入ってるやつは普通の名前っぽい。


 仲間の一人がいうには、メンバーが一人入れ替わってて、別のチャットルーム

で見たやつが入ってるってことらしい。

 先を越されたって悔しがってましたけど、すごいタイミングだよなって。


 んでまた別の仲間の一人……そうですね、「鍵葉」とでも呼びましょうか。


 鍵葉は俺たちのあいだでは「売人」でした。

 売人といっても、薬物の売人じゃないです。

 パソコンでプレイできるエロゲーをどこからか入手してきて、それをCD‐Rに焼いて格安で売ってくれたんです。

 ヤクじゃないけど、ばちばちの違法行為です。

 どうもソフトにコピープロテクトが掛かってるみたいで、鍵葉の焼いたやつじゃないと起動しなかったっすね。

 俺たちは鍵葉の伝手でエロの補給をしてたんです。


 で、そいつがサブキャラの攻略ついでに自宅でもチャットの入室を粘ってみるって言いだしましてね。


 夏休み中の実習期間もちょうどそこで終わりだったんで、「あとで会話内容教えろよ」って軽く流したんすよ。

 俺も家でネットが使えたんで、後になってチャットを覗いたら、七人のうちに鍵葉のハンドルネームがあったんですね。

 おー、あいつやるじゃん。夏休み明けたら楽しみだって。



 でもね、鍵葉のやつ、九月から登校してこなくなっちゃったんすよ。



 担任の先生に訊いてもはっきり言わないんですよ。首なんかかしげて。

 あー、あれな? みたいな感じで。

 鍵葉の家まで行ったんすけど、引っ越したのか別の家族が住んでたんです。


 俺たちもこれはおかしいぞってなったんで、あいつが使ってたネットの掲示板とかで実名出して聞いて回ったんです。それでも手掛かりゼロ。


 仲間のうちの一人が、妙なこと言い出しましてね。

 鍵葉いたぞ。あいつ、あのチャットにいるぞって。


 見に行ったら確かに鍵葉の名前がある。相変わらず七人で埋まってました。

 ログもまっしろ。何やってるか分かんない。

 あと、ログイン順で名前が並ぶんですけど、あいつより後が一人いましたね。


 ネット使えるやつで粘ってチャットに入って話を聞こうってなって。

 俺もチャレンジしたんですけどダメで、別のやつが入室できたんです。

 名前は……誰だったかな。

 たぶん、エロゲーのコピーの? あ、それは鍵葉だっけ。


 まあ、誰でもいいです。そしたら今度はそいつまで来なくなった。

 担任はまた「よく分からん」で流す。

 そいつの家は知らなかったから、訪ねられなかった。

 でまた、そいつはチャットに入ってる。


 そっから先も、何人かが退学だったか転校だったかして……。

 よくわかんないんですけど、消えたのはチャット組ばっかだったんです。

 ヘンな病気でも流行ってたんすかね?

 卒業までけっきょく分からず仕舞いでした。

 卒業して就職したあと、俺も一回だけチャットに入れたんすけど、誰も何も話していないチャットでしたよ。

 なんか、文字打って送信しても表示されなかったし。バグですかね?


 それで、最近になって、同窓会のはがきが来たんです。はがき。

 当時はスマホもなくて、ケータイもみんなが持ってたわけじゃないんでね。

 んで、この話を思い出したわけなんすけど……。


 同窓会はまあ、ただの居酒屋でやったんですけど、ヘンなことがあって。

 クラスの連中に「誰だっけ」なんて、言われたんです。

 そりゃ、今回が初めての同窓会だし、ずっと顔を合わせてなかったんでね。

 でも、ひでーなって笑って流したんすよ。

 そしたら、「いや、おまえもいなかったよ」とか言われて、卒アル見せられたんです。


 ……なかったんすよ。卒アルに俺の名前も顔も。


 つっても、「そりゃねーだろ。こっちはみんなの名前覚えてるのに」って、言いかけたんすけど……。

 俺の勘違いだったっぽいっす。いや、知らねーやつばっか。

 謝って帰ろうとしたら「あんたで七人目だったよ」、なんて言われて。


 けっきょく、よその同窓会に来ちゃってたみたいなんすよね。

 はがきの誤送とかなんすかね?


******

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