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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「飢」の章

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冒涜礼賛

***冒涜礼賛***


 「ゼノス」さんはある時期、グロ画像の収集にハマっていた。


 この話は、彼たっての強い願いで加えさせていただいた。

 彼自身は現在、その悪癖を恥じており、この話はその供養を兼ねている。


 なお、かなり不快な表現(具体的なエログロ、動物虐待描写)が多用されるため、苦手な方は読み飛ばして欲しい。



 ふふ……。当時のオレは、イカれもイカれていましたよ。

 弱冠十四歳にしてネットに触れ、アンダーグラウンドを謳歌していたんですからね。

 きっかけは、ある個人サイトのチャットに貼られたURL。

 闇に触れたオレは、憑りつかれたようにダークな世界をさまよいました。

 つっても、そういうやつは全国を探せば多少いたと思うんですよ。

 でもオレの場合は、「初カキコうんたら」なんて目じゃないんですよね。


 当時のグロ好きの連中なんて、掲示板で「モタ男」を見つけて喜んでる程度でしょう?

 誰かが転載しただけの画像を。

 でも、俺は自分で掘るんですよ。

 腐肉混じりの土を掘り進んで、死体を掘り当てる。

 本命は日本じゃないです。アンダーグラウンドは海外に長がある。

 仮にモノが日本産だとしても、アップは海外のサーバーです。

 英語はもちろん、スペイン、アラビア語なんかは多少単語が分かるようになりましたね。

 見つけやすい検索キーワードとかもあるんですよね。ここじゃ話せませんが。


 まあ、有名なグロ画像そのものは否定しませんよ。

 使い古されたって、モノは変わらないんですから。イイものはイイ。


 でも、メキシコの麻薬組織や日本のヤクザが作ったスナッフフィルム、個人が偶然撮影した事故現場、警察の流出証拠写真なんて、一般人は持ってないでしょ?


 あと、言っときますけど。血や肉のグロなんてのは入門編ですから。


 死の対極にあるのは生でしょう? 生ってのは性に連なる。

 死、生、性の隣り合わせは、民俗学なんかではお約束なんですよね。


 そういうわけで、オレはウマの巨大なペニスを挿された女性だとか、スキンヘッドの男が頭を女性の膣にねじ込むような動画も気に入ってましたね。


 性行為なのに生につながらない倒錯的な世界……ッ。


 自傷行為なんかも見るのが好きで、病んだ女子がリスカ画像上げてるようなブログもずいぶんと泳ぎ回りましたよ。どいつもこいつも「円光」です。

 もちろん、「P2P」が流行っていた時期なんかは、その手の動画はもちろん、児童が「対象」にされるようなものもコレクションしました。


 オレはね、本来は大切にしなきゃいけないもの――いのち――を粗末に扱っている事実に興奮するんです。ペニスがね、勃つんですよ。


 冒涜的であればあるほどいい。


 それに関しては、老若男女は問わない。

 あるいは哺乳類であれば、人間でなくてもいいこともある。


 文脈が大事なんですよ。

 例えば荒野に横たわった牛の腹が破れていて、中が半分からっぽの画像。

 確かにグロいですよね? 

 でも、それはライオンが食べ残した残骸で、「意味」がある。興奮はしない。

 それよりは、オスのひよこがシュレッダーにかけられているほうがイイし、なんなら、閑散とした動物園にただ展示されているだけの動物のほうがクる。


 ですがね。

 画像や動画って、しょせんは「記録」に過ぎないんですよ。

 それは過去であり、すでに確定して過ぎ去ったものなんですよ。


 初見だと、脳のバグである程度の没入感が強制的についてくるんですけど、

なんども振り返っているうちに、慣れてくるんですよね。


 繰り返しても飽きなかったものとしてはやっぱり、ブログでしたね。

 更新がリアルタイムだからでしょうね。

 ライブ感ってやつです。


 じゃあ、究極のライブって何? って話になります。


 ……うちにね、ネコが居るんですよ。いや、居たんですよ。


 細身のぶち猫で、黄色いビー玉のような瞳をしたネコ。

 だみ声だったんで、鳴き声にはあまり愛嬌はありませんでしたね。


 試しましたよ。


 でも、ライブ感(げんじつみ)って係数はあまりにも強すぎた。

 オレの「性癖以外の部分」にも掛かってしまう。


 ナイフの入った引き出しに手を掛けようとしたものの、オレは手を引っ込めて、その手で愛猫を撫で回しましたね。

 ようは性癖よりも、可愛いや可哀想のほうが圧倒的に強かったんです。


 オレはアンダーグラウンドでもディープなところを見てきたつもりでしたが、「才能」はなかった。

 もっとも、オレのように一線を越えられないことのほうを「才能」と見るやつもいますが。


 たいてい、そういうやつはディープなところに潜るまで行かない。

 浅いところでやってしまう。


 身近な例としては、反射的に殴るオトナなんてのがそうでしょう。

 俺の親がそうでしたから。

 まあ、連中は子育てのつもりで非生産的なことをしている。

 無意識の冒涜です。

 ですが、あまりにも浅薄すぎる。


 じゃあ、ライブ感とある程度の深さを持つものってなんだ? って話です。


 勘のいい方は気づかれたんじゃないでしょうか?


 そう、某匿名掲示板の実況系スレッドです。

 これの中でも、「いのちを粗末にしている」ジャンル。


 生き物苦手……といえば思い出す方もいるでしょう。


 もともとは、ペットマナーや生理的な動物嫌いに関する相談や共感のために使われていた掲示板なんですけど、一部で虐待行為や残虐行為、それを描写した創作なんかが投稿されるようになりましてね。

 ヒトの悪意や憎悪が露骨に表れていた世界でしたよ。

 そこには、たんに「事実」や「過去」である動画像や、翻訳の必要な海外グロサイトなんかでは味わえない冒涜がありました。

 創作物なんかは、ヒトの持つ冒涜への憧れや欲求から噴出したという事実がありますから、出来が稚拙でも価値を感じましたね。


 このジャンルの掲示板は、動画投稿プラットフォームが流行してから世間の目にさらされるようになって問題視されるようになりましたが、オレが入り浸っていた時期はまだ動画のライブ配信なんてほとんどなかったですからね。

 わざわざ撮影した動画像をアップローダーに上げて、それを掲示板に貼る。

 動画像なら、これまでと同じ、あるいは海外グロサイトのほうが格上じゃないかと思われる方もいるかもしれませんが、想像してほしい。


 その動画像は、どこからか回されてきたものじゃない。「自炊」だ。

 そしてその制作者、撮影者がどこかで自分と同じ掲示板を見ている。


 レスをすれば返事をくれる。

 誰かが虐待のリクエストをすれば、それに応える。

 いのちの冒涜がおこなわれているという「現実」に触れられるんです。


 厳密には直接は触れていないでしょう。近づくだけ。膜一枚の隔てだ。

 あるいは、同趣味だからどちらでも同じことだと言う方もいるかもしれない。

 それは、性行為におけるコンドームのような差なのかもしれませんね。


 その絶妙な解釈差、表層と深層、ライブと記録の境界線。

 それらの入り混じった世界が掲示板の実況というものだったんですよ。


 さて、長くなりましたが本題です。

 オレが懺悔するきっかけになった話をしましょう。


 深層の旅から戻り、再び匿名掲示板でリロードを繰り返すようになったオレは傷心していました。

 愛猫が居なくなってしまっていたからです。

 ネコってのは死に際を見せたがらない生物らしくて、死期を悟ると失踪することがあるんですよ。


 ふッ……。もし、愛猫の生死の境界が目撃できていれば、オレは泣いたんでしょうかね? それとも、興奮したんでしょうかね?


 ともかく、愛猫の件でこころを痛めつつも、平気で動物虐待の実況投稿を見ていた。

 それで、あるコテハン(匿名掲示板における固定ハンドルネーム)の男が、解体ショーを撮影した画像をスレッドを作ってアップロードしたんです。


 バッタをばらばらにした、クソつまらない画像。

 カタツムリを踏みつぶした、クソつまらない画像。


 大した反応はありませんでした。「小学生のころに俺もやった」なんて、むしろノスタルジーを感じるレスポンスが多かったと記憶しています。


 次に男がアップしたのは「ウシガエルが絶妙な力加減で繰り返し踏まれる動画」でした。


 げっ、げっ、ぐぇっ、ごぼっ。


 オレは気に入りましたね。

 殺さずに、なんどもなんどもカエルに圧力をかける。まるで楽器だった。

 ひと思いに殺したり、矢鴨のように継続的に単純な苦痛を与えるよりもイイ。

 動画の後半では、虐待者はリズムを取っていました。


 死や痛みを主軸にするのは、生の意味や重さを意識しているからです。

 死や痛みを副次的なものにして、生死に届かない形で虐待をする。

 真の冒涜への門戸を叩いたといえるでしょう。


 オレはそいつのセンスを買い、投稿を追うことにしました。

 もちろん、理解者としてそいつを褒めてやった。


 だが、次の投稿は酷いものだった。


 ハムスターを火攻めにして叫ばせる動画。

 音が鳴ればいいってもんじゃない。


 褒めているスレ民が大抵でしたけど、オレは「イマイチ」とレスしてやった。


 そいつは翌日になって、「麻袋を棒で叩く動画」をアップしました。

 鳴き声からして、袋の中身はネコだ。汚い鳴き声だった。

 スレ民は大絶賛。単純に残虐行為を見たいだけのバカもいましたが、ことさらネコに関しては、じっさいに恨みを持っているやつも少なくなかった。

 今でこそ田舎くらいでしか見かけませんが、ネコの放し飼いが近所トラブルになることは珍しくなかったんですよ。うちも自由に出入りさせてました。


 まあ、オレが気に入らなくても、周囲からは大絶賛といっていい評価だった。

 でも、どうやらそいつはオレのことを意識していたみたいで、直接アンカーをつけて「何が気に入らない?」と聞いてきた。

 だからオレは、オレの思う「冒涜の美学」を教えてやったんですよ。


 ところがどっこい、そいつは何を勘違いしたのか「じゃあ、三味線でも作るか」って言い出しましてね。

 皮のなめし方だとか、弦はどうすればいいのかとか、大真面目にスレ民と相談し始めたんですよ。


 苦笑しましたね。

 確かに虐待は冒涜です。生物の苦痛を見て楽しむのも冒涜だ。

 ネコを三味線に加工するのは文化としてあったけれど、愛護的にはNGだ。

 でもそれを大真面目にやってしまうと、オレの美学では「冒涜」ではない。

 家畜を屠殺するのは冒涜だとは思わない。

 ラットやウズラをパイソンに呑ませること自体を残酷だとは思わない。


 で、オレはもうそいつに見切りをつけて、スレを追うのをやめたんです。


 そしたら、今度は逆に投稿者のIDを元に追いかけられて、しつこく「剥いだから見ろ」って言ってくるんですよ。

 ジャンル外の掲示板にまで来ましたからね。なかなかの執着心ですよ。


 日を跨げばIDも変わるし、無視してれば逃げきれたんですけど、いちどはセンスを褒めたし、美学を語ってやった縁もあります。オレはスレッドに戻って画像を見てやりました。



 きれいに開かれた、ネコの毛皮の画像でした。


 ぶち模様の。


 どこかで見た。


 ……背中側に古い縫い跡があって、そこだけ毛並みが欠けている。


 記憶がフラッシュバックしました。

 昔、うちのネコが何かに引っ掛けたのか、帰ってきたら背中を切っていたことがあった。

 かなり深い傷だった。オレは泣きながら親に頼んで病院に連れていって縫ってもらったんです。ケチ親父には殴られましたが、それでもすがりつきました。


「おまえ、その猫どこで調達した?」


 オレは平静を装ってた。まだ、確定じゃない。


「その辺。近所の〇〇に入り浸ってる半野良だ。近隣にクソをばらまくクソ袋」


 〇〇はうちの近所にもあるスーパーのチェーン店だ。

 まだ、確定じゃ、ない。


 オレはそれ以上、掘り下げるのをやめました。

 だがそいつは、「運命的な再会エピソード」を書いた。

 厨房(中学生、中坊の隠語)のころに切りつけてやったやつだって。


 もはや、興奮なんてどこにもなかった。

 怒りや悲しみすらも差し置いて、ただ戦慄がオレを支配していました。


 そうしてオレはもう、掲示板に行くことはなくなったんです。

 お宝を掘ることもやめ、コレクションもすべて破棄しました。


 この件から二年くらい経ったころでしょうかね。

 独特なコメント機能で有名な某国産動画プラットフォームが流行したころ、オレの家の近所のマンションに住む男が、動物愛護法で逮捕されました。

 そいつはネットに虐待動画を頻繁に上げていたそうです。


 ライブ感とは言いましたが、想像力が足りていなかった。

 同じ時間に同じ掲示板を見ている事実なんて、大したことじゃなかった。


 そいつは近所に居たし、オレの手に撫でられていたネコも確かに居た。

 もっと視野を広げれば、これまでオレが挙げてきた動画像だってそうです。

 どうしてことが起こり、なんのために記録され、なぜアップロードされたのか。


 ただ、感じられなかっただけ。


 愛猫の死は、この愚か者への罰だったんです。

 だからこの話は、愛猫の供養も兼ねて書いてもらってます。


 でもオレは、深淵に触れる趣味を否定する気はないです。

 必要なのは正しい理解です。

 自分がどうしてそれを好むのか、何が冒涜で、何が敬意なのか。

 この理解が足りていないと、「才能」の有無にかかわらずラインを踏み越えやすくなる。

 理解をしたのなら、もう身を引いて欲しい。

 浸かり続けること、留まり続けることで眼が曇り、真実を見失うから。


 レスト・イン・ピース。我が愛猫よ、安らかに。


******

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