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昔のインターネットのコワイ話  作者: 鳥遠かめ
「漂」の章

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幸運の鳥居

***幸運の鳥居***


 ネットゲームで知り合った知人、「ながぐつイチゴ」さんの話だ。


 大学生のころ、私は就職活動や人間関係で悩んでいました。

 藁にもすがる思いで、インターネットで占いサイトなんかを閲覧して一喜一憂を繰り返していたのです。


 そんなとき、あるサイトを見つけたんです。


「天厳霊網大社」


 聞いたことのない神社の名前、神様の名前を冠しているのでしょうか。

 白を背景に鳥居の画像が一つあるだけの画面構成。

 神社の公式サイトとは違う雰囲気でした。

 なんというか、神社そのものって気がして……。


 吸い寄せられるようにマウスカーソルを鳥居へ移動してクリックをすると、テキストボックスがひとつと、「願」のボタンが配置されたページが表示されました。


 繰り返しますが、この頃の私は大真面目に神頼みにすがってました。

 すぐさまテキストボックス内に願いを列挙して、モニターの前で柏手を打ってボタンをクリックしました。

 すると、ボックスもボタンも消えて、「承」の一文字が表示されました。


 それだけです。


 今ならネット参拝とかもあるじゃないですか。でも、このサイトはお賽銭を模したやりとりもありませんでしたし、占いサイトのように結果が表示されることもありませんでした。


 でも、それはそれで本格的な感じがするじゃないですか?

 だから私は、その日はサイト巡りをそこでやめました。

 普段はいい結果が出て気が晴れるまで巡回するんですけどね。


 その日は興味のあった会社の面接日でした。

 手ごたえあり、というカンジでした。仮にパスしていても、集団面接と最終面接もあるので、まだまだ先は長いのですが……。

 占いブーム中だった私は、その程度のことも占いにこじつけて考えてましたから、あの鳥居のサイトに感謝しました。


 だけど、幸運はそこで終わらなかったのです。


 久しぶりに軽い足取りで帰宅すると、なんと完全に諦めていた企業からの採用通知が来ていたんです。しかもその企業は、その日に面接した企業と同業種の大手、私にとっての大本命でした。


 それを皮切りに、私を中心として幸運な出来事がつぎつぎと起こります。


 実家の母が、宝くじでそこそこの高額当選をしました。

 妹が逃がしてしまっていたオカメインコが、生きて帰宅しました。

 父が勤務する会社が、大企業に吸収されることになって頭を悩ませていたのですが、なんと合併後に重役への大抜擢。

 私自身も、長年悩まされていたアレルギーがあったのですが、それがぱったりと出なくなったんです。


 それから、小学校のころからの親友です。

 彼女は私よりも就活などでナーバスになっていて、首でも吊りそうな様子でした。

 正直、彼女のネガティブな発言や自殺をにおわす発言にこちらもやられそうになっていたんですけど、あの鳥居への参拝を勧めたところ、物事が急に好転して笑顔を取り戻しました。


 私は、占いサイトなどを見るのを一切やめました。

 あの神社の御利益を上書きしてしまうような気がしたからです。


 これだけの幸運続きです、人生の波に乗るなら今です。

 仕事、家族、友人関係ときたら恋愛です。


 高校の時から付き合っている彼氏がいました。

 彼との仲は良好だったのですが、彼もまた就職活動が失敗続きで、私の幸運との落差で最近は腐り気味になっていました。


 彼にもあの鳥居のサイトを勧めようかと考えます。


 逆に、なぜこの時点まで彼に勧めてなかったのかというと、宗教上の問題があったからです。


 高校三年の正月に初詣に誘ったんですけど、断られてしまいました。

 彼はある宗教の二世信者で、鳥居をくぐることはできないとのことでした。


 私自身、デジタルでも占いや願掛けを節操なくする人間ですし、宗教に対してそれほどの偏見はないつもりです。

 ですが、彼のご両親は彼以上にのめりこんでいるとのことで、彼の口づてに「お嫁さんにも将来的に活動に加わってもらいたい」と聞いていたのです。

 加えて、彼はどうも早めの結婚や子育てなども視野に入れているようでした。


 そう、今の私にとって、少し重い存在になっていたのです。


 それでも希望は抱いています。

 大学生活のあいだに考えや信仰が変わっているかもしれませんし。


 リアルで鳥居を避けた彼にあのサイトを見せれば、どういう反応をするのか。


 幸運の鳥居ですから、私の望み通りのことが起こるかもしれません。

 たかが鳥居の画像を見せただけで怒るようなら、別れるべきかもしれません。

 さいわい、ゼミの後輩や院生になった先輩からアプローチも受けていますし。


 私は、彼に天厳霊網大社のURLを送信してみました。

 すぐに返答がありました。


「おもしろいじゃん」


 肯定的? どきどきしながら続きのメッセージを待ちます。


「いろいろお願いしといたよ。俺も幸運にあやからないとな」


 信じているかどうかはともかくとして、彼は鳥居に怒ったりしませんでした。

 人生設計のほうも、もう少し余裕をみて考えてくれるといいのですが。

 私は来春から始める仕事を長く続けたいと考えていますから。


「最近この話してなかったけど、このサイトを見せてきたってことは、活動に参加してくれるってことでいいんだよな?」


 ……どういうこと? 私は訳が分からなくなりました。

 文字では埒があきません、ケータイを取り出して彼に電話します。


「活動って、あなたの家の宗教の?」

「そうだよ? 来週の日曜日に、さっそくあるんだけど空いてる?」

「待って、ひろぽん(彼氏のニックネームです)もまだ信者なの?」

「まだって、一生信者だろ。なんでそんなこと言うんだ?」

「だって、さっき鳥居の画像を送っても、怒らなかったし……」

「そりゃそーだろ」


 彼は笑いを含んだ口調で言いました。



「さかさまになってる鳥居なんて、いいセンスしてるよ」



 さかさま……?


 私も天厳霊網大社にアクセスしてみましたが、この前と同じで普通に鳥居の画像が表示されているだけです。


「鳥居、さかさまじゃないけど」

「何言ってんだよ。現に今もノーパソに映ってるっての」


 私は黙りこみました。


「何? さかさまじゃない鳥居を見せようとしたわけ?」


 彼の声のトーンが下がります。私は適当に言い訳をして、電話を切りました。



 それから一週間のあいだ、彼とは連絡を取りませんでした。


 ようやく彼のケータイから着信があり、私は別れを覚悟で受話器ボタンを押します。

 すると、電話口に現れたのは彼ではなく、共通の友人でした。



 交通事故だったそうです。



 その友人の話では、彼はいきなりうしろからお年寄りの運転する軽自動車に突っこまれ、道路をまたぐほどの勢いで吹き飛ばされて、頭からアスファルトに激突しました。

 あまりの勢いに首が胴体にめりこんでしまって、肩と腕を地面につけ、脚を上にしたさかさまの姿勢で亡くなっていたそうです。


 これは異教徒への祟りなのでしょうか。

 それとも、彼の信仰する宗教の禁を破った仏罰なのでしょうか。

 私には分かりません。


 それ以来、私は新しく男性とお付き合いするときには、必ずあの鳥居を見せるようにしています。

 今のところ、私と同じ鳥居を見た方はいないのですけれど……。


***

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