第十五話「正しさよりも、君と」
学院祭の片付けが終わった夕方。
展示棟から人の気配が消え、そこはいつもの静けさを取り戻していた。
微風が、廊下を抜ける。
種火が、片付け忘れのランプを淡く照らす。
その中庭のベンチに、ヒリス・イーノンとアリスティア・ウィグサムは並んで座っていた。
「……本当に、終わりましたね」
「……だな。まあ、後夜祭はまだあるけど」
ヒリスは、少し疲れたように笑った。
「でも、終わったのは行事だけです」
ヒリスはその言葉の意味を考え、そしてゆっくりと頷いた。
「……そうだね」
沈黙。
だが、以前のように重くはない。
(今日ここから、始まるんだ。)
互いに、そう思っていた。
◇ ◇ ◇
帰り道。
二人は、自然と並んで歩いていた。
「……噂、すごいだろうな」
ヒリスが言う。
「……想像はつきます」
「アリスティア、クラスで大丈夫?」
アリスティアは、一瞬考えてから答えた。
「……少し、落ち着かないかもしれません」
「そっか」
「ですが」
彼女はヒリスを見上げる。
「……あなたが隣にいるなら、きっと大丈夫です」
その一言に、ヒリスは思わず立ち止まった。
「……それ、反則」
「……?」
「嬉しすぎる」
素直な言葉に、アリスティアは顔を赤くして視線を逸らす。
「……言葉の選択を誤りました」
「いや、正解だよ?」
「……それならば、よかったです」
アリスティアは耳まで赤くし、ヒリスの方を見られない。
そんな彼女を、ヒリスはひどく愛おしく思った。
——この世界には、派手な魔法はない。
劇的な奇跡もない。
それでも世界は回り、人々は歩む。
これは、正しさに縛られていた少女と、役に立つことでしか自分を測れなかった少年が、同じ速度で歩き始めた記録。
「フロートゼ魔法学院の恋愛簿」
次の一冊は、こうして確かに書き終えられた。
だが、二人が紡ぐ物語はきっと、これからもずっと続いていく。




