表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

虫の知らせ

いつも通りの朝。

いつも通り、喜伊の作った朝食を食べ、娘が学校へと出かけるのを見送った。

いつもと違うとすれば、今日は娘の学校が昼までで、学校終わりに学校近くの広場で合流し、娘の買い物に付き合う約束をしていることだ。

午前中は家で過ごし、頃合いを見計らって家を出た。


「行ってくる」


家に残る喜伊に声をかける。


「かしこまりました、私も家の用事が終わり次第向かいます」


その言葉に思わず振り返る。


「お前も来るのか?」


驚いた私の言葉に喜伊はイタズラっぽく微笑む。


「ええ。お嬢様から是非と。なかなか難しい年頃ですので、旦那様だけでは気恥ずかしいのでしょう」


そう言われると「なるほど、そんなものか」と腑に落ちる。


「分かった。では、また後でな」


そう言って家を出た。

マンションのエントランスを抜ける時、不意に胸に疼きを覚えた。

いつもの鈍痛とは違う、微かな違和感。

虫の知らせとでもいうのか。

言葉にしづらい、不安感。

思わず周囲を警戒するが、特に変わったことはない。


「会いたくもないやつに会ったからかな」


赤いキャップを被った少女が脳裏に浮かぶ。

その思いを振り払うように、待ち合わせ場所へと足を進めた。



もうすぐ、約束の場所へと辿り着く。

腕時計を見るが、予定時刻より早く着きそうだ。


「遅れるよりはいいだろう」


そう口の中で呟き、歩を進める。

ふと、視界の端に見覚えのある顔が映り、思わず足を止めた。


何度も何度も見たはずだ。

だが、記憶に残らない。

上書きされ、忘れられていく顔。

どこにでもいる顔。

誰で、どこで見たのだろうか。


そう考えた瞬間、その顔は霧散するように視界から消えた。


何を考えていたのか。

何を気づこうとしたのか。


その感覚すら、消えた男の顔とともに失われ、首を傾げながら目的地へと向かう。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

当初週1~2回更新のペースを予定しておりましたが、順調なため毎日投稿しております。

次回に関しては22日予定としております。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ