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悍ましくも、幼く

黒髪の少女が何かに気づいたように、暗闇に顔を向ける。


「あら、遅かったわね。マリオネット。」

その声に呼応するように、闇から染み出すようにペールブルーのドレスを着た少女が現れた。

フランス人形のような恰好をした銀髪の少女。

身に着けたドレスは所々が破れている。

感情の読み取れない表情が、人形のように不気味だ。


「───ッ!」

悲鳴をかみ殺す。

その少女───マリオネットの右腕はあらぬ方向へと曲がっていた。

それでもマリオネットの顔は涼しい。


「ちょうせい、してた」

ちらりと自分の足元を見る。

その視線の先を追うと───。


「きゃぁ!」

今度の悲鳴はかみ殺すことができなかった。


広がったフリルの裾から見える足は、骨みたいなものが数本飛び出している。

それ以上飛び出さないようにビニールテープのようなものでぐるぐる巻きにされているだけだった。

黒いバルブトゥの内側からは同じように骨のようなものが飛び出していて、鋲をあしらったように見える。

バランスが取れないのか、ゆらゆらと微かに揺れるマリオネット。


「ふーん」

そんなマリオネットのことをちらっと見ただけで興味なさそうに相槌を打つ。


「そんなんじゃ、役に立ちそうにないわね。邪魔にならないように、子守でもしてなさい」

あしらうように冷たく、ひらひらと手をふる。


「こもり?」

かくっと首を傾げて───その首が落ちそうなほど曲がった。

パックリと開いた首元。

まるでもう一つの口のように。

そんな大きな傷なのに、血は流れていない。

人間なのか、それすら分からない。

あまりの光景に、気が遠くなりそうになる。


「あの子よ。メインディッシュを楽しむための、オードブル。ちょろちょろされても鬱陶しいから見てて」

要領の得ない受け答えに、少し苛立ったように顎で私を指す。


「もっとも、オードブルというより、アミューズかしら?」

笑みで口を歪めながら、少女の視線が私を舐める。


「……わかった」

素直に頷き、落ちそうになる頭を支えながら、マリオネットは私の傍へとくる。


───グチュッ、グチィ。


歩くたびに、その足から水気と金属がこすりあうような異音がする。

歩きにくいのか、ひょこひょこと不安定な歩き方。


その動きと、音の悍ましさに、喉までせりあがってくるものを必死でこらえる。

そんな私を気にすることなく、マリオネットは私の目の前に立った。

じっとガラス玉のような瞳が私を見る。

恐ろしく、横目で見るマリオネットの顔からは何の表情も読み取れない。


マリオネットは動かない。

愚直に。

言われたままに。

私をじっと見ている。


「い、痛くないの?」

沈黙に耐えられず、言葉が出た。

なるべく足を見ないように。


「いたい?」

マリオネットは不思議そうに私を見る。

言葉は理解しているが、意味が分からないというように。


「その……足……」

できるだけ見ないように、指差す。

指さされた足を、ぐらぐらする頭でじっと見つめる。


「よく、わからない」

まるで人ごとのように、マリオネットはキョトンとしている。

子供のような受け答えに、少しずつ私の中の恐怖が薄れる。


「立ってないで、座ったら?」

痛ましい姿に、我慢ができない。


「なんで?」

私の言葉に、素直に疑問を返す。


「だって、辛そうだから」

辛そう、その言葉を考える様にマリオネットの動きが止まる。


「つらい……よく、わからない」

その表情が初めて、曇ったように見えた。


「見てる私も、辛いから。すわってほしい……」

その言葉に、私をじっと見る。

ガラス玉のような澄んだ瞳からは、感情は読み取れない。


「……わかった」

そう言って、マリオネットは素直に私の前に座った。

長いスカートに足が隠れ、やっと私はホッとできた。

その安堵に、少しの自己嫌悪を感じながら。




「くるぜ、くるぜ。

恐ろしいやつが。

宝を奪われた龍が。

子を攫われた獣が。

怒り狂って。

憎悪をまき散らしながら。」

ゲラゲラとレッドキャップは周囲を一望できる鉄塔の上で笑う。


楽しそうに。

嬉しそうに。


「いいツラしてやがる!そうでなくちゃな、アバズレ! それがお前だ!」

そんな高い所から見えるはずのないもの。

それが、まるで目の前で見えているように、興奮している。


「常識? 倫理? 情だぁ? そんなクソみてぇなものは捨てちまえ。お前の存在意義はなんだ?」

堪らず、レッドキャップは見えないものに向かって手を伸ばす。


「所詮、お前はエゴイストなんだ。すまし顔より、欲望に歪んだそのツラが似合ってるぜ!」

伸ばした手で、その先のものを掴むように握りしめる。


「早く、速く、疾く! 見せてくれ!」

音が鳴るほど強く、拳を握り締めながら。


「やっぱり、お前はおもしれぇ!」

うずうずと今にも飛び出しそうに、レッドキャップはその行く末を楽しんでいた。

サーカスの開演を待つ、幼子のように興奮して。


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