私が私であるために
スマートフォンが振動する。
ゆるゆると取り出すと、画面に表示されるのはメッセージ。
住所だけが書かれている。
差出人は不明。
ぼんやりと眺める。
意味は分かる。
これからどうするのか。
その道標。
ただ、この道標を壊してしまいたい衝動にかられた。
しばらくすると、画面は消灯する。
それをしばらく眺めた。
もう一度画面を灯す。
変わらず表示される文字の羅列。
喉が鳴る。
───罠だ。
誰でも分かる。
私に死ねと、そのメッセージは暗に言う。
分かっている。
分かっている……けど。
行かなければならない。
私が恐れているのはなんだ?
自分の死か?
違うだろ。
私が一番恐れているのは───。
───私より先に死なないでください。
自分の言葉が頭に木霊する。
ハウスキーパー。
私を私たらしめているもの。
灯お嬢様の存在なくして、私は私ではいられない。
ゆるゆると立ち上がり、目じりの湿り気を拭った。
零れた迷いと共に。
マリオネットとの戦闘で傷んだ服を着替える。
ボタンを留める指の動きが鈍い。
摩耗したナイフを取り出し、スペアのナイフを収めていく。
初めて触るように感じるその鋭さに、落としそうになるのを必死でこらえた。
装備を整えながら、テーブルの上を見る。
そこに置かれた、お嬢様の髪の毛が包まれた布。
手が伸び、触れる寸前で止まる。
少し迷って、それを懐へとしまった。
家を出る前、お嬢様の自室の前を通る。
通り過ぎようとした足が、思わず止まる。
そっとその扉に触れた。
いつもより、冷たく感じる扉。
こつりと、おでこを扉へと当てる。
この扉の向こうで、初めて「知りたい」と震える声で訴えたお嬢様。
ほんのわずかな熱が、私の胸に灯る。
それだけで、十分だった。
私は振り返ることなく家を出た。
メッセージに書かれた住所へと急ごうとする気持ちとは裏腹に、足取りは重い。
そう、私は恐怖している。
想像するだけで。
最悪の結末に。
自分の命など、どうでもいい。
私はただ、私でいられなくなるのが怖い。
目の前にそびえる、廃倉庫。
もう使われなくなって久しいのだろう。
人の気配もない。
私は思わず、胸にしまった布を握り締めた。
胸の灯火が消えてしまわないように。




