表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

ぬくもりは滲んで

雨が傘を叩く音。

曇天だった空は、いつの間にか雨模様へと変わっていた。


喜伊さんの持つ傘に二人で入り、歩く。

言葉はなく、雨音が傘を叩く音と、靴で水が跳ねる音が、いやに響く。


風向きが変わると、巧みに喜伊さんが傘の角度を調整し、私が雨に当たらないようにする。

喜伊さんと目が合うと、何も言わず微笑む。

私も言葉にせず、微笑んだ。


たまに当たる喜伊さんの肩が、ほのかに温かい。

この世界に二人だけしか存在しないような感覚。

その沈黙も、静寂も、なぜか心地よかった。

それを楽しむかのように、私たちは家路に着いた。



テーブルの上には喜伊さんが淹れてくれたホットコーヒー。

ゆらゆらと湯気が立つ。


強くなった雨足が窓を叩く。

コップの温かさを感じながら、外を眺める。

部屋の外では喜伊さんが家事をする音。

その音と雨音が重なり、心地いい。


───もう、昨日のような視線はない。


立ち上がり、窓辺に立つ。

薄暗い空。

激しくなる雨。

だけど、遠くには晴れるような光が差しつつある。


私は父を失った。

平穏さえも。


写真に写っていた、笑顔の父と女性。


私は今まで、何も知らないところで、どれだけの物を失ってきたのだろうか。

そして、これから何を手に入れ、何を失っていくのか。


喜伊さんの姿が思い浮かぶ。


───喜伊さん。


窓に手を触れる。

ヒヤリとした感触。

指の温かさが、ガラス越しに滲んでいく。


───私は。


その光を掴むように、窓をなぞった。



お嬢様は、何も言わずにカードを渡してくれた。

言葉にしなくとも、伝わった。

お嬢様にとって、これはもう必要ないと。

持ち慣れたカードだったが、ズシリと重く感じる。

お嬢様の決意と共に、何も言わず受け取った。

懐のスマートフォンが震える。

表示された画面を見て、訝しげながらも電話に出た。

一抹の不安を胸に落としながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ