6/6
ラスト・エピローグ
ご主人――りょうの生活は、クロがいた頃よりもずっと明るくなった。
朝の光の中、ゆっくりと歩き、湯を沸かし、お茶を入れる。
その所作には、かつての影はなく、穏やかさが漂っていた。
ときどき、窓辺に小さな黒い影がふわりと現れるような気がして、
りょうはふっと微笑む。
「クロかな……」
その声が静かに部屋を満たすたび、胸の奥があたたかくなる。
それは、遠くに行ってしまったはずの友達が、
今もそばで見守ってくれているような、そんな感覚だった。
クロが残した小さな奇跡は、りょうの中で生き続けている。
忙しい日々の間にも、朝の湯気の立つカップに手を止め、
光と匂いに包まれたひとときを、しばし楽しむ。
そして、ふと立ち止まる瞬間に思うのだ。
――ぼくはひとりじゃない。
あの黒い瞳が、静かに、やさしく見守ってくれている。
クロの存在は、もう過去の思い出ではなく、
今も未来も続く“心の光”になったのだと。
部屋に差し込む朝の光の中で、りょうはそっと笑った。
そして、クロもまた、その光の向こうで小さく喉を鳴らしている気がした。




