1-5.LETTER
午前9時50分
開店は10時だが、俺たちは少し前に並んでおくことにした。
「そういや抽選っていつするんだろ?」
ヅカの問いに、ふと疑問がよぎる。確かに名前を書いて箱に入れたけど、抽選なんてどこにも書いてなかった。何のためだったのか…
ガラガラガラガラ、と音がして、考えているうちにシャッターが上がる。
すると髭面のおじさんが現れた。胸元に「オーナー」という名札を付けている。
オーナーにも名札があるのか…
開店と同時に店内へ入る。
中には誰もいない。
店の規模からすると、もしや髭のおじさんは、オーナー兼、店長兼、従業員じゃ?むしろ名札の意味はあるのか。
そんなどうでもいいことを考えている傍ら、何やらヅカがはしゃいでいる。
ショーケースにはRATEが並んでいる。そしてRATEのパック毎に名前が刻んであった。
まるで製造過程で彫られたかのように、パックのデザインと名前の部分に違和感が全く無い。
「俺の名前が無い・・・」
本当だ。
陸の名前が入ったパックが見当たらない。
何度見返しても「梅田 陸」と書かれたものが無い。
俺とヅカの名前が入ったパック。後は知らない名前が入ったパックが3つある。
ヅカが俯いた陸に声をかける。
「俺のパックあげるよ」
俺も同じことを考えていた。
しかし陸の返しは予想に反した。いや、予想通りか。
「自分で手に入れるから大丈夫。だからヅカ、他に入荷しそうな店あったら教えてくれ。それと…」
ハジメを頼むと言いたいように見えたが、言葉を飲み込む。
陸はヅカが一番RATEに興味を示していた事を知っている。ハジメの事が気になって仕方ないはずだが、ゲームに関してはヅカのほうが詳しいという所を考慮したようだ。
「わかった。でも次に入荷予定のショップは遠いぞ」
陸は大丈夫だとヅカに親指を立てる。
「俺の家わかるよな?土手に出てまっすぐ。図書館の3件隣」
ヅカの家は遠く、学校近くの駅から10駅以上もある。乗り換えもある為、電車通学がつらいとよくぼやいている。
そしてヅカは続ける。
「本当にハジメがいるかはわからないけど、精一杯探してみるよ」
陸は無言で頷く。
ひとまず陸も落ち着いたようなので、俺とヅカはRATEを購入する。
RATEは1パック5枚入りで価格は1,000円。
オンラインをするには【LETTER】というカードリーダーも必要になる。LETTERの価格も1台1,000円。
髭面のおじさんからRATEとLETTERを購入。
ヅカも同様に2,000円を払い、商品を受け取る。
用も済んだので、俺たち3人は店を出る。
一旦、みんなで陸の家へ向かうことにしたが、ヅカが朝ごはんを食べたいというので、近くのファミレスへ入った。




