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RATE  作者: 恵 奏香
2章
13/19

2-3.TRANCE

「君たちはここに来たばかりかな?」


突如見知らぬ女性に話しかけられた。


「あ、はい。ついさっき来たばかりだと思います」


ヅカが答えた。そう、いつ来たのかもわからない。RATEに来てどのくらい経って目が覚めたのだろうか。


「やっぱりそっか。私は村上むらかみ 志乃しの。RATEでのキャラクター名は志乃。よろしく」


年齢は20代後半といったところか。しかしこの人が味方とは限らない。修斗のように俺たちのカード目的で接近してくる輩は多いはずだ。初心者という事は今後隠したほうが良いかもしれない。


「そこの彼は表情が険しいけど、どうしたの?」


志乃と名乗った女性は不思議そうにしている。俺はヅカに彼女が敵かもしれないと耳打ちした。するとヅカは…


「こいつの名前はイッキで、俺はヅカと言います」


いきなり自己紹介をし、修斗にカードを盗まれた事を説明し始めた。俺は慌ててヅカの口を塞ぐ。


「そういう事かぁ~。大丈夫、安心して。私は敵じゃないから」


すぐに信用できるはずがない。むしろ修斗の件があった分、余計に警戒心が強くなる。


「まぁ、いきなり信用するってのも難しいよね。だったら、1つ良いことを教えてあげる。プレイヤー同士のバトルは街の外でしか出来ないよ」


本当なのか?それなら何故俺のカードは盗まれた?


「でもね、バトルは出来ないけど、スキルは使えるよ。イッキ君のカードが盗られたのもバトルじゃないでしょ?」


なるほど。確かに攻撃はされていない。俺は無言で頷いた。


「でしょ~。だから私がここで2人とバトルすることは出来ないの。まぁ、スキルは使えるけど今はトランスしてないからそれも無理」


とっさにヅカが尋ねる。


「トランスって何ですか?」


「それじゃあ2人とも。LISTのカードボタン押してみて」


俺とヅカは言われるままに操作した。


「バトルカードある?カードのスタンドを選んだ後に、トランスを選択してみて」


俺はアーサーを、ヅカはマモルをトランスの対象として選んだ。


すると足元に魔法陣が現れ、体全体が光に包まれた。


なんと!ヅカがエプロン姿になった!


「イッキ!全身真っ黒じゃん!」


ヅカは笑いながら言う。


『自分の格好見てから言えよ』


ヅカは自分がエプロンを付けていることに気付いていない。


「エプロン似合うね」


志乃さんが笑顔で言った。ヅカは真に受け自信に満ち溢れた表情をしている。


「ま、こういう事。バトルカードにはそれぞれスキルがあって、トランス状態なら使えるんだよ」


なるほど。アーサーのスキルって何だろう。LISTのカード詳細を確認した。


【スキル:華麗なるフットワーク】

【回避率75% / 発動率50% / パッシブスキル】


このスキルは使うものではなく、自動的に発動するらしい。傭兵戦の時に何度も攻撃を避けていたのは、このスキルが発動していたのか。


「マモルのスキルは調合だってさ」


さすが料理人。スパイシーな調味料でも作ってくれるのか。


「ヅカ君のはレアスキルなんじゃない?」


レアスキルとは?


「ちょっとLIST見せて」


ヅカは左手に着けているLISTを見せた。


【スキル:調合(R)】

【成功率50% / アイテムカード2枚を合成 / 成功:カード獲得 / 失敗:素材消滅】


「やっぱりレアだよ。調合スキルはカードを合成できるみたい」


おぉ、それはすごそうなスキルだな。フットワークとは天と地の差だ。


「でもアイテムカードのみって書いてあるね。普通はカードの合成ってカード屋でしかできないけど、スキルならどこでも使えるからとっても便利だと思うよ。ただし、便利なスキルほどコストが必要だけどね」


「カード屋さんだと、コストとしてゴールドが必要だったり、指定のカードを渡したりするんだけど、ヅカ君の調合は成功率50%だから、失敗する可能性そのものがコストってことみたい」


「あと、カード詳細のスキル欄に(R)マークが付くの。それがレアスキルって事。もちろんヅカ君のスキルにも付いてる」


ほんとだ、これは心強い。しかし成功率50%だと半々か。


「やったー!何か調合してみようかなぁ。でもカードが無くなるのも嫌だしなぁ」


もう少しカードが増えてから試すように伝えた。ヅカもそのつもりのようでニコニコしながら頷いた。


「それとイッキ君のカードを盗んだスキルなんだけど、かなりのコストが必要なはずだよ」


確かにそうか。軽いコストなら手当たり次第にカードを盗むことができるだろう。そんな最強クラスのレアスキルに序盤から遭遇はしないか。


『でも志乃さんはなんで俺たちに色々教えてくれるんです?』


ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。


「ん~、特に理由は無いよ。私が始めた時もこんな感じで親切な人に教えてもらったのよね。なので、それの恩返しってところかな」


この人なら信用してもいいのだろうか。


『実は友達を探しているんですが、まだ手探り状態で何からやればいいものか』


何か手掛かりになればと聞いてみた。


「人探しねぇ。この街は初心者が多いから、慣れた人が集まるところの方がいいかもね。少し離れた場所に【アリス】っていう街があるんだけど、そっちのほうが情報はあるはずよ。でも、他の街は更に危険だから気を付けて」


『そうですか、わかりました。あと、1つ聞いてもいいですか?』


「私で答えられる質問ならどうぞ」


『ここから、RATEから脱出する方法ってありますか?』


「あるよ」


その言葉を聞いた俺とヅカは、ホッと胸を撫でおろした。


「でもね、私も詳しくは知らないの。聞いた話だと、[特定のカードを使う事で現実に戻る]って。でもね、残念ながらそのカードが何かまでは知らない。ごめんね」


戻る方法があるという事実だけで十分だった。


『色々教えてくれてありがとうございました』「ありがとうございまーす」


俺に続き、ヅカも深々と頭を下げる。


「よかったら、一緒に行動しませんか?」


ヅカが大胆にも誘う。


「ありがとう。でも待ち合わせしてるから。また機会があったらその時はよろしくね」


俺とヅカは再度頭を下げ、志乃さんを見送った。そして集会所を後にした。


「まずはカード集めだな」


ヅカはすっかりご機嫌だ。女性にはさっぱり縁が無く、いつも陸を羨んでたヅカにもようやく春が来たようだ。

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