1-9.BATTLE
「しっかし探すといっても他のキャラクターすら居ないんだよなぁ」
ヅカは独り言のように呟く。
「とりあえず外に出てみない?」
陸が言う。
確かに陸の言う通りに、俺たちは城下町の門を抜け、外へ出た。
そこには平地がただただ広がっているだけの景色だった。
しばらく周辺を探索すると、何か動いているものが見えた。するとその何かはどんどん近づいてくる。
「なんだあれ」
ヅカも気付いたようだ。
近くに来てやっとわかった。モンスターだ。人型だからプレイヤーかと思ったが、上部に【!】マークがついている。
更に近づいてくると、頭上に【傭兵】とあり、名前の下には【100/100】と書かれた青いバーが確認できる。
最初の敵だけにそれほど強くないだろう。
すかさずメニューからカードを選び、バトルカード【黒服の男 アーサー】を選択。
俺のキャラクターは空にカードをかざす。すると少し先に魔法陣が描かれ、キャラクターの前に【黒服の男 アーサー】と頭上に書かれたキャラクターが現れる。名前の下には【300/300】の表示。バーの色は同じく青い。
この数字はたぶんHPだ。傭兵より多いので有利な気がする。
するといきなり傭兵は斧を振りかぶり襲い掛かってきた。
しかしアーサーは軽く身をこなし避ける。というより武器を持っていないので、避けるしかないようだ。
すぐにメニューからウェポンカード【美容師のハサミ】を使った。
先ほどより小さな魔法陣からハサミが出てきて、アーサーの手元へ飛んで行った。
アーサーはハサミで攻撃する。
【傭兵 50/100】
50のダメージを与えたようだ。相変わらず傭兵の攻撃はアーサーに当たらない。アーサーすごいな。かなり良いカードを引いたのではないだろうか。
すると突然、傭兵が倒れた。
横にはエプロンをした男性が、鍋を振り下ろしていた。
アーサーと同じ【C】のマークがついている。名前を見ると【見習い料理人 マモル】と書いてある。
「余裕だったね」
どうやらヅカが手助けしてくれたようだ。
「あ、俺にカードがきた。ごめん」
そういえば俺とヅカはパーティーではないはず。すると最後の一撃を決めた人にカードの獲得件があるのだろうか。
助かったので問題ないと伝え、パーティーを組もうと提案した。
メニューを開くと、カードの項目下にパーティーというコマンドがある。選択後、対象を選ぶカーソルが出てきたので、ヅカを選ぶ。
俺とヅカの頭上に【P】のマークがついた。
「これでパーティーを組んだってわかるわけだね」
ヅカは妙に喜んでいる。確かに1人よりは心強い。
そういえばヅカの獲得したカードは何だったのだろうか。
「なんだこれ、普通すぎる」
ヅカは俺が聞く前にカードを確認していた。
・【薬草】アイテム レベル1 ノーマル
まさにアイテムの基本だ。最初の敵だからそんなものか。効果はおそらく回復だろう。しかし、カードの効果について一切記載がないのがRATEの不親切な所だ。ある程度、名前と絵を見ればわかるけど…
【黒服の男 アーサー 100/300】
なんだ?突然アーサーのHPが減ったぞ。
【見習い料理人 マモル 100/250】
「うぉ!減ってる」
ヅカのバトルキャラクターもダメージを受けている。
周囲を見渡すようにアングルを変えると、そこには先ほど倒したはずの傭兵が立っていた。
「なんだこいつは!」
マモルが傭兵を攻撃した。
【傭兵 150/200】
なんてことだ。傭兵のHPが増えてる。
「さっきアーサーの攻撃は50のダメージだったから、今回はそれじゃ倒せない!次喰らったらやられるぞ!」
陸が冷静に分析する。
確かに。これでやられては俺もヅカもカードが1枚になってしまう。俺とヅカのキャラクターにはHPが無いので、恐らくバトルキャラクターがやられればアウトだろう。
ヅカにそれを伝えようとしたが、すでに理解しているようで俺と目が合うと頷いた。
そして2人ともセフィラムへ向かって逃げる。
何とか無事、街についた。どうやら傭兵は街に入れないようだ。
「助かったね。まさか起き上がってるとは思わなかったし・・・それよりも回復しないとだなー」
回復なら宿屋だろうと、ヅカは歩き出した。
カードの回復ならカード屋だろ。そう思ったが、とりあえず俺も宿屋へ向かった。
ん?そういえば、俺達にはHPが無い。それならカードを出さなければダメージを喰らう事は無いのでは?むしろバトルを回避できるかもしれない。
いや、逆だ。HPが無いという事は、一撃でも喰らった時点で倒されるかもしれない。どちらかハッキリしないうちは、リスクを考えるとカードは使うべきか。
宿屋はすぐに見つかった。中に入ってみると、カウンターにお婆さんがいた。このお婆さんもNPCだ。
さっそく話しかけると、「いらっしゃい。4名だね。1泊の支払いはノーマルカード1枚だよ」
召喚しているカードは人扱いか。それなら回復もできそうだ。しかもカードで支払いか。俺のノーマルカードはバトルとウェポン、それとリベンジ。支払いに使うのは惜しい。
「それなら俺の薬草を使おう」
そういうとヅカはNPCに薬草を渡す。
「それじゃあ、薬草をもらうよ。ついでにセーブするかい?」
宿屋でセーブできるのか。俺とヅカは一旦セーブし、ゲームを中断する事にした。
「普通のゲームだったな…」
陸は不満そうに言った。
確かにそうだ。『Life』で噂になっているようなものではなかった。
カード集めをしたり、もう少しプレイすれば何かわかるかもしれないが、ヅカも陸もあまり寝ていない為、ひとまず解散することにした。
帰りはヅカと一緒に駅へと向かった。
「ほんとうにハジメもオンラインしたのかな?」
ヅカは考え込む。結果として、オンライン自体は何も無かった。また帰って試してみようと話をした。
駅に着くと、お互い違うホームへ向かった。帰る方向が逆なので、向かいのホームにヅカの姿が見える。
電車が来るまで携帯で『Life』を見るが、特に目新しい情報は無かった。
ようやく電車が来たので乗り込む。ヅカが向かいのホームから手を振っていたので、俺も軽く手を振り返し、帰路についた。
自宅に到着した俺は部屋のベッドに横たわり状況を整理する。
人が消える噂。これについては不明。現に俺とヅカは消えてはいない。
ハジメの行方。もう1週間も家に帰っていない。陸はRATEが原因というが、あくまで噂に状況を重ねただけ。事故などであればすくにわかるだろうし、ただの家出なのか?しかし家出については陸が否定していた。結局、ハジメの手がかりも無し。
RATEの目的。普通に考えれば収益だろう。しかし、カードが無料で送られてくるならそれも違うことになる。そもそも、そんな情報はどこにもなかった。
考えても何もわからない。
色々と考えているうちにいつの間にか眠っていた。
そして俺はようやく気付く。
そう、RATEはまだ始まっていなかった。




