さて
梅雨はとっくに明けたはずだが、
終業式のその日は大粒の雨が降っていた。
体育館内の湿気が気持ち悪い。
しかし、教員の話はなかなか終わらない。
交通ルールの話、熱中症予防の話、
多分全国の高校が同じ話をしているだろう。
やっと話が終わり、教室に戻ると
クラス内カーストの高い奴らが楽しそうに
明日からの計画を語っていた。
あまりに大きな声で話すので、
嫌でも内容が耳に入ってくる。
花火、海、祭り、文化祭の準備....。
聞くだけでもワクワクするようなイベントの数々。
そうだ。確かにワクワクする。でも、
その夏休みは【誰でも過ごせる】ものである。
私が過ごすのは【真似できない】特別な夏休み。
そう。旅。...その予定である。
私は明日への期待に胸を膨らませながら、
自転車に跨り、いつも通り帰路を急いだ。
家の鍵を開け、誰もいないリビングに
制服を脱ぎ捨てた。
父は単身赴任で当分帰ってこないし、
母は自分の両親の介護だとかで実家に住んでおり、
ほとんど家にはいない。
夏休み中旅に出るには、これ以上ない
最高の環境に私はいるのだ。
出発は明日。2週間前から寝る間も惜しんで
書き上げた行動予定ノートを持って、
私はたった1人、旅に出るのだ。