第三章 もてなし 三話
トードも医者の端くれ。何度も縫合や糸を解く練習を積み重ねていたため、これくらいなら容易でもある。
「待ってくれ!」
「……懲りないわね。本格的に縫合するわよ」
諦めない姿勢で果敢に、ネムイを呼び止めるトードだったが、ネムイは辟易とした態度で足を止め振り返ると、鋭い目つきで糸を通した針を見せつける様に構える。
「い、いや、少しだけでいいから話を聞いてくれ。僕にも譲れない物がある」
「あら、少しは気概はあるのね。何かしら?」
トードがやたら真剣な眼差しな物だから、ネムイは意外そうな表情で、少しはトードを見直し、話を聞いてやる事にした。
「さっきアッシュも言っていたけど、お人好しのままでいると殺されると言うのは百も承知だ。けど、カズイがこう言っていた。患者とは心を寄り添ってこそ、医者の本懐だと。だから僕は、一人の医者として、人間として、他人との繋がりを大事にしたいんだ」
真剣な眼差しで訴えるトードに、安保らしいと言わんばかりに鼻で笑うネムイ。
「それはカズイだからこそ言える妄言よ。あのチビ紳士は知識、力、経験は、私たちの同期の中では群を抜いている。けど、凡人の様なアッシュや貴女の様な人種は、綺麗ごとだけでは生きていけないわ。それに見合う対価を払ってこそ、発言する資格がある。貴女の様な人間は、卑怯と言う矛を持ってこそこの業界で、やっとの思いで生き残れるのよ。理解してるの?」
嘲笑うかのように、吐き捨て口をするネムイ。
しかし、トードは怯むことなく、ネムの前に堂々とした態度で立っていた。
「なら今の僕は? 君の言う卑怯な方法を使わなくても、今、こうして生きて、学問に専念している」
キリっとした目で言い放つトード。
それに対して少し、意外そうな表情をするネムイ。
すると、ネムイは相手にするのが馬鹿々々しくなったのか、鼻で笑うと、トードに背を向け去っていった。
言い返せなくなり去ったのか?
それとも、ネムイなりのロジックがあり、言うだけ馬鹿らしく思えたのか?
真実はネムイだけが知るまま、トードは少し憂鬱になってしまった。
ネムイやアッシュの言う事も一理るのだ。
現に、ダージュは知識、経験だけでなく、そこに武力と言う力を望んでいる。
全く、無意味とも思える事だが、後に語られる真実が、その答えとなる事を、トードも理解していた。
一体、ダージュが新たに実装した新システムとは?
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で第三章は終わりです。
次章からも是非ご一読ください。
宜しくお願いします。