第三章 もてなし 一話
ダージュの人相や容姿は、後に分かります。
一方その頃、ダージュと言う外科医が、ある手術を行っていた。
患者は四十二歳の女性で、食道ガンを患っていた。
一般的には、食道ガンは進行度や位置によって手術の仕方は異なるが、基本は食道と周囲のリンパ節を切除し、再建を行うものだ。
その患者のガンの進行度はステージ3。
決して楽観視できない状態。
だがダージュに取ってはいつもの日常。
人間が歩く様に、ダージュに取っては、それと同列視のようなものだった。
まるでつまらなそうにしながらも、その手際はとんでもないものだった。
患者に負荷をかけない様、細心の注意を払いながらも、かつ、狂人的なスピード。
目も止まらぬ、早業。
助手として、医学生の生徒たちが立ち会っていて、ダージュが次々に医療器具を口にしていくが、ペースが追い付かない。
挙句の果てには、男性外科医の卵が、なんと、医療器具を患者の臓器に落としてしまった。
緊張と経験不足が仇となってしまった結果だった。
ダージュはその男性研修生を鋭い目で睨みつける。
「す、すいません!」
必死に頭を下げる男性研修生。
「謝罪よりも、行動だ。止血ペンチ」
「「ウイッウイー!」」
先程、医療器具を臓器に落とした男性研修生は、ただ、ただ、恐怖で身動きが出来なかった。
その代わりに他の生徒たち三人はテキパキ動く。
ダージュは止血ペンチを受け取ると、ものの見事に臓器に落とされた医療器具を取り出す。
因みに落としたそれは、メスだった。
幸いにも、臓器や血管は傷つけられていなく、大事がなく済んだ。
切除を終わらせていたダージュは、すぐに小腸を食道の代わりにし移植し終えると、瞬きする暇もないくらい、縫合してしまう。
「終わりだ」
ダージュは、まるで散歩から帰宅した見たいな独身男性の様なノリで一言だけ口にすると、研修員たちは「「ウイッウイー!」と声を上げながらダージュに向かい敬礼する。
まるで独裁国の軍隊。
それから、ダージュの助手役たちには、オペの服の腹部当たりの左に番号が振り分けられていた。
ダージュが手術室から出てくると、黒いスーツを着て黒いサングラスをしていた、三人の男のたちが「お疲れ様です。ダージュ先生」と、敬意を込め口にする。
「六番は落第だ。他は合格。以上だ」
「「ウイッウイー!」」
淡々と口にするダージュに敬礼する黒いスーツの男たち。
そして、何事もなかったかのようにダージュはオペ室を去っていく。
研修生たちが手術室から出てきたその時。
バン!
一発の発砲音が廊下全体に鳴り響き、先程、臓器に医療器具を落とした男性研修生は、額を撃ち抜かれ絶命し、血飛沫を四散させながら仰向けに倒れる。
だが、人ひとりが殺されたと言うのに、他のメンバーである研修生たちは、顔色一つ変えない。
まるで、激戦を戦い終えた勇士たちの様な佇まい。
残りの研修生たちは声一つ出さず、眉一つ動かさず、その場を静かに去っていった。
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今回はここで終わりです。
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