第十一章 ダージュ・オブ・ゲーヘント 一話
「なあカズイ、何がどうなってる? どうしてダージュ先生があるプロジェクトに俺たちを加わらせる話に結び付くんだ?」
薄暗いまだ見慣れた廊下をゆっくりと歩きながら、アッシュがカズイに説明を促す。
「まず話を戻すが、これまでのダージュ先生の言動は厳密に言えば隠蔽してない事象が多い。つまり、最初から何かを隠す気がないのが伺える」
「――ん? 言われてみたら確かにそうかもな」
冷静なカズイの言葉に少し間を置き、考えるアッシュたち。
それには否定できず、渋々、頷く事しか出来なかった。
「つまり、ダージュ先生の医務室に何かが隠されていると言う前提は白紙に近い状態だ。そんな中、二重箱のからくりには、何故か医学生全員に支給された変わった形状をしたボールペン。まるで最初から何かに使われると言う事を考慮された形状のボールペンと言ってもいい。その用途はさっき見ての通りだ。あれは医学生を試す試験に近い物だと、推測も出来なくもない。今までダージュ先生は医療とは無関係な要素を必要以上に俺たちに追及し続けていた。何かあるとは医学生になる前からネットで見て思っていた事だが、その求めていると言う言葉を照らし合わせれば、先程の最終試験合格の紙、そして、ダージュ先生の言葉から、何かしらのプロジェクトに加わるためのカリキュラムがある事が推測できるってわけだ。少し懸念事項もあるが、人間、何かを求めると言うのは大体はシンプルな物だしな」
「……何がシンプルよ。どれだけの人間を犠牲にしてまで求める物なんてあってはいけないわよ」
「……君の言う通りだ。すまない、俺がもう少し配慮した説明が必要だったな」
「……別にあんたは悪くないわよ。全ての元凶は、あいつよ」
辛酸をなめる様な面持ちで説明し、それをまたネムイは同じ思いで口にする。
どれだけ躊躇っても、どれだけ思いを込めても、カズイの説明には何の落ち度もないが、ネムイは遣る瀬無かった。
だからこそ、互いに慰め合う。
そんな四人の会話を聞いていたダージュだが、それもまた鼻で笑う。
「相変わらず温い連中だな。あれだけ死地を掻い潜ってまだ仲良しこよしとは。だがそんな純粋な気持ちがあったからこそ、ここまで上り詰められた、と言っても過言ではないが」
「……ダージュ先生。一体、何が望みなんです? あそこまで命を軽視し、しかもそれが医療と関係あるのかどうかと問われれば、間違いなくゼロに等しいくらいありません。いい加減理由を教えてください」
ライアが我慢ならず、いつも以上に言葉を抜粋し口にする。
そう言う頃には、今まで来た事がない、と言うより、医学生が行く必要のない、清掃員ようの道具を終う、清掃用具が置かれた扉の前にいたダージュたち。
ライアは自分で言っていて、その場所の違和感に言葉を詰まらせ、扉の前を注視する。
すると、ダージュはニヤリと笑いながら、ドアノブの近くの壁に設置されている、電気を付けるスイッチのパネルを四方の指で押さえ、半回転させた。
すると、パネルが指になぞられたようにクルリと回り、カチッとした音が鳴る。
そこからは目を疑った。
清掃用の用具がある扉のネームプレート、清掃用具置場が、『待っていた。選ばれし者よ』といった、医療と何の関係があるのか分からない、突拍子のないネームプレートに変わり、唖然とするアッシュたち。
その直後、ガゴンッ! といった、音が地響きの様に院内に響き渡ると、その数秒後、カチッ、と鍵を開けたかのような音と同時に、そのイカレタ扉は独りでに開いていく。
「来い。その答えもこの先にある」
ダージュは慌てる様子もなく、日常の廊下を普通に歩く様に落ち着いた様子で中に入っていく。
アッシュたちは、互いに顔を見て頷き合い、気を引き締めて中に入っていく。
入ると同時に明かりが照らされ、広く綺麗にコーティングされた白い廊下が目に入った。
その先を黙って歩いて行くダージュ。
一歩一歩、歩くたびに心臓の鼓動が高鳴っていく。
もしかしたら、ここが自分たちの墓場になるのでは? と、嫌でも脳裏を過る。
その緊張の糸は直ぐに切れる事になった。
進むにつれ、周囲には透明な部屋がぽつぽつと点在していた。
外からでも中の様子をうかがえる。
しかし、中は武器でも保管している様な武器庫ばかり。
医療と関係ない物ばかりと、うんざりするネムイだったが、中には、まるで何かを実験していた部屋もあった。
血みどろな部屋、数本の注射器や医療機器が乱雑に放棄でもされたかのような痕の部屋。
不気味さは増すばかりだった。
「安心しろ。別にお前たちをこの場で処分するなど、そんなもったいない事は考えてない」
「……え、もったいない事?」
ダージュが不敵に笑いながら意味深な言葉を口にすると、鳩が豆鉄砲でも撃たれたかのような表情になるアッシュ。
背筋に氷でも押し当てられているかのような冷たい言葉。
それは殺気でもなければ敵意でもない。
今までとは違う別の恐怖の冷徹差。
あまりにも情報処理できない程のプレッシャー。
ダージュの言葉にはもちろん意味がある事を、この後すぐに知る事になるアッシュたちだった。
目的地の場所に着いた。
中に入ってから二分も経たないくらいだった。
その前には何重にもブロックされている閉鎖扉。
厳重に何重にも扉が重なり、人の手でこじ開けるなど不可能な扉。
まるで、水溜まりに波紋が広がり続けている様な螺旋型の扉だった。
「これ、一つ一つの円がしっかりと鉄の扉で出来てるわね」
「ああ。何重にも扉で施錠している分厚い扉だ。こんなの自力で開けること自体、不可能だぞ」
ネムイとライアが驚愕する中、ダージュは近くにある、モニターらしき液晶パネルに近付く。
そこに指を当てると「ピロン」と言った機械音がなり、プシュートと音を立てながら、円と円の間の扉から白い煙が噴出される。
「指紋認証か」
全員だけが唖然とする中、カズイだけが冷静だった。
円の一枚一枚が、ガシャンガシャンと音を立て、円が拡大し、枠に収まるかのように鉄の一枚一枚の扉が開いていく。
全て開き終わると、中から明かりが灯される。
まるでドーム会場の明かり並みの照らし方。
その中に入って、思わず大きく息を呑むアッシュたち。
中はやはり途轍もなく広く、公共のスタジアム並の広さ。そこには、数えきれないほどの、鼠が、透明な防弾用と防音用のガラスに収納されていた。
それが部屋の壁一面にだった。
「キャーーー――‼」
何故かは知らないが、ネムイが壮絶な悲鳴を上げ、一目散に部屋から出て行ってしまった。
どうやら鼠が苦手の様だ。
それを見たダージュが壺でも突かれたかのように笑う。
「アハハハハッ! 人体模型に取り付けていた隠しカメラで見ていたが、あいつには芸風があるな。ふん、まあいいだろ。で、どうだ? この部屋の感想は?」
ダージュは両腕を背筋にまで伸ばすかのように自慢げな表情だった。
「……え? どうって?」
ダージュが何を伝えたいのかまるで分からないアッシュたちは呆けた表情でダージュに言葉を返す。
ライアに関しては「やっぱりイカレタ野郎だな。こんなマウスだらけの部屋を見せて自慢げにするとか、施設行きだろこいつ」とカズイに耳打ちする。
「……まあ……そうかもな」
カズイも期待外れとでも言わんばかりに、呆れかけてしまう。
「いやはや、我ながら惚れ惚れとする成果だ」
「ん? 成果?」
ダージュはまるで自分が偉大な人間である事を自負でもしているかのようにうっとりとした目で、大量のマウスに目を向ける。
それを聞いたカズイの表情が変わった。
「ま、まさ……か……」
「……気付いたようだな」
カズイの表情は、徐々に悪くなる一方だった。
冷や汗が止まらない。
そんなカズイを見て、鋭く自慢げな笑みの目を向けるダージュ。
果たして、ダージュの計画とは? 成果とは?




