第十章 向けられた目 八話
そうこうしている内に、ダージュの医務室に着いた四人。
アッシュは通気口の中からぼんやりと光っている室内を見渡した。
周囲に誰も居ない事を確認したアッシュは、蓋を開け、室内に入り、続いてカズイたちも入っていく。
夜中で誰も居なくても蛍光灯で照らされている医務室。
すぐに目に入ったのが人体模型だった。
降りてみてようやく認識できたのか、急な事で思わず声を挙げそうになるネムイ。
口元を抑え、思わず息を呑む。
それを偶然目にしたアッシュは笑うのを堪えると、気付いたネムイは苛立ちながらアッシュの傍にグイッと来ると「近い内にあんたでリアルマネキン作るわよ」と眉間に皺をよせ耳元で声を殺しながら口にすると、一瞬にして背筋が凍るアッシュ。
ネムイの目はマジだった。
「君たち。相思相愛なのは何よりだが、まずは気取られないように手掛かりを探すぞ。夜中とはいえ、警備員が巡回しているはずだからな」
「何言っちゃってんのよ。私がこいつに興味を抱くとすれば、人類の救済のためになる唯一の臓器提供や輸血に使える五体満足な体の中見くらいよ」
「ヒュー。恐ろしや」
プンスカ怒りながら口にするネムイの価値観に、身震いでもするかのように悪寒が走るライアだった。
カズイとアッシュは呆れ、さっさと探そうと、物色を始める。
捜査してみると、人間の臓器や肢体などの標本が、木材でできたショーケースに並べられていたりもした。
異様なコレクションだ、とダージュの恐ろしさを再確認するアッシュたち。
しかし、その臓器などの横の木材の部分には、木彫りでも彫るかのように、何か文字が刻まれていた。
その文字は、臓器によって異なる手術方法が記されていた。
「ふん。ダージュ先生の奴は、ふざけたコレクションだけでなく、それを生かすためにでもしてるのか知らないけど、認知症予防のためにでも傷や病気の治療方法を刻んでるのか? とことん自分の事しか考えてないんだな」
ライアは少しイラつきながら口にして、その誰かも知らない人の体や中身を見てうんざりしていた。
「にしても絨毯もまあ豪華な事で。淵は金でできて、生地も一級品てか? ダージュ先生て、やっぱりお金儲けの事しか考えてないのかな?」
「はっ、今更でしょ」
アッシュは呆ける様に一面に敷かれ豪華な絨毯を目にしてぼそり呟くと、それを聞いたネムイが呆れる。
しかし、カズイだけが何か思案していて。
「いや、正確には今更ではなく再確認と言った所か」
「ん? どう言う事だ?」
カズイが顎を摘まみながら、如何にも金持ちの医院長と言わんばかりの物を見渡して口にすると、ライアが首を傾げる。
「良く見てみろ。ここには高価そうな物もあれば、哲学書、医学書の本棚もあり、人間の臓器や肢体まである」
「それで?」
「ここはダージュ先生の医務室だ。と言う事は、ここに置かれている物は、その人物の人間性が疑われる、いわゆる証拠に近い物だ」
まるで当り前の事を口にしているカズイが何を言いたいのか、やはりピンとこないアッシュたちは「つまり?」とその先の言葉を促す様に聞く。
「つまり、これまでのダージュ先生が何をしたのか、そして、この先に何を見出しているのかの心象風景の様なものだ。思うに、ダージュ先生はお金に目がなく、医師としての誇りがる事が伺える。標本に関しても認知症予防のためと言うよりも、初志貫徹の表れと言ってもいいかもな」
「ええぇ。そうかー。俺様には最悪な趣味に自分の予防を上乗せしている、狂気の奴にしか見えないぞ」
カズイが黙々と口にしているが、ライアは納得いかないのか、かなり仏頂面をしていた。
「確かに異常性は感じるが、どこか純粋な人の欲望にも思える」
「まさかあんた、あいつが真面な人間なんて、神が全裸になっても口にしないわよね」
カズイの憶測を我慢してきていたのか、随分プレッシャーを放ちながら、カズイににじり寄るネムイ。
アッシュは、ネムイにはやはり何か欠けているのでは? と親が子供に思う様な心配した気持ちが、何故か湧いてきてしまい、思わず顔に出てしまう。
それを見て笑いを堪えるライア。
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