第十章 向けられた目 四話
「もしかして、ピアノ線か何かで吊るされてるのか?」
カズイがそう観察していると、すぐにネムイが隠し持っていたハンドガンを取り出し、宙に吊るされている卒業生の頭の上に、銃口を向ける。
精神を集中させ、見えないはずのピアノ線に狙いを定めたかのように、半ば感で撃とうとする。
しかし。
バン!
「キャッ!」
なんと左右に巻かれている断幕の右の陰から、一人の女性が身を乗り出し、ネムイの銃を片手に手にしていたハンドガンで撃ち、撃ち落とした。
カラカラと音を立てて、ネムイが手にしたはずのハンドガンはコートの床を滑る様にして転がっていく。
「うぐっ、カハッ」
終に息絶えた卒業生。
先程、ネムイのハンドガンを撃ったのは、なんと、マチルダだった。
マチルダはハンドガンを手にしていないもう片方の手で、ピアノ線を握っていた。
「そ、そんな……」
アッシュは絶望するかのように顔を真っ青にしていた。
誰もが、吊るされた卒業生が絶命した、と思って、オドオドしている矢先、その卒業生に果敢に向かって行く一人の影が。
「カズイ⁉」
なんと、カズイは影だけを残すかのような素早い身のこなしで、壇上に向かって行く。
それを見逃さなかったマチルダは、何発もカズイに向け発砲する。
左右に飛び跳ねる様にして躱していくカズイ。
「ちっ」
中々の手練れと踏んだマチルダは苛立つかのように舌打ちをする。
そして、壇上にジャンプして上に上がったカズイは、ピアノ線を目で捕らえると、手にしていたナイフを投擲する。
切っ先を真っ直ぐ伸ばしたまま、飛んでいったナイフは、見事に的を捕らえ、卒業生の吊るされているピアノ線を切断させる。
「よしっ!」
それを目の当たりにしたライアは思わずガッツポーズを取る。
「息を吹き返せ、頼む」
カズイはすぐさま、その息をしていない、卒業生を仰向けにすると、首を少し持ち上げ、呼吸ができやすいよう、軌道を変える。
そして人工呼吸をしながら心臓マッサージをする。
それを目にしたマチルダは気に食わない様な目で、銃口を背にしているカズイに向ける。
「待て」
だが、それを止めたのはなんとダージュだった。
片腕を伸ばし、マチルダを静止させる。
マチルダは、とんだ茶番、と言わんばかりに鼻で笑うと、銃を下ろす。
「カズイ!」
動揺が蔓延する中、少しすると、アッシュたちが酸素ボンベを持ってきた。
「脈は⁉」
「ある。酸素療法と、気管支拡張剤を注入すれば、大事ではないはずだ」
「ふうー。良かった」
切迫した状況の中、何とか、卒業生は命を拾えたのだ。
安堵の息を吐くライア。
ネムイとアッシュも同じくだ。
いつの間にか、その場を去っていたマチルダ。
どよめきが会場中に残る中、ネムイたちがダージュを睨ん付ける。
しかし、ダージュはそれを鼻で笑い「興がそがれた。今日はここまでだ」と言って、ステージを後にする。
カズイとアッシュが、窒息死しかけた卒業生を診て、事なきを得た。
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