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第九章 終わらぬ悪夢 九話

 現場を目の当たりにしたトードは、言葉が出てこなかった。


 現実味が全くわかない。


 それ程の悲惨な現場。


 イムとウイリーが重なる様に横たわり、イムは片腕と片足、頭部が雑に切断でもされたかのように床に転がっている。


 ウイリーは片足が無くなり、黒い煤を付けながら横たわっていた。


 「う、う、うあああーーーー!」


 思わず、悲痛な断末魔でも上げるかのように、発狂するトード。


 それを後ろから見ていたネムイは居たたまれない思いで、目に涙を浮かばせながら見ている事しか出来なかった。


 それでも、せめて医者として、人として、この場でイムに何かできる事はないか、と考えるネムイ。


 せめてもと思い、自分の白衣を脱ぎ、イムとウイリーの遺体にかけてあげる。


 「ごめんなさい。こんな選択しか出来なくて」


 むせび泣きながらイムとトードに謝罪するネムイ。


 すると、トードは泣きながら首を横に何度も力強く降り、「君が誤る必要はない。悪いのはこんな状況を作り上げたダージュだ。むしろ僕たちをここまで導いてくれた。ありがとう、ネムイ。必ず、イムの仇を取ろう」と言ってネムイの手を力強く握る。


 その言葉に救われたわけではないはずなのに、トードの優しさに感謝し、号泣し、トードと共に、平服でもするかのように座り込み、前屈姿勢になりながらお互いを慰め合うかのように泣いていた。


 そうでもしなければ辛すぎて、イムの無念を背負いきれなかった。


 そんな事をしながら数十秒後、列車はギゼン国の町に入った。


 駅のホームで止まろうとしたその時。


 フサッ。


 トードとネムイのすぐ近くで、かけられていた白衣が膨らみかけたかと思いきや、その白衣は床に落ちる。


 そこから鋭い目つきで、呼吸困難に落ちっていたウイリーが、銃口をある人物に向けた。


 ドン!


 「え?」


 何が起きたか分からない。


 それを認識していたのはネムイだった。


 銃声が一発鳴ったと思ったら、手を握っていたはずのトードから力が抜け、その手はするりと離される。


 過呼吸になるのでは? そんな思いで現状を受け入れ羅られないのはネムイだった。


 「うああーー!」


 ネムイはトードが頭部を撃たれ変わり果てた姿になっているのを目の当たりにすると、壮絶な悲鳴を上げ、すぐに怒りの矛先が、トードを撃ったウイリーに向けられると、すかさず、肩にかけていた銃をウイリーに向け弾が空になるまで発砲を続けてしまう。


 悪魔に魂を売ったかのように、人ならざる人の行為。


 それはもはや医者でもなければ人でもない。


 果てしない憎しみをウイリーにぶつけるネムイ。


 その表情は鬼や悪魔とは例えられない、忌まわしい何かだった。


 カチャッカチャツ。


 空になっても嗚咽を漏らしながら引き金を引き続けるネムイ。


 ウイリーはと言うと、ハチの巣にされ、全身、穴あき人間となり、帯びたたしい血を流しながら顔の表情を穴が開きすぎて分からず、変わり果てた姿で絶命していた。


 「うっ、うっ、うっ」


 へたり込みながら座るネムイ。


 誰も報われず、救えず、ただ悲しい時間だけが過ぎていく。


 ピピピピピッ!


 すると、不意にどこからか携帯の着信音が聞こえてきた。


 その音の出所がウイリーのポケットと分かったネムイは、剣幕を突き立てる様な目でウイリーの遺体から携帯を手に取る。


 「こちらの制圧は完了した。と言っても、医学生は一人も居なかったが、気晴らし程度に蹂躙しておいた。お前の所に医学生たちが集まってるはずだ。速やかに殺すつもりで攻撃し、生き残った医学生たちを合格とする。私はこのままプランBに移行する。お前も頃合いを見計らい、ギゼン国を落とせ。その国をアメリカとロシアに引き渡す。例の話を円滑に進めるためには、ある程度の手土産が必要だしな」


 人間味など感じない声音。


 その声の主はダージュだった。


 ダージュはウイリーが死ぬはずがない、と思っていたのか、ウイリーと確認もせず、ある計画を進行するために次々とネムイの知らない情報を口にしていく。


 それを聞いたネムイは、いつもなら正気に戻り、自分の不利になる言動はしない。


 言うなれば、この時点で電話を切るべきだった。


 何故なら、ダージュの秘密を少しでも知る事は、もしかしたら命の危険に直面するかもしれない。


 何も言わず電話を切るのがセオリー。


 だが、ネムイは怒っていた。


 いつもの判断が下されず、言いたい事を、憎を、不満を超えた怒りを、ダージュにぶつける。


 それだけが脳裏に強く刻まれる。


 「残念だったわね。ウイリーなら私が殺したわ。貴方も今の内、その例の計画とやらのために先手を打つ事ね。もたもたしてたら、私があんたを殺すわ。少しでも秘密を知った私を先に殺すか、あんたが死ぬか。まあ、どちらにせよ、私が死んでもあんたは死ぬ。これだけは絶対不変の縛りよ。覚悟なさい。今まで排他してきた命の重み、あんたに分からせてやる!」


 バキン!


 ありったけの恨みを込め口にし、最後にはけたたましい声で締めると、携帯を床に叩き割った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回で第9章は終わりです。

次章からも是非ご一読ください。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
こんばんは❇︎ 久しぶりの投稿、お疲れ様です! こんな時間に気付いてしまいました;;; イムの姿が絶望的で声を失いました。 状況が状況でしたし、彼女は最期のような気はしておりましたが、まさかのでした…
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