第二章 野望 二話
「君たちに良心は無いのか? あんな非道なやり方、とてもじゃないけど、僕には賛同できない」
眉を顰め訴えかけるトード。
「はあ? いいかトード。ここでは冷酷な奴ほど生き残る。強靭な心と腕さえ立てば、晴れて名医の誕生だ。今みたいにお人好しで居ると……死ぬぜ」
冷笑でもするかのようにトードに近付き、最後は圧をかけて、死の言葉を贈るアッシュ。
それには背筋が凍る思いをしたトード。
トードも分かっていた。
民衆は既にこの事を受け入れてる。
実際、ダージュが名誉医師として、医療界のトップに君臨してから、手術ミスなどもなく、末期の病すらも治してしまう程、目まぐるしい成果を挙げていた。
誰もが認め、恐れ、ダージュを称賛する。
中には尊敬し、崇拝する人間も居始める。
ダージュは何故、弱肉強食の様な医療界にしてしまったのか?
何が彼を歪ませたのか?
トードはそれを考えながらも、アッシュの「死ぬぞ」と言う言葉を合わせ、考えてしまう。
俯き暗い表情をするトード。
「おい、その辺で止めとけ。さもないと、俺様の鉄拳が、その親の形見の顔にめり込むぜ」
「うっせえライア! それに俺の母親はまだ生きてる!」
助け舟を出してくれたのは、トードと同じく同期のライア・ペンサー。
鼠色の髪のボブヘアーの巨乳な女性。
十代半にしては発育が良く、幼いように見えて綺麗な顔立ち。
かなり男勝りで活気も良く、慣れ親しい人である。
ライアの元気はつらつとした威圧に、目玉でも飛び出すんじゃにかってくらい驚きながら怒るアッシュ。
「やれやれ、君たちはもう少しゆとりと威厳を身に付けた方が良い。特にアッシュ。か弱いレディーに高圧的な態度は頂けない。医師を目指す同士として看過できない由々しき事態だ」
かなり威厳ある声音。
どんな男が登場するかと思いきや、アッシュは目を細め、口を真一文字にして、その威風堂々としている男に目を向ける。
後ろの席からゆっくり立ちあがり、テクテク歩いてきたのは、何と、百四十センチにも満たない男の子? だった。
帽子の上に更にフードを被り、まるでボクシング選手がトレーニングデもしてるかの様な風貌。
名前はカズイ・コーター。
青い色の三つ編みの髪を肩から流し、伊達メガネをかけ、鼻は高く、吊り上げた目。
ライアとはまた別の意味で、誰がどう見ても幼い容姿のはずなのに、どこか威厳がある様な雰囲気の男が、アッシュに詰め寄ってくる。
アッシュはまるで、こいつと関わると、ただ、ただ面倒だと思いながら大きな溜息を吐く。
実際、カズイはアッシュを何度も論破し、腕っ節でも圧倒される程の実力者。
とくに、ライアと組まれて口喧嘩でもしようものなら、ぼろくそに言われ放題にされ、半ベソをかいた事もある。
因みに、カズイは背丈が小さくても、脱いだら、トップアスリート顔負けの筋骨隆々とした肉体の持ち主でもあった。
「ああ! くそっ! さっさと落第でもしやがれ!」
アッシュは言い返す材料もなく、子供レベルの負け惜しみの言葉しか言う事が出来ず、先程、トードたちを潮笑いした連中の群れの元に戻っていく。
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