第九章 終わらぬ悪夢 三話
グイリバナ軍の後方部隊では、イプソンたちが仕事に精を出している時だった。
「ん? 誰か来るぞ」
「ギゼン国の兵士か? それにしては随分、軽装に見えるが、防弾チョッキはしているよな?」
「ああ。白衣の上に着ているな。もしかしたらトード君たち医学生か? それにしても何で防弾チョッキなんか」
見張りのグイリバナ国の兵士たちが、双眼鏡で後方部隊に向かってくる一人の人物に首を傾げていた。
徐々に近づいてくるその人物は、双眼鏡がなくとも、見えるくらいに近付いてくる。
そして、その人物は良く顔を見ると、ダージュだった。
「どうしたんだい? て、あれ? トード君たち医学生の中で、こんな人いたっけ?」
「いや、みんな若かったと思うけど。もしかして身元が不明な医学生か誰かか?」
ダージュだと知らない二人の兵士は、色々な憶測を眉を顰め口にする。
「私は今回ハズレだ。君たちは運が無かったな」
「え?」
ダージュは不気味な相好で笑みを浮かべると、兵士たちはキョトンとする。
そして、ダージュが口にしたその刹那。
ドン! ドン!
二発の発砲音が鳴る。
いつしか、ダージュを迎え入れようとした二人の兵士は額を撃ち抜かれ絶命する。
「なんだ⁉」
「えっ! 戦争が終わったはずなのに発砲音がしたぞ!」
銃声を聞いた、物資を運ぼうとしていた兵士たちが慌てて音がした方向に迅速に向かって行く。
音が鳴った場所に移動し、そこで目にしたのは、ダージュがハンドガンを手で持ち、ぶら下げていた所だった。
ダージュぼ足元には二人の遺体となった同胞が、亡骸となって横たわっている。
「き、貴様! 何の真似だ⁉」
ドドドドドドン!
兵士たちは血相を変えて、AKを連射する。
ダージュは一人の遺体の首を鷲掴みにし、盾にする。
遺体に何発も命中するが、ダージュは無傷だった。
ダージュはそのまま遺体を盾にした状態で前に突っ込む。
発砲音が寸前止むその瞬間に、体を横にずらし、何発も発砲する。
「うっ!」
「うがっ!」
その弾は全て正確に兵士たちの額を捕らえ、撃ち抜かれる。
「全隊員に次ぐ! いますぐ武装し、謎の男を迎え撃て!」
撃たれるのを免れた兵士の一人が、物資の箱の陰に隠れ、胸元に付けていた無線を取り出し、必死に口にする。
指示を聞き、一大事な事態に気付いた兵士たちは、ヘルメットを被り、完全武装した状態でダージュの元に向かって行く。
ダージュは散開しながら向かってくる兵士たちを視野に入れた瞬間、テントの陰に隠れた。
「撃つな! あの中には同胞たちが居る! 回り込むぞ!」
ダージュはテントの中に負傷した兵士たちが居る事は、もちろん知っていた。
衛星監視カメラで見ていたからだ。
そうでなくても、ダージュは戦争がどういうものなのか、理解していたため、目星は付いている。
ダージュはテントの裏に身を置くのかと思いきや、なんと、サバイバルナイフでテントを斬りつけ、中に入っていった。
後ろに回り込んだ兵士たちがそれに気付くころには、テントの前に居た兵士たちが、次々と、ダージュが手にしているナイフで頸動脈を斬られ、絶命していく。
「なっ! これは⁉」
後ろに回り込んでいたイプソンたちが、斬られたテントの中に入ると、患者と思わしき、兵士たちが無残な姿で横たわっていた。
帯びたたしい血が散乱して、死体だらけ。
一人ひとりの患者が、心臓や首を一突きにされ亡くなっている。
かろうじて息の合った患者だったが、駆けつけて直ぐにして苦しそうに息を引き取った。
「な、何と言う事だ」
戦々恐々とする駆けつけたイプソン。
すると、背後から。
ズバッ! ズバッ!
「うぐっ!」
なんと、ダージュは前方の兵士たちを全員殺し終えると、またもや裏に回り、自分で斬り付けたテントの中に再び入り込み、背後を向いている二人の兵士たちの喉を斬る。
そして、瞬時に残りのイプソンの首に腕を回し、締め付けながら、ナイフを頸動脈に当てる。
イプソンはダージュの表情を見なくても分かっていた。
正に、悪魔的な顔をしていると。
「き、きさま。一国を敵に回して、ただで済むと思うなよ」
息苦しくもありながら、背後で首を絞めつけているダージュを脅すイプソン。
「生憎だが、私は国ではなく世界を敵に回し、今を生きている。そして勝ち取った。これまでも、これからも」
意味深な言葉を冷たい冷気を帯びさせながら残し、イプソンの首を描き斬った。
あまりにも呆気なかった。
人質を取ったにしても、殆どナイフ一本で、グイリバナ国の兵士たちを皆殺しにしていた。
イプソンたち後方部隊は壊滅となってしまう結果に。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回の投稿はここまでです。
次回の投稿は8月18日になります
是非ご一読ください。
よろしくお願いします。