第九章 終わらぬ悪夢 二話
その日の内、トードたち医学生は、救えない命もあったが、息をしていた大半の兵士たちの治療を完遂した。
ダロルド将軍は、グイリバナ国の兵士たちと共に、両国の一丸を目指すと言う、スインの意志にも関わる事を、公の場で口にすると、すぐに軍隊だけでなく、警察組織と共に、国に対してクーデターをする事を宣言する。
また、ギゼン国とグイリバナ国の大統領やマスコミにはこの事を伏せ、水面下でいう事を企てる。
トードたちは近くで聞いていて、上手く行く事を祈りながら治療に精を出す。
一方、グイリバナ国の後方部隊では。
「おいイプソン。こっちの物資はここで良いんだけっか?」
「ああ。この後、ギゼン国の後方部隊に届ける。治療に必要な医療器具や薬品だけでなく、食料や飲料水も必要だしな」
そこでは、イプソンが隊長となり、軍隊を指揮していた。
グイリバナ国の兵士たちも、これで平和になる、と思いながら、ニコニコしながら作業をこなしていた。
だが、悪夢は突然、牙を剥く事を、この時のトードたちはまだ知らない。
治療も順調に進み、兵士の九割の治療は終える事が出きた。
試験終了まで、あと三時間。
「トード」
「ライア。カズイ」
自分たちの時間も確保できて来たライアとカズイが、親し気に近付いてくると、トードは笑顔で出迎える。
「にしてもお前凄いな。本当に敵国の軍隊も味方にしちまうなんて」
「ああ。君はやはり、人に好かれる体質の様だ。友人として誇りに思うぜ」
「いや、そんな事ないよ。スイン将軍が命を懸けて、僕たちに尽力してくれたおかげさ。僕一人じゃ、何も変えられなかった」
無邪気に語りかけてくれるライアとカズイに、トードは尊い様な表情で物静かに語る。
それを見たライアとカズイは、ニンマリしながらトードの髪をくちゃくちゃにする。
そこへ、ネムイとイムが近付いてきた。
「トード!」
「イム」
イムは嬉しそうにしながらトードに抱き着く。
トードも優しく抱きしめ返した。
「何よ。まるで恋人同士が感動の再開でも果たしたかのような場面じゃない。ここはまだ戦場なのよ。ふん」
それを見たネムイは、大分ご機嫌斜めにふてくされていた。
その言葉に慌てて互いを放すトードとイム。
「ネムイ、ありがとう。君の知識と経験が、今この現状を生み出してくれた。だから機嫌を直してよ。ね」
純粋無垢な笑みでネムイの背中をトントン叩くトードに、ネムイは「この鈍感で愚息おとこ!」とコメディドラマの様なキレっぷりで、トードの腹部を強く殴る。
「うぐ、え、何で?」
「「アハハハハッ!」」
痛みながら戸惑うトード。
それを優しく見守りながら哄笑するカズイたち。
息を呑む非日常が終わり、誰もが安心していた。
……だが。
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