第九章 終わらぬ悪夢 一話
「良かった! 本当に良かった!」
「やったなトード!」
トードが泣きながら喜んでいると、アッシュが力強く抱きしめる。
ダロルドたちも抱きしめ合い、戦友の窮地の復活を心の底から喜んだ。
「アッシュ君! お母さんが目覚めたぞ」
「えっ⁉ はい、今すぐ行きます!」
一人の兵士がアッシュに呼びかけると、アッシュは一驚する。
そこへ、トードが「行ってきなよ」と優しく口にし、アッシュの背中を軽く叩く。
アッシュは喜びながらサイグの元へと向かう。
急いで駆け付けると、点滴をしながら人工呼吸器を付けていたサイグが、弱々しくではあるが、目を開けていた。
「母さん!」
「……はあー。愛しの息子、アッシュ」
アッシュは喜びを嚙みしめながらサイグの元へ近寄ると、慈しむ様に出迎えてきてくれたサイグ。
まだ安静にしてなければいけないので、会話は殆どできないので、それを知っていたアッシュとサイグは、手を握りしめ合いながら、二人だけの時間を過ごした。
スインも人工呼吸器が付けられ、点滴をされながら、絶対安静となっていた。
「トード君。君たちの熱意と実力に敬意を。本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ、機会をくださりありがとうございます」
ダロルドが代表としてトードと握手を交わす。
そして、ダロルドは約束通り、グイリバナ国の軍と医学生を出迎えてくれた。
無線で敵対国同士でやり取りをしていたが、今は違う。
新たな仲間としてお互いを迎え入れられている。
数台のジープでギゼン国の兵士の人たちが、迎えに来てくれた。
状況を聞いたネムイたちは、急いでギゼン国の後方部隊へと向かう。
また、ギゼン国とグイリバナ国の兵士たちは、結束して、生き残りが居ないか、戦地を巡回する。
何人かが生き残っていて、ギゼン国の後方部隊へと送られ、ネムイたちがギゼン国の兵士たちの治療に専念できた。
おまけに、足りない物資は、ギゼン国が負担してくれると言う事で、ダロルドが接戦して治療に必要な薬品や輸血、器具など一式持ってきてくれた。
トードたちが持ってきた医療バックは限られていたため、ありがたい事だった。
試験開始から六日と半日、ようやくトードたちは、両国の兵士たちの治療を引き受けられた。
場所は変わり、ギゼン国を見渡せられる位置にあるフェリー。
そこにはダージュがウイリーと共に監視衛星で受信されるリアルタイムの動画を見ていた時だった。
「ダージュ先生。どうやら今年の合格者は15名の様ですが、いかがなさいます?」
甲板の上で、ウイリーが、手にしていたアイパットをテーブルに置くと、眉を顰め口にする。
「これでは医師としての技量があっても、この試験の狙いには的外れだ」
「同感です」
ダージュは意味深な言葉を、嫌気がさす様に口にする。
言い終えると、ゆっくりとした足取りで、デッキの所にまで歩き、ギゼン国の後方部隊が居ると思わしきトードたちの方角に目を向ける。
すると、不敵に微笑みだしたダージュ。
「さあて。課外試験といくか」
まるで地獄の番人が、大釜で慌てふためく人間を、すり鉢で磨り潰すぐらいのあくどい顔で言うと、クローズアップされるダージュの顔。
ダージュは一体、何を企んでいるのか?
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