第八章 奇跡を起こせ 八話
そして、ダロルドの言葉の意図を理解し、すぐに行動に起こすトードとアッシュ。
「アッシュ、僕がメインでオペを始める」
「ああ。心臓が止まってから十分が勝負だ。五分で終わらせるぞ」
「うん!」
二人は戦士の様な面持ちになると、すぐさまスインのオペを開始する。
人の心臓が止まってから、十分が生命活動の限界時間とも言われている。
一分経つごとに、数パーセントの確率で生存率が変わるぐらいだ。
トードたちは五分で、心臓移植を終わらせようとしている。
果たして可能なのか?
トードたちが執り行うのは、同所性心臓移植。
心臓を取り除き、ドナーの心臓を移植する方法。
頸部からそけい部まで綺麗に消毒し、ソルメドロール一g、抗生剤を投与する。トードは胸部を切開し、胸骨正中切開で心臓に到達すると、外傷がある部分を確認する。先程スインが自分自身で撃った弾丸が、心臓の中で止まっていた。
弾に埋め込まれている心臓事、トードは取り除こうとしていた。
それを見たアッシュは、トードを信じた。
その間、アッシュは止血に回る。
心臓が完全に停止して、柔らかくなってきた所で、アッシュが心臓を上方へ持ち上げ、左右の肺静脈を切断し上大静脈を切断するトード。
その手さばきは、まるでリズミカルでありながら繊細な物だった。
その手際を見ていたダロルドたちは感心していた。
切断する箇所の脈を切断し終えると、いよいよ心臓移植。
ここまで大体、二分二十秒。
真空パックされている心臓を取り出し、アッシュが心臓をスインの胸部に収める様、慎重に下げ、定位置に固定する様に持ち上げ続ける。
そして、トードは全ての動脈や神経、血管を糸で縫い合わせていく。
あまりにも時間がかかる作業。
「だめだ! このままじゃ間に合わない!」
トードは五分が過ぎて、七分目で危険を察知した。
すると、アッシュは「誰か! すいませんがドナーの心臓を持っていてくれませんか⁉」
その鬼気迫る言葉に、ダロルドが名乗りを上げ、手を消毒し、手術用の手袋を急いではめ、「待っていろ。我が同胞」とスインに呼びかける様に口にすると、ドナーの心臓を躊躇なく受け取り、中で固定する様に持ち上げ続ける。
アッシュも縫う作業に回り、二人で動脈、神経、血管をドナーの心臓に縫い合わせていく。
周囲の静けさが不気味に思えるほど、深刻な状況が続く。
八分、九分、と時間が経過したその時。
「よし! 後は、胸部を縫合すれば!」
トードとアッシュがやってやったぞ、と言わんばかりに喜びの声を上げると、目にも止まらぬスピードで、切開した胸部を縫い合わせていく。
残り時間、二十秒となった時、全ての処置を終え、急いでAEDを持ち出し、心臓に電気ショックを与える。
キュイーーン、バン!
三回ほどAEDが鳴ってから、手術開始、丁度十分が経過した。
その時。
「ごほっ!」
「す、スイン将軍⁉」
スインが、息を吹き返し、トートは奇跡が起きた事に飛び跳ねる様に驚く。
「や、やったーーーー!!」
「「うわあああーーーー!」」
トードだけでなく、アッシュももちろん、ダロルドや他の兵士たちも歓喜の声を、これでもかと、挙げる。
まるで古の古代遺産を見つけたかのような喜びよう。
生まれて初めて人の生に喜びを感じたかのように。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で第八章は終わりです。
次章からも是非ご一読ください。
それから申し訳ありませんが、来週の水曜日まで投稿はお休みさせていただきます。
申し訳ありませんがよろしくお願いします。