第八章 奇跡を起こせ 五話
そうこうしているうちに、ギゼン国軍の後方部隊と思える地域に到着した。
前にはバリケードが張られ、白旗が上がっているにもかかわらず、警戒態勢だった。
予め、トードたちの状況を伝えていたため、驚くことなく迎えられたトードたち。
しかし、その兵士たちの目には敵意と殺意が入り混じっていた。
兵士たちの中を歩いて行き、その間、アッシュはサイグに付きっきりだった。
「ダロルド将軍。お待たせしました」
「うむ」
奥に居たギゼン国の将軍、ダロルドは厳つい面持ちで待っていた。
簡易テントも張られ、中では負傷した兵士たちが、満足に治療を受けていない状態だった。
アッシュとサイグが家族だと言う事も伝え、いよいよ本題へ。
「危険物の類は一切ないか、こちらでもグイリバナ国の降伏を確認している。こいつらはその使者か? どうなんだ貴様ら?」
威圧する様に聞いてくるダロルド。
「似た様な物だ。私はグイリバナ国。国軍の将軍、スインと言うものだ。こっちの二人は、トード君とアッシュ君。二人とも医学生で、この戦地での兵士たちの治療を一任された優秀な外科医でもある」
「それで、貴様らの狙いは何だ? ただ降伏して終わりと言うわけではないのだろう」
まどろっこしい話など抜きにして、ダロルドは早速、本題に入ろうとする。
「私の身はどうなってもいい。ただ、この二人だけでなく、グイリバナ国の全市民の安全を約束して欲しい。他にも優秀な医師や外科医も居る。今回の戦争で負傷した君たちの兵士たちの治療にも専念できるはずだ」
交渉し始めたスインに、兵士たちは鋭い眼差しをスインに向ける。
トードとアッシュは、スインの安否を気にかけながらビクビクしていた。
「つまり和平を結びたいと?」
「ああ」
「なるほどな。だが、虫が良すぎないか? 仮にも貴様らのせいで、我が軍は九割を消失した。これに見合う対価を貴様は払えると? ましてや国のトップでもない貴様一人の下衆の言葉など、信じる価値もない」
「ハハハハハッ!」
スインに問いただすダロルド。
将軍同士の交渉だったが、完全に相手にされていない。
火に油を注ぐ事態にはならなかったが、状況は芳しくないのが現状だった。
他の兵士たちは、こんな馬鹿な奴らを見た事がない、と言わんばかりに哄笑していた。
「すまないと思ってる。いくら大統領の名と言っても、余りにも非情すぎた。本当にすまない」
スインが悔いる様に口にすると、敵兵士の一人が、スインの顔を力強く殴る。
「そんな言葉で片付く問題ではない! 我ら正規軍がどれだけ血を流してここに居ると思う⁉ 貴様らのせいだ!」
唾を飛ばす勢いで口にする敵兵士。
スインは、心の底から嘆いていた。
戦争を止められるはずの地位に居て、仲間からの信頼もあった自分なら止められたはずだ、と。
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