第八章 奇跡を起こせ 四話
「おい! 貴様ら何をしている⁉」
「まずい!」
前方から兵士の怒鳴り声がしてきた。
スインは、まずいと思い、トードとアッシュの頭を押し込むようにして、死体の山に隠れさせるようにする。
バン! バン!
二発の発砲音が鳴ると、その弾はトードたちが身を潜めている死体の山に命中する。
「まっ、待ってくれ!」
「ん?」
スインが両手を死体の山の上から挙げ、戦闘の意志がない事をアピールする。
それを確認した兵士たち二人は発砲を止めた。
「手を挙げながら姿を現せ! 妙な真似をすれば即射殺だ!」
兵士たちの言う通りにするため、スインが先導し、先に死体の山から身を露わにする。
安全が確認されると、トードたちに頷きサインを送り、トードたちも恐懼しながら姿を現す。
「貴様らグイリバナ国の兵士か?」
厳つい表情で質問してきたのはギゼン国の兵士だった。
「ああ。そうだ。だが白衣を着ている彼らは医学生。今しがた君たちの仲間を治療し終えた所でもある」
「何? グイリバナ国側の人間が我らギゼン国の兵士の治療だと?」
眉を顰め互いを見合うギゼン国の兵士たち。
「確認のためそちらに行く。妙な真似はするなよ」
威圧しながら近付いてくるギゼン国の兵士たち。
言われた通り、トードたちは両手を挙げたままピクリとも動かない。
そして、ギゼン国の兵士たちが横に並ぶようにして立つと、かろうじて息をしている自分たちの仲間に目が行く。
ギゼン国の兵士たち二人は、一人が見張りとして残り、もう一人がサイグの容態を見る。
「治療された後だ。傷を負って一日半と言った所か。良くこの傷と出血量で助かったな」
目を凝らす様にサイグを見る一人の兵士。
その事を無線で仲間に報告し、車を回してもらおうと手配する。
その間、改めてトードたちは尋問されていた。
どこから来たのか? 何をしているのか? を。
事情を聴き終えたギゼン国の兵士たちは、この三人に敵意は無い事を知り、グイリバナ国が白旗を挙げた事を鑑みるに、危険ではないと判断した。
「お前たちもこのまま我が国に来い。将軍に合わせてやる」
少し威圧しながら言うギゼン国の兵士。
それでもこの場で射殺されなかっただけましだと思ったトードたちは安堵の息を漏らす。
三十分後。
軍用車両が到着した。
トードたちは両手に手錠された状態で車の後ろに乗る。
サイグも広いスペースで寝かせられ、車に揺られながら目的地へと向かって行く。
目的地に向かうまで、サイグを介護し続けるアッシュ。
もちろん、トードも助力する。
いつ心臓が止まってもまだおかしくない状態だからだ。
その間、スインは敵兵士に軍の内部情報を提供したりと話すので精一杯と言う感じだった。
砂利道を通る車の振動は、余り心地いい物とは言えない。
むしろ、その僅かな反動の様な揺れは、アッシュに不安な思いを募らせていった。
この揺れはもしやしたら爆撃なのか? 誰かが怒号を飛ばした反動なのだろうか?と
それでサイグにもしもの影響を与えてしまったら、と神経質になりすぎていた。
そんな不安定なアッシュを見ていたトードは「少し休みなよ。君はここ最近、神経を張り詰めすぎている。お母さんは僕が見てるから」と優しく声をかける。
「ほんと、お前にはこの先、頭が上がる気がしないよ。でも大丈夫だ。このまま介護させてくれ。でないとむしろ俺が持たない」
嗚咽を漏らすようにして喋るアッシュ。
その思いを汲んだトードはコクコクと頷きながら、アッシュの肩を軽く叩く。
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