第八章 奇跡を起こせ 三話
すっかり夜中の0時となり、動物の鳴き声一つとない静寂となる。
懐中電灯を頼りに周囲を確認しながら進んでいくトードたち。
戦争で、動物や虫も巻き添えを食らい死んだか、逃げ出したか?
どちらでも、この静けさは何となく不気味に感じてしまうトード。
その間、アッシュは必死になって死体となった亡骸の身元を一つ一つ調べながら進んでいく。
何もアッシュに追及せず、その様子を見守るトードとスイン。
それは突然訪れた。
トードが息のある兵士を見つけた。
その兵士は呻き声を挙げて痛みに耐えながら苦しい面持ちをしていた。
死体の山の中に埋もれていた状態で顔を出している。
声からして年配の女性だった。
そこで、アッシュの表情が一変した。
その声に、まさか、まさかと思いながら走って近付く。
何事かと思い、トードとスインも急いで駆け寄る。
「うっ、ううっ」
死体の山をどかしながら、その女性をゆっくり引っ張り出すと、アッシュが「か、母さん⁉」と驚愕していた。
血眼に急いでアッシュの母親らしき女性の容態を見るアッシュ。
軍服からしてギゼン国の軍人。
トードは、まさかの事実に耳と目を疑う。
時の流れが止まっているかの様に、状況が飲み込めないトード。
アッシュが検診し終えると「トード! 弾が臓器を損傷してないか調べるためにはオペが必要だ! 頼む! 手伝ってくれ!」とけたたましい声でトードに懇願する。
脳がフリーズしかけた所で、アッシュの切願に我を取り戻したトードは急いでオペの準備をする。
アッシュの母親の名前はサイグと言う。
サイグの容態は、心臓の近くに二発の弾丸が撃たれ、横腹にも一発の弾丸を貰っている。
弾は全て貫通し、出血が酷い状態だった。
「何と言う生命力だ。どれだけ時が経ったか分からないが、まだ息をしていたとは」
呆然とするスイン。
無理もない。いつからかは分からないが、撃たれてからだいぶ時が経っていたと言うのに。
驚いているスインを横に、アッシュがメインで助手はトードと言う形になった。
局所麻酔と強心剤をサイグに打つトードとアッシュ。
治療しながらも、出血量が多く、息をしているのかギリギリの状態だった。
酸素マスクも装着させ、いざオペへ
「くそ! 輸血がない」
動揺するアッシュ。
いくら医療バックであっても、万全に用意されてるのは器具のみ。
輸血用の血などは一切入っていない。
「お母さんの血液型は⁉」
「Bだ!」
「良かった! 僕もB型だ! 僕の血を使ってくれ!」
「トード、すまない。恩に着る」
アッシュは泣きながらトードに感謝する。
それよりも、と、トードは輸血用のチューブ付きの連結管を取り出し、自分に刺すと、もう一方をサイグに刺す。
輸血しながらもトードは助手を務めた。
開腹して臓器などには損傷はなく、止血しながら傷を塞いでいった。
問題なのは出血量。
長い間、出血しすぎて意識が朦朧としている。
疲弊した身体にオペの痛みにまで耐えなくてはいけないので、これは生き残れるかは奇跡を呼ぶしかない。
銃創を塞ぎ終え、傷も縫合し終えたアッシュ。
オペ開始から二時間。
かろうじてまだ息があったサイグ。
「よ、良かった」
「信じられない」
トードとアッシュが汗をぬぐいながら安堵すると、その横で奇跡を目にしかのように目を見開くスイン。
「母さん。母さん」
アッシュは嗚咽を漏らす様にして母親の名前を連呼していた。
サイグは呼吸はしていると言っても、不安定な状態。
気は抜けない。
そこへ。
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