第八章 奇跡を起こせ 二話
夜になり、グイリバナ国の兵士たち、約十人が五つの班に分かれ、森林の中を捜索する。
森林を一晩かけ、捜索し、八人の医学生たちの死体を発見し、その近くにあった、手付かずの医療バックを手にする事が出来た。
幸いなことに、グイリバナ国が進軍していた領土付近だったため、ギゼン国の兵士たちには見つからず済んだ。
ただ、白旗を挙げているため、ギゼン国の兵士たちはそれを確認するため、周囲を捜索しながらグイリバナ国にアポを取ろうとするはず。
だからこそ、時間との勝負な所もあった。
迅速果断に行動したグリバナ国の兵士たちが医療バックを手にして戻ってくると、前線で戦ってた兵士たちも同時に戻ってきた。
中には敗戦した事に泣きながら戻ってくる兵士も。
前線に出ていた兵士の二割しか戻ってこなかった。
誰もが暗い面持ち。
負けを認めて、仲間の大半を失い、得る物など何もない。
そんな惨めな結果を目の当たりにしたスインは「皆の者! ここまで馬鹿げた戦争に献身的に命をささげてこさせてしまった事、改めて謝罪したい! そして! ありがとう! こんな未成熟な志の私に追随してくれて!」と激でも飛ばすかのように口にする。
それを敬礼しながら心に刻む様に聞いていたグイリバナ国の兵士たち。
トードも敬意を表し、深々とスインと兵士たちにお辞儀をしていた。
話し終えたスインは、前に居るイプソンの背中を軽く叩きながら「後は頼んだぞ」と最後の言葉を残し終えると、トードとアッシュを連れ、ギゼン国の兵士たちが居る元へと向かう。
その様子を敬礼し続けながら見送る兵士たち。
トードたちが見えなくなっても、誰も姿勢を崩そうとしない。
ライアたちもトードたちの無事を祈りながら、姿が見えなくなっても見守り続けた。
周囲を警戒しながらトードたちが歩いていたが、死体以外、誰も目にしない。
しかし、何故だか分からないが、アッシュは必ず、一人の死体を見かけたら顔を確認する。
まるで誰かを探しているみたいに。
「アッシュ。どうしてそんな事を?」
憂慮しながら、死体の身元を確認するアッシュに聞くトード。
「……悪い。後で話す」
かなり焦っている様子のアッシュ。
だが、前の様にトードに当たったりしない。
その理由は、先程トードに貸しを作ってしまったからだ。
それを察したトードは、アッシュの一面に仁義がある印象を受け、少し嬉しかった。
「なあアッシュ君。懸想する相手は居るのかね?」
「……いえ、いません」
まるで何かを確認するかのような質問をしてくるスイン。
トードは、少し躊躇したが、振り絞る様に言う。
「……そうか。そうだったのか」
何かを推理する材料が揃い、アッシュが隠してる事を思い至ったスインは、随分、暗い面持ちで独り言の様に言う。
トードはアッシュが隠している話が気になっていたが、だからと言って、それに気付いたスインに聞くような真似は出来なかった。
アッシュが後で説明してくれる。
その言葉を信じ、これ以上の詮索はしない事にしたのだ。
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