第二章 野望 一話
手術の練習も終わり、医学生たちは、疲労で倒れそうな体を引きずって、地上に出て、ダージュが居る本社、ブラックバイソンクリニックの地下の施設に戻ってきた。
先程の薄暗い地下とは違い、しっかりとした設備が整った、広いホールの様な空間。
様々な医学に関わる資料や、医療器具、薬剤などが置かれている。
先程の光景が目に浮かぶ医学生たち。
肉体の疲労と言うよりも、精神的な疲労が蓄積されていた。
「ねえ、大丈夫?」
「ああ。僕は大丈夫」
一人の黒いロングヘアーで可憐な女性が、心配した面持ちで、椅子に座って俯きになっているブロンドの短髪の背が高く、清楚なイメージの男性に声をかける。
その清楚なイメージの男性の名は、トード・シルビア。
「君こそ大丈夫かい? だって、最初に撃たれた男性医師生徒、彼って君の……」
言いずらそうに、今度はトード心配そうな面持ちを、可憐な女性に向ける。
「……ええ……恋人よ」
目をに涙をため始めた可憐な女性。
この女性の名は、イム・アインツ。
イムは今にも泣きそうな顔で、先程、肺を刺され、そのオペを邪魔され、不合格の烙印を刻まれ射殺された男の恋人だった。
「あんまりよ……あの女はどうかしてる」
涙しながら怒りが込み上がってくるイム。
「ケッ。何言ってるんだ今更」
誰もが静まり返るかと思いきや、一人の医学生が嘲笑う。
それを目にしたトードやイムは、不快な目をその医学生に向ける。
その医学生の男の名は、アッシュ・キャロルド。
眉毛がなく、吊り目でオールバックの茶髪。
そんなアッシュは、イムに近付きながら不敵な笑みになる。
「いいか。もう心が温かくて腕の立つ医師は不要な世の中なんだよ。ダージュ先生はこの医学界を変え、より強く、より強靭な精神を持つに相応しい屈強な医師を必要としている。お前たみたいに、死んだ人間に哀愁臭い目を向けるおべっかな生徒はここには不要だ。殺されるのが嫌なら、さっさと荷造りして逃避でもするんだな」
あまりにも辛辣な言葉に、傷ついたイムは、その場でしゃがみ込む様に、泣き崩れてしまった。
すぐに、心配してイムに寄り添うトード。
「はっ! 何だよ。恋人が殺されたら、もう別の男とイチャツクのか? 淫らな女だぜ」
「「アハハハハッ」」
アッシュはそれ見て薄ら笑うと、他の勉強をしている医学生たちは腹を抱えて笑い始めた。
ここに居る医学生たちの、大半は、ダージュの医学としての理念と思想に賛同している者たち。
しかし、目の前で人が死ねば、誰もが怯える。
彼らの何人かも、先程の手術の練習中に起きた事件に恐怖していたと言うのに、虚勢だけは一人前であった。
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