第八章 奇跡を起こせ 一話
トードたちも何かないか考えてみるが中々良いアイデアが浮かんでこない。
すると。
「あるじゃない。医療セットなら」
「え? ネムイ?」
外の騒ぎを聞きつけていたネムイが、テントから出てきて、渋い面持ちで口にする。
「ねえネムイ。そうは言うけど、医療セットはあと少しよ。これじゃ、ギゼン国の兵士たちの治療には回せられないは」
隣で聞いていたイムが、浮かない様子で口にする。
「あのね。ここには受験者の半分にも満たない人数しか居ないわ。つまり、森林で脱落した医学生の連中は死体となっているはず、そこには肌身離さず持っていた医療セットもね」
「……なるほど。半数の医学生たちの医療セットは手付かずと言うわけだ」
「確かにな。ギゼン国の兵士たちは、俺様たちの事を爆発物を持ったグイリバナ国の陽動部隊と思っている。迂闊にはそつの持ち物には触れないわけだ」
カズイとライアも納得したのか、コクコクと頷く。
「よし、話は決まりだ。トード君。アッシュ君。先に森林に言って君たちの医学生の遺物を手にしてから最前線に向かおう。それからイプソン」
「はっ!」
スインがイプソンと言う兵士に声をかけると、イプソンは敬礼する。
「白旗を挙げてくれ。この戦争は我々の負けで良い」
「はっ!」
スインが覚悟を決めて口にすると、スインは気合を入れて敬礼する。
そして、森林に向かう準備をするトードたち。
「ありがとうネムイ。君のおかげで活路が見えてきたよ」
トードは優しい面持ちでネムイに歩み寄り、片手を差し伸べる。
「……私はただ事実を言っただけ。別に貴方たちに助力した覚えはないは」
ツンツンしながらトードの片手を振り払うネムイ。
それでもトードは有難味を込めた眼差しをネムイに向け後ろを向き歩いて行く。
「……死ぬんじゃないわよ」
小声でぼそりと口にするネムイ。
そう言って医療テントの中に戻っていった。
「すまねえトード。お前には借りが出来たな」
「気にしなくていいよ。僕もギゼン国の兵士の人たちが心配だったし、アッシュの言葉はいいきっかけになった。お礼を言うのはこっちだよ」
アッシュが少し気恥ずかしそうにトードの近くで口にすると、トードは笑って返す。
アッシュは下唇を軽く噛み、自分の不甲斐なさを嫌った。
そこで、一人の兵士がこう提案してきた。
まず、少しでもスインたちの疲労を軽減するためにも、自分たち兵士が、森林に入り、医療セットを見つけてくる、と。
その真剣な提案を聞いたスインは、少しでも自分たちが力になりたいと言う兵士たちの気持ちを汲み、承諾した。
「やったなトード」
「ライア。ありがとう。君があの場で僕を庇ってくれなかったら、今の僕は居ない。本当にありがとう」
気さくに話しかけながら近付いてくるライア。
トードはスッキリした面持ちで口にする。
「んな事ねえよ。お前の第一歩が招いた結果だ。気付いてないだろ? きっかけ作ったのは結局お前だって事。お前なら、本当に世界を味方にするかもな」
ニンマリしながら口にするライアに、トードは「え、そ、そうかなあ」と大分、照れていた。
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