第七章 駆け引き 六話
すると、カズイがトードに近付いてくる。
「よう、トード。順調か?」
「いや、まあ、患者の人たちが日が経つにつれ、亡くなっていくのが、見ていて辛いかな」
元気無下げ口にするトードに、カズイは「……そうだな」と悔やむ様に口にする。
カズイもギゼン国の方角を眺める。
「なあ、このままでいいと思うか?」
「やっぱりカズイも同じこと思ってた?」
「ああ。このままグイリバナ国の兵士たちを治療しても、依然と状況は変わらない。兵士たちの睥睨の眼差し、運ばれてくる死体の山。むしろ悪化している。医療セットも数が限られてきたし、何より、ギゼン国の兵士たちが気掛かりだ」
問題が解消しない様な、遣る瀬無い思いで口にするカズイ。
「うん、僕もそう思う。このままじゃ、ギゼン国の人たちが絶滅されそうな気がするし、僕たちの医療行為が、ギゼン国にとっては仇となる気がするよ。現に、形勢がグイリバナ国に傾いてきてるし」
トードの言う通り、軽傷の兵士たちはすぐに治療され、前線に復帰している。
それは重症と思わしき兵士も、完治までとはいかないが、ある程度の傷を負いながらも同じく前線部隊と合流する。
対してギゼン国の兵士たちは、真面な治療が受けられず、次々と息を引き取っていく。
物資が明らかに不足しているギゼン国。
それもまだ国として未成熟な状態を示していた。
だからこそ、トードとカズイは、罪悪感を覚え始めた。
「戦争さへなければ、こんな思いもしなくて済むのに」
奥歯を噛みしめるトード。
カズイはかける言葉が見つからず、ただトードの背中を軽く叩いて元気づけようとする。
すると、どこからか怒声が聞こえてきた。
「貴様! 貴重な医療セットを持ってどこに行く⁉」
兵士の三人が剣幕を突き立てる相手は、なんとアッシュだった。
アッシュは怯えながらも医療セットの入った鞄を抱きかかえている。
「お、お願いします! どうか、ギゼン国の兵士の人たちも治療させてください!」
必死に懇願するアッシュ。
それを聞いたグイリバナ国の兵士は、先程以上に鬼気迫る猛禽の様な剣幕で銃口をアッシュに向け、にじり寄ってくる。
「よりによってギゼン国の兵士の治療だと? 敵に治癒を施したら、我が国の兵士がまたどれだけ被害を被るのかの図れないのだぞ! それを知って、貴様!」
グイリバナ国の兵士の言い分は最もだった。
ただでさへ、疲弊していると言うのに、これでギゼン国の兵士たちが活気だったら、どれだけの損害を受けるかも想像できない。
それを承知の上で、アッシュは泣き寝入りでもするかのように懇願し続ける。
「どうした?」
「スイン将軍。この男が、ギゼン国の兵士の治療をさせてくれと要請してくるのです」
「なに?」
騒ぎを聞きつけ駆けつけてきたスイン将軍。
一連の話をスインに伝えると、スインは眉を顰める。
「君はアッシュ君だったね? なぜギゼン国の兵士の治療に赴こうとしているのかね?」
少し圧をかける様にして聞いてくるスイン将軍。
「……あの、その……」
何を言って良いのか分からないのか、それとも言って良い事なのか判断が付かなかったアッシュは、脳がフリーズでもしたかのように、その場で口をパクパクさせていた。
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