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第七章 駆け引き 四話

 トードは医療テントの中で、既に居た医師と連携し、負傷者の治療に当たる。


 ライアは外で列にして並んでいる負傷した兵士たちの治療。


 全員が、撃たれたり、爆弾で四肢を失ったりと、とても残酷な光景だった。


 既に傷を負った肉体の一部が腐敗し始めてる兵士も居た。


 手足を切断したり、その場でオペをするなどして、逃げ出したくなる惨状から目をそらさず、心を痛めながらも治療に精を出していた。


 暫くすると、他の医学生たちが保護され、グイリバナ国の兵士たちの治療に回る。


 アッシュ、カズイ、イム、ネムイの姿もあった。


 十五人近くの医学生たちがトードたちと合流して、トードも胸を撫で下ろす。


 「やったな。ここなら保護して安全を確保してくれるし、兵士の治療にもありつける。これで俺たちは晴れて医師になれるんだ」


 「ああ。一時はどうなるかと思ったが、これで安泰だ」


 少し離れた場所で、治療に当たっていた医学生たちが、合格を手にしたも同然の様に、満足気に話し合っていた。


 それを聞いていたトードは、何故か心配になってきた。


 本当にこれで良いのか、と。


 ネムイやカズイ、ライアも似た様な考えなのか、思った以上に気持ちが晴れない。


 それは、自分たちの試験のために、治療させてくれる兵士たちに対しての後ろめたさもあるが、このままで本当に合格できるのか? と言う懸念もあるからだ。


 一方、監視衛星から受信されているリアルタイムの映像を見ていたウイリーは、眉を顰めながら「これでは全員、落第だな」と呆れる様に口にする。


 一体、ウイリーは何故、そのような事を口にするのか。


 それは、この戦場そのものに、答えはあった。


 遅くまでグイリバナ国の兵士たちの治療に当たっていたトードたちは、何人かが患者に付き添いながら、晩御飯を食べさせてもらえることになった。


 槙の上で鍋で煮たてられていたお湯。


 その中にレトルトのビーフシチュ―温め終えると、袋に詰めていたパンを開け、パンと一緒に、お椀に入れたビーフシチューを口にする。


 「うめえ」


 「ああ。まさかこんな飯にありつけるなんてな」


 ライアが染みる様な思いで口にすると、カズイも思わず笑みになる。


 火を囲うようにして各々が生きている喜びを実感する。


 それはトードたちだけでなく、兵士たちもだ。


 疲労困憊だけでなく、精神的にも追い詰められていた兵士たちとトードたち。


 皆で囲う食事はこうまでして心にゆとりをもたらしてくれるものなのか。


 しみじみに感じていたトードたち。


 そんな中、アッシュが浮かない面持ちをしていた。


 それは何かを心配している様な感じが見て取れる。


 「アッシュ? 大丈夫?」


 アッシュの異変に、隣に居たイムが気付き優しく声をかける。


 「あ、いや、なんでもない。つうか、俺なんかの事より、自分の事を考えろ。協力し合ったって合格する確率が上がるわけじゃあるまいし」


 ふくれっ面で気恥ずかしそうに口にするアッシュ。


 イムは、何だかんだ他人を気にかけてくれるアッシュに、当時の最悪な印象と重なり合い、思わず笑ってしまう。


 アッシュは腹が立ったのか舌打ちする。


 「ところで、この後の事はちゃんと考慮してるんでしょうね?」


 「え? この後?」


 そこで、まるで本題に入るかのように、ネムイが素早く食事を終え、冷めた面持ちで話を切り出す。


 トードは思わず首を傾げる。


 「呆れた。まさかノープランなわけ? このままここに居ても、患者の治療は出来ても、私たちの身は保証されないわよ」


 至極真っ当な言葉。


 正規軍に守ってもらえてるとしても、それはまだ軍が機能していると言う段階。


 ギゼン国が攻め込み、後方部隊に居るとはいえ、そちらにもいつ、矛先が向いてきても不思議ではない。


 戦闘訓練も受けていたトードたちだが、白衣を着ている以外、丸腰な状態。


 近接戦闘でギゼン国に立ち向かうしかなくなる。


 保護されている身で、自分たちにも武器を貸してくれ、とは言えない。


 ましてや、自分たちは患者を救うために戦地にきたと言うのに、自分の身を守るからと言って、ギゼン国の兵士たちを傷つけるなど、そんな矛盾するようなことも出来ない。


 だからこそ、ネムイは先の事を考え、敢えて、トードたちと話し合いをするため、居たくもない団欒に混じっていた。


 「ネムイの言う通り、俺たちは言わば、医療を提供しているからこそ、身の安全を保障されている。あの人がよさそうに見えるスイン将軍とやらも、いつ俺たちに牙を剥くか、分かったもんじゃない」


 カズイは深慮深く計算していた。


 全員が確実に生き残る方法を。


 「トード。さっきライアから聞いたけど、貴方は殺されかけてたんでしょ? なんでも試験のために自分たちをモルモットの様に扱われた事に対しての報復。それは本当に部下の独断だと思う?」


 「どう言う意味さ?」


 ネムイは淡々と話しを進めるが、それに付いていけないトード。


 再びネムイは呆れて深い溜息を吐き出す。


 「つまり、その部下の思想に、上司もまた近い思想の持ち主だって事だ。反感を買ってるのは部下たちだけでなく上司も含めるのが妥当だろ。組織ってのは基本、同じ色に染まってこそ成り立つものだからな」


 カズイが補足説明すると、トードは暗い面持ちになってしまう。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回の投稿はここまでです。

次回からも是非ご一読ください。

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― 新着の感想 ―
こんにちは* 本日もお疲れ様でございますbb 確かに。サバイバル試験なわけで、生き残る事が絶対ですが、治療をして生き残るだけが目的ではないという事ですね。考えてみても、トード達の状況だけを切り取れば…
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