第七章 駆け引き 一話
少し、荒野を覗いてみたライアは、案の定、グイリバナ国の兵士たちが、疲弊した状態で居た。
医療テントも設置され、平地には、兵士たちが水分補給をしていたり、この後の作戦などについて議論していた。
近くには、死体の山が積み重なっている。
軍服を見てみると、ギゼン国の兵士も混ざった死体の山だった。
議論しているグイリバナ国の兵士たちは、鋭い目つきで、興奮状態だった。
「よし、僕から行ってみるよ」
「まてトード。せめて夜まで待つぞ」
「え? どうして?」
「よく相手の兵士たちの顔を観察してみろ。興奮している。誤って見方を撃ち殺してもおかしくない状況だ」
冷静に分析していたライアの言葉に、ゾッとしたトードは、思わず竦んで、身を丸めてしまう。
そのまま息を潜める様にするライア。
そこで、トードはある光景を目にする。
まだ日は高く、午前十一時ぐらいだった。
それだと言うのに、グイリバナ国の医療テントから、けたたましい叫び声が聞こえる。
列を作る様にして、負傷した兵士たちが、医療テントの前で座ったり寝たりしながらで待っていた。
待っている兵士たちも重症の怪我を負った者が多く、見ていて辛かった。
この調子で日が落ちるまで待っていたら、どれだけの人が死んでしまうか?
そう考えると、トードは恐怖を振るい払う様にして、自身を鼓舞する。
このまま黙って見過ごす事など出来ない。
「おい、トード⁉」
突如、トードは立ち上がり、茂みを抜け、更地に居たグイリバナ国の兵士たちの前に姿を現す。
「貴様! 何者だ⁉」
当然のことながら、グイリバナ国の兵士たち、二十人がAKの銃口を向ける。
今にでも撃ちそうなほど、グイリバナ国の兵士たちは鬼気迫る思いだった。
トードは、出来るだけ無力をアピールするかのように、両手を上げ、びくびくしながらも訴える。
「ぼ、僕は医学生です! 医療の知識や技術ならあります! だからお願いします! どうか僕に患者を治療させてください!」
必死に訴えるトード。
ライアは「あのバカ」と切願でもするかのように、トードの身を案じながら怒りを覚える。
「医学生だと? その証拠はどこにある⁉ 貴様がギゼン国の兵士でないと言う証拠は⁉ その肩からぶら下げている鞄の中身は爆弾じゃないだろうな⁉」
にじり寄る様にしながら、徐々にトードに攻めよってくる兵士たち。
いつ撃たれてもおかしくない。
「これは医療パックです!」
そう言うと、トードは肩から背負っている鞄を地面に置くと、両手を挙げながらゆっくりと後ろに下がっていく。
念のためと思い、爆弾処理の兵士が、防護服を身に付け、ゆっくりと、トードが置いた鞄に近付く。
その間、トードに銃口を向けたままだった。
「……確かに爆弾物は見当たらない。ただの医療セットだ」
眉を顰めながら調べていた爆弾処理班がそう認識すると、もう一人の爆弾処理班が、味方に危険はないと手振りで合図をする。
それを確認したグイリバナ国の兵士たちは、ゆっくりとトードに近付く。
「貴様。出身と名は」
「アメリカの医学生、トード・シルビアです!」
いかつい雰囲気で聞いてきた物だから、思わず敬礼をしながら軍人の様に言葉を返すトード。
すると、医療セットを物色していた軍人の一人がニヤリと笑いだした。
「これだけ揃ってれば二割ほどは救える。そいつは用済みだ」
「えっ⁉」
「悪く思うな。たかが一人の医学生で、こちらの戦況を左右させるわけにはいかない。貴様一人の力など、お呼びではないと言う事だ」
狂気じみた言葉で銃口を再びトードに向けるグイリバナ国の兵士。
トードは死を悟った。
間違いなく殺されると。
すると。
「なら二人ならどうだ⁉」
一触即発と言う危機的状況で、茂みから勢いよく現れたのはライアだった。
もちろん、警戒しながらライアに銃口を向けるグイリバナ国の兵士たち。
「こいつもか?」
「確認しよう。貴様! こいつの関係者か⁉」
「ああそうだ! 俺様もアメリカ出身でライアと言う医学生の一人だ!」
「……こいつもか」
思慮深くライアを観察するグイリバナ国の兵士たち。
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