第六章 戦地での治療 七話
兵士が周囲を確認しながら、森の中を捜索しに行った。
「こいつは急いだほうがよさそうだな」
すると、ライアは身を顰めながら、トードの手を引っ張り先導しようとする。
「待ってくれライア。このまま進んでも無意味だ。こんな試験。最初から猛獣の虎の群れに兎を投げ捨てたのと変わらない。僕たちは皆、死んでしまう」
足を止め、泣いてしまうトード。
「はあー。たくしゃあねえな」
ライアは大きな溜息を吐いて、トードの顔に顔を寄せ始める。
しかし、トードは俯いて泣いたまま、何も考えられなかった。
すると、強引に顔を引き寄せられ、なんと、ライアがトードにキスをした。
しかも、長く、濃厚な。
「へ? へ? ライア?」
ようやく唇を放してもらったトードは、顔を真っ赤にし、先程の恐怖が吹き飛ぶ程、動揺する。
「勘違いすんなよ。別にお前に好意があるわけじゃない。こういう絶望してどん底にいる男こそ、女が必要だろ」
キスした事など、何とも思っていない様子のライア、
ニンマリと笑いながら、ただ、トードを慰めるためにキスをしたのだ。
ポカンとしているトード。
「なんだ、これじゃ足りなかったか?」
「えっ⁉ あ、いや、そんな事は……それより、いくなら、行こうか」
首を傾げるライアに対し、トードはとにかく赤面して、あたふたする。
そして、リードされてばかりが恥ずかしく思い、今度はトードが先に進み「行こう。ライア」といつも通りの冷静さを取り戻した。
暫く、息を潜めて歩いていると、ふとしたことを思い出したトード。
「そう言えばライア。さっきの軍の人たちって、ギゼン国の人?」
「十中八九な。こっちを陽動部隊と思っているって事は、攻められる側の価値観だ。だとしたら急いで、グイリバナ国の兵士たちの後ろに着いた方が良い」
「どうしてグイリバナ国の背後に回ろうとするの?」
「あのなあ。普通、戦争ってのは、背後が安全なんだ。敵に攻撃されるのは前線部隊が大半だ。まあ、爆撃でもしない限り、後方にミサイルとか飛ばなければ別の話だ。後方の方が比較的安全で、戦闘が終わる確率の方が高い」
「なるほどね」
ライアの言う通り、戦争とは正面同士で戦うのが一般的。
普通、後方部隊と言うのは安全かつ、戦闘が終わり、負傷者を手当てする介護施設などの設置をも置ける。
だからこそ、こういう時にこそ、医師が必要とされるのだ。
「でもさ、ギゼン国があそこまで僕たちを敵視してるなら、同様にグイリバナ国の兵士の人たちも、似た様な認識を僕たちに向けてくるんじゃ?」
「その時はその時だ。最大限の無力さをアピールして、交渉する。手にしている医療パックを見せれば少しは交渉の余地があるはずだ」
半分は博打。
それを認識したトードは、ここまできたらやるしかない、と言う意気込みで、覚悟を決めた。
そして、グイリバナ国の後方部隊と思わしき、場所に着いた。
もちろん、森林の中で移動していたので、樹木に身を隠していたため、見つからずに済んでいる。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で第六章は終わりです。
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