第六章 戦地での治療 六話
そんなトードの思いを真っ向から否定するライアに、困惑気味になるのも仕方ない。
だが、ライアの話はまだ終わってなかった。
「そうだな。ダージュ先生の弱みを握るとかは?」
「えっ? 弱み?」
「ああ。強者に立ち向かうならそれ相応の準備は必要だ。お前の手持ちのカードじゃ、ダージュ先生の正面に立つのがやっと。ならダージュ先生の弱みを握って少しでも優位なポジションを確保する。ましてや相手は世界を支柱に収めるほどだ。弱者が強者に抗うには、卑怯な手を使うのが、一番合理的だ」
思った事をそのまま口にするライアに、トードは眉を顰める。
「駄目だよそんなの。卑怯な手何て使ったら、それこそ、僕の改革に揺らぎが生じる。正々堂々と、医療で自分の力を証明して、ダージュ先生を超える。それこそ一番合理的で真っ当だよ」
反論するトードにため息が出るライア。
「あのなトード。世の中、綺麗ごとで世を収める人間なんて一人も居ない。必ず見えない不正がある。現実的な話での解決は子供どまりだ。大人になれば、金と権力、地位が物を言う。お前にはそれが何もない。無い奴は、無い奴なりに卑屈で居なきゃ駄目だ。そこまで卑怯な手を使わず改革したければ世界を味方にしろ」
後ろを振り向き、まっすぐな目をトードに向けるライア。
「……世界を……味方に」
揺れ動く言の葉に、トードの意識がぼんやりとし始めた。
誰もが平和や安寧を望むが、それを実現した物はただの一人も居ない。
トードにもそれは分かっていた。
昔のトードの父親も、主治医になるにはとにかく勉強に明け暮れ、実績を積んできた。
町からも信頼が寄せ集められ、だからこそトードはそんな父親を尊敬していた。
トードの中で何かの覚悟が決まったかのように、ぼんやりとした意識が、徐々に縫い合わせられていく。
すると。
ドカーーン!
「「――っ⁉」」
トードたちの近く、森の中から壮大な爆裂音が聞こえた。
ドサ。
何かがトードたちの足元にまで降ってきた。
黒い煙をまといながら、ボトリと落ちてきたものに、注視するトードとライア。
煙が徐々に消えていくと、そこからは。生首が姿を現した。
トードが溜まらず声を上げようとしたその時、ライアがトードの口元を片手で押さえつけ、茂みの中に押し入る様に倒れ込む。
「おい、敵に妙な陽動部隊が居るぞ!」
息を顰めながら、ライアはギゼン国の兵士を、先程爆発した付近から確認した。
その兵士は逼迫した表情で無線でやり取りしていた。
「こちらでも確認した! 武装をしていない白衣を着た十代後半から二十代前半の子供だ。もしかしたらグイリバナ国の兵士の可能性もある。体内か鞄の中に爆弾を仕掛けた特攻隊の可能性もな。確認次第、迷わず殺せ!」
「了解した!」
その会話は、紛れもなく自分たちを指していた。
見つけ次第、殺される。
即ち、トードたちはギゼン国の町に入る事も許されない。
町に言っても、町中の市民に通報され、間違いなく行ったら殺される。
それを実感したトードは、まるで生きる希望を亡くしたかのように、動揺する気力すら失ってしまう。
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