第一章 非道 二話
黙々と、医材や機材の音を立てる音しか聞こえない中、一人の十代後半の若い男性が、緊張のあまり、過呼吸気味になっていた。
それを目にしたウイリーは、どきつい目でその若い男性生徒に近付く。
「貴様。手術の最中に自身のケアすらも出来てないのか? 何様だお前は?」
冷徹な声音で、研修員の生徒を上から睨みつけるウイリー。
「す、すいません」
若い男性生徒は、大量の冷や汗をかきながら、動機に近い症状を押し殺すかのように、必死に手術を始めていく。
しかし、その手は震えていて、至る所の血管を、手で傷つけている事が伺えた。
それを目の当たりにしたウイリーは、酷い溜息を吐き捨てると、なんと、メスを懐から取り出し、あろうことか、その手術台に乗っている、死体の肺に、上から下に勢いよく振り下ろし、メスは肺に深く突き刺さる。
「えっ⁉」
それを眼前で認識した男性は酷く狼狽し、手術していた手を止め、二歩分は下がってしまう。
「さあ、トラブル発生だ。お前はどうやってこの患者を助ける?」
ウイリーは鋭い目でその若い男性生徒を睨みつけながら、既に冷めている声音をぶつける。
旋律が鳴って止まない男性生徒の表情は、まさに絶望そのものだった。
ここでミスをすれば、自分にどんな処罰が下されるか、事前に分かっていたため、それは嫌でも形に現れる。
若い男性生徒は、酷く慌てながらも、急いで、ウイリーが突き刺しているメスが握られている左手をどかそうと、掴み、引き離させようとする。
しかし、ウイリーは顔色一つ変えず、手も微動だにして動かない。
若い男性生徒はとにかく必死だった。
声を上げ、悪寒を感じ、過呼吸を酷くなり、まさに見ていられない状態だった。
「……ふん。落第だ」
ウイリーは冷めきった目で、害虫でも見るかのように若い男性生徒に、なんと右懐から取り出したのはハンドガン。
素早くそれを取り出すと、なんの躊躇いもなく、若い男性生徒の額を撃ち抜く。
「キャア―――!」
若い男性生徒の額から大量に四散する血飛沫。
それを目の当たりにした女性生徒はたまらず、この世の終わりかの様な光景でも見るかのような、壮絶な悲鳴を上げる。
中には、恐怖に耐え切れず、泣く生徒も。
そこで、ウイリーは、またもやとんでもない行動に出る。
「ここまで害虫が張り込んでいたとはな」
再び冷たい声音で、ゴミでも見るかのような目で、恐怖に耐え切れなくなった生徒たちの額や心臓を次々と撃ち抜いていく。
断末魔の様な悲鳴が止んだ頃には、既に他の生徒たちは、必死になって見て見ぬふりをし、手術の練習を再開させる。
その顔は、恐怖や絶望を押し殺すかのように、顔にめいいっぱい力を入れ、引き締める。
だが、中には涼し気な表情を浮かばせる生徒もいた。
まるで、他人事の様に、まるで悲劇など無関心とも思え、ただ手術の事しか考えない、人間性を捨てたかのような生徒も居た。
こうして、今日も、医師になる卵たちを教育する日々が続いていたのだ。
どう考えても異常な光景だが、ブラックバイソンでは、これが日常茶飯事。
何事に置いても、死が付き纏う破格な冷遇。
しかし、この悲惨な出来事は、一市民たちも既知している事。
知っていて尚、称賛される異例の医療機関。
それが今の医学であり、世界。
紀元前の人たちも、まさかここまで狂った医療文明とは、夢にも思わないだろう。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で第一章は終わりです。
次章からも是非ご一読ください。
宜しくお願いします。