第六章 戦地での治療 五話
「そう言うトードは? 何がきっかけで医者になりたいんだ?」
自分だけ情報を口にするのが癪だったライアは、当り前かの様に聞いてきた。
それを聞いたトードは、どこか塞ぎ込むような面持ちになってしまう。
「……僕の父は、医者だったんだ。個人病院を経営していて、田舎じゃ名医だって言われるくらいの腕はあった。けど」
「けど?」
かなりつらい過去になる事を予想していたライアだったが、その先が気になる。
トードは覚悟を決める。
「ダージュ先生が、全ての医療業界を統一し、個人病院も、正式にダージュ先生に認められなければ成り立たない、と通知が来て、父は頭を悩ます日々が続いたんだ」
全世界の病院は、もちろん個人病院も含め、ダージュの管轄になるものだった。
だからこそ、ダージュの許可なく、医者を続ける事が出来ず、トードの父親はある決断をした。
「父がこのままではいけない、と思い、ダージュ先生の許可を貰おうと、直談判しに行った。だけど、ダージュ先生は取り合ってもらえなかった。そこで条件が出されたんだ。「私の許可が欲しければ、私が新たに発行する医師免許を取れ」と」
「その後はどうなった。まさか」
「そう。父はダージュ先生の試験。つまりこう言った戦場に駆り出され、今の僕たちと同じ試験内容で挑んだけど、兵士に撃たれ、殺されたんだ」
思った以上に辛い経緯。
ライアはなんて言葉をかけて良いのか分からなかった。
過去の辛い経験が、今の自分に重なっている事を思うと、トードは奥歯を噛みしめる。
悔しく情けない気持ち。
ただ医者になりたいだけで、何故このような命がけな事を続けなければならないのか?
トードは理解者が欲しかった。
傷の舐め合いでも何でもいい。
だが、ライア自身、それは許せなかった。
うじうじ悩み、傷の舐め合いをするなんてまっぴらだった。
だからこそ、ライアは一旦足を止め、トードに振り向く。
そして、真剣な眼差しをトードに向ける。
「いいかトード。もしその事でお前がこの前、言っていた改革に繋がるなら止めておけ。実際問題、あのダージュ先生は、政府や世界を手籠めにして、今の地位に居る。お前がよほどの才覚であっても、世界を統治するなんて柄じゃない。そもそもそんなこと誰だって不可能だ」
「……じゃあ、僕は、どうしたら……」
俯き涙目になってくトード。
トードはダージュを少なからず憎んでいた。
父親の仇に近い相手。
だからこそ、ダージュを殺すとか、そう言った物騒な話ではなくて、ただ、単に、誰もが安心して医師になれる環境を作り変えたいと思っていた。
その思いでここまで命を懸けてこれたのだから。
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