第六章 戦地での治療 四話
「だからここに居れば安全だ」
「でも、負傷した兵士の治療はどうするんだい? すでに倒れている人が何人も居る」
トードは落ち着かない様子で再び望遠鏡を覗き込み、不安な面持ちになる。
「とにかく、今はグイリバナ国が攻めてきた背後に回り込むぞ」
「え? どうして?」
「後で説明するから。つーかお前、戦略系のゲームとかした事ないのか?」
「うん。そんなことする暇あったら勉強するし」
呆れるライアに怪訝な面持ちを向けるトード。
そして、トードとライアはグイリバナ国の兵士が侵攻してきた背後に回り込もうと、草木をかき分けながら進んでいく。
「ねえライア。君はどうして外科医や医者を目指しているんだい?」
草木をかき分けながら、爆音や発砲音を聞くだけが堪えられなかったトードが、ふと聞いてみる。
「俺か? まあしょうもない話だよ。ネムイ要るだろ?」
「うん。それがどうしたの?」
「実はさ、ネムイは腹違いの妹なんだ」
「えっ⁉」
少し暗い面持ちで口にするライアに一驚するトード。
「俺様が医者を目指したきっかけは、ネムイがそう望んだからだ。昔、小さい頃、ネムイが足をすりむいて泣いてた所を、俺様が処置してやったんだ。その時の手際が凄かったのか、あいつは俺様に医者になって世界を救える人になるよって、誇らしげに周囲に語っていた。それが俺様には微笑ましくて、嬉しくて、ついネムイに将来姉ちゃんは医者になるなって、言い聞かせてきた。けど、物事には障害がつきものだ」
「何があったの?」
空気が重苦しくなるにつれ、トードはライアが並々ならぬ事情があるのでは? と察した。
「ネムイの実の母親が病気で亡くなったんだ。当時、その頃、俺様は医学生だった。ある程度、知識と経験を積んできたから、ネムイはそんな俺様だったら治せる。そう言って俺様に頼み込んできた。けど、ネムイの実の母親はステージ四の末期のガンだった。それでも俺様に縋り付いて頼んできた」
過去を悔やむ様に涙目になり始めるライア。
「結局、俺様は無力のまま、誰も救えなかった。それに落胆し、絶望したネムイは、俺様を切り捨て、自分で全てを救える医者になりたいって、言って医学の道に歩き始めた。俺様も、それが堪えられなくなって、家を出て、ファミリーネ―ムを少し改名して、医者の道を進んでいるってわけだ」
「……そうだったんだね。ごめん。嫌な話させて」
「はあ? 何言ってんだ。俺様の文字に辛いなんてねえ。いずれ、ネムイの心の病も直す。そんでもって患者は全て救う。それが俺様の夢だ」
揶揄う様な笑みで、重苦しい空気を拭き飛ばすライア。
改めて、ライアが立派な人だと再認識したトードは、どこか誇らしく思えた。
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