第六章 戦地での治療 三話
そうこうしている内に、ギゼン国の入り江に辿り着いたトードたち。
その間、一人ひとりに医療パックがぎっしり詰まった鞄を手渡され、肩からかけるトードたち。
ちなみに食料などの配給は一切なし。
現地調達でしか補給できない。
「十分ごとに出席番号順に国に入ってもらう。まずはイム・アインツ」
イムはこわばった面持ちでトードたちと別れを告げようとするが、ただ「行って来るわ」と言葉を残し樹木の森へと入っていく。
今回の卒業試験での医学生の人数は、三十名。
次々と名前が呼ばれ、全員がギゼン国へと不法侵入した。
それを見届けたウイリーは、武器などの手入れをし始める。
仮に受験生たちがルールに則らず、違反したための処罰の準備だ。
つまり殺す事。
それはトードたちに取っては、普通に死ぬ事より恐怖するものだ。
自衛隊からは攻撃され、逃げようとするものならば、ウイリーが殺しにかかってくる。
ギゼン国に入る前、煙草や酒を吸ったり飲んだりしたが、その安らいだ気持ちなど、既に露と消えていた。
トードはまず、戦場のど真ん中に行くと言うよりも、国民たちが居る建物がある付近に移動しようとしていた。
建物の近くに居た方が、攻撃されそうなときは遮蔽物があった方が良い。
それに町に行けば、食料や水にありつける。
侵入した場所の樹木の森を抜けると、荒廃した更地や崩れかけている建物が見える。
そこからは銃声も聞こえてきた。
一旦、森に身を隠し、持ってきた望遠鏡で更地や崩れかけた建物など、入念に見ていく。
すると、岩や建物の陰に隠れながらは銃を撃っている敵兵を四名発見した。
敵兵が撃っている先にも、似た様な形で物陰から隠れては撃っている兵たちが居る。
それが至る所で起きている。
国の中心地に行くには、戦場を駆け抜けなければならない。
しかし、丸腰な上、防弾チョッキなどの護身になる様なものは一つも身に付けていない。
そんな場所を通り抜けるなんて自殺行為も良い所だ。
トードたちには敵も味方も居ない。
それを思うと、竦んで足が動かなかった。
「おい」
「うわっ!」
すると、不意に背後から肩に片手を置かれ、一驚するトード。
「落ち着け、俺様だ」
「なんだ。ライアか。脅かすなよ」
なんと、森に潜んでいたのはトードだけではなかった。
「たく。最初からそんなに足をガクガクさせてたら、一週間も持たないぞ」
「実際、現地に来てみると、想像していたのと違いがありすぎて」
ライアは落ち着いて喋るが、トードは今にも逃げ出したくなるような思いで口にする。
「安心しろ、今の所は俺たちしかこの森には居ない」
「ん? 俺たち?」
ライアが軽くトードの背中を叩き、元気づけようとする。
意味深なライアの言葉に首を傾げるトード。
「ああ。みんな知ってるのさ。森などは兵が隠れるには打ってつけだが、それはあくまで作戦開始前の下準備の段階の話だ。実際、戦が始まれば、嫌でも敵の懐に潜り込んで武器を振るうのがセオリー。だからここまで派手に戦争が始まっても、姿を現さない軍人は一人も居ないだろう。そんな怯懦な人間は敵前逃亡と見なされ、その出身国では言い笑いものにされる。軍人何て大半は勲章を渇望するものだしな。自分の誇りに泥を塗る奴なんて敵兵ぐらいさ」
「……なるほど」
ライアが流暢に語ると、トードは眉を顰め納得する。
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