第六章 戦地での治療 一話
そして、一か月後、ついに最終試験が行われるため、トードたちは、船である島に向かっていた。
「……いよいよか」
「ああ。ここからが本番だな」
トードが船尾で儚げに言うと、ライアが自分の拳を手の平に叩きつけ気合を入れていた。
その前日。
トードたちは研修室でウイリーの最終試験内容に、真剣に耳を傾けていた。
「いいか。今回の試験会場は、群島だ。群島と言っても一つの国であり、一つの戦地。そこで、貴様らには、戦争中の国、ギセン国でゲリラ部隊として配属する形になる。ゲリラ戦闘員なため、ギセン国とグイリバナ国の自衛隊員から敵視され、攻撃される運命にある。その中で一週間生き延びながら、負傷した兵の治療に当たれ。ただ生き残るだけではなく、治療、オペ、薬の投与なども、合否の判断になる。言われるまでもないと思うが、貴様らの行動は、AIによる監視衛星で監視される。逃亡などで違反した時点で、落第。私が速やかに処刑しに行く。肝に銘じておけ」
「「ウイッウイー!」」
ウイリーの口からとんでもない試験内容だが、これは既に予想されていた事。
ブラックバイソンの医師や外科医になる最終試験は、必ず、戦地に向かうと言う、異常な試験内容。
二千三十年頃、ある新国家が誕生していた。
ギセン国とグイリバナ国。
この国は、どちらも独裁国家で、常に反目する中なのだ。
誰もが戦争が起こる事を予想していたが、新国家誕生をしてから、一カ月もたたない内に戦争とまで発展してしまった。
どちらの大統領もアジア人で、傍若無人な性格、自己愛も強く、金と地位、権力で人工島を作り、真似た相手が気に食わないと言うシンプルすぎる理由で戦争になっていた。
しかも隣国で、自分たちの国の領土がどこまでがどこまでなのか? と言う言い争いまでも起きていた。
軋轢となり、どちらも、一カ月も満たない国の力同士で戦争が行われるという事。
自衛隊の育成は勿論、警察などの国家権力の育成もままならない状態で、戦争するというものだから、他の国の首脳たちは呆れて、好きにやってくれと言う状態。
もちろん、ギゼン国やグイリバナ国にブラックバイソンクリニックの施設はまだ建設途中なため、医者や看護師も不足している。
まだ一カ月も経たず、自国の予算や決算の財政、人口や栽培の確保、他の国との情勢による多他の締結、衛生問題、人員による育成不足など、まだまだ問題点が山積みだった。
国を作ると言う、主権、海や空を含む領土、統治される国民の三要素と他国からの承認、実質的に国家を成立させるには、国連による承認など最低限な事しか成立できていない。
なので、ギゼン国とグイリバナ国は、互いにその領土と人員を奪い、発展のための礎にしようとしているのが本音でもあった。
蹂躙し、吸収し、再建する。
それが、ギゼン国とグイリバナ国の狙いだった。
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